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「百貨店とスーパー」の数字で語られる消費統計と報道の歪み

2017年05月18日 06時00分更新

文● 森山真二(ダイヤモンド・オンライン

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最近、企業の経営者を取材して「景気の動向」を訪ねると必ず戻ってくるのが「まだ、消費がよくなっていないからね」という言葉。消費がよくなっていないから、雇用者数は増えても景気に反映されていないという論調だ。しかし、消費は本当に悪いのだろうか。企業の経営者の多くは政府が発表している統計を「拠り所」にして消費の動向を見ている。その集計の仕方に問題はないのか。旧態依然としていないか。疑問点はあまりにも多い。(流通ジャーナリスト 森山真二)

百貨店やスーパーの売上高を見ても
消費の実態はわからない

 イオンの岡田元也社長は「百貨店やスーパーなどという業態の数字を見ても、これでは本当の消費の実態は分からない」と話す。

 例えば百貨店。ピークの1991年の9兆7130億円以降、業界全体の売上高は減り続けており、2,016年には5兆9780億円と、ついに6兆円を割り込んだ。スーパー、コンビニエンスストア業界の売上高にはとうに抜かれ、さらに最近ではドラッグストアの15年売上高である6兆1325億円(日本チェーンドラッグストア協会調べ)にも負けている。

 百貨店が高額品から食料品まで、買回り品から最寄り品まで幅広い商品を扱うという特性があり、統計採用に都合がよかったにしても、この市場規模で本当に消費の指標になるのか、極めて疑わしいのである。

 実際、日本百貨店協会の近内哲也専務理事は「これ以上縮小すると、(百貨店としての)成立が難しくなる」と話しているが、それ以前に消費市場全体に占める百貨店の割合も縮小している今、景気指標の一つとして統計採用の意味が希薄化しているのである。

 もう一つの重要指標であるスーパー。こちらも16年度(15年4月から16年3月まで)の売上高は前年比1.6%減の13兆426万円だった。こちらも97年の16兆8635億円をピークにすでに3兆円以上、減り続ける市場である。

 チェーンストア協会に加盟しているのは総合スーパーだけでなく、食品スーパーも入っており、ピーク時に120社以上の加盟社があったが、いまや57社。

 セブン&アイ・ホールディングス傘下のイトーヨーカ堂やイオンの総合スーパー事業の苦境を見ればスーパーの数字を指標として活用するのも、いかがなものか考えさせられてしまうのだ。

 しかし、毎月、日本百貨店協会によって発表される百貨店の売上高をマスコミも重宝しているのが現状である。キチンと統計数字をレク付きで発表してくれるのは日本百貨店協会とスーパーの業界団体である日本チェーンストア協会しかなく、マスコミ各社もこの数字で消費動向の報道をするしかないのが現状である。

消費者はネット通販に流れている
それなのに反映されていない

 百貨店での消費が減り続け、スーパーでも、衣料品や日用品をそれほど買わなくなっている現在、消費者は一体どこに流れているのか。それは周知の通りネット通販である。

 経済産業省の発表によると、16年のBtoCのEC(消費者向け電子商取引)市場規模は15兆1000億円(前年比9.9%増)だった。15年に比べて一段と増加、今後の加速度的に伸びていくのはもはや明確で、一般消費者向けEC市場は一般消費財の市場で最大になっていると見られている。

 もちろん、統計は継続性が大事であり、いったん採用したら継続して集計していかなくては時系列で消費をとらえることができないから、百貨店を消費の指標から外すことは簡単ではないと見られている。

 しかし、一刻も早く、EC市場や拡大しているドラッグストア市場、さらに7兆円前後の市場規模といわれている家電量販店の動向を消費統計にキチンと反映させないと、いつまでたっても先細りの百貨店の数字が消費の指標の一角を占めていることは明らかにおかしく、消費実態は「歪んだ形」でとらえられていくのである。

 しかしながら、ようやく最近はコンビニエンスストアの売り上げも集計するようになっているが、依然として各地の経済産業局の管内の経済動向や、各地区の財務局による経済情勢分析でも地元の百貨店やスーパーの動向しか見ていない。

 いずれにせよ、ネット通販の数字は一向に反映されていないのである。役所は経済状態的に大きな転機の際には統計構成の要素を見直すらしいが、それはまさに「今でしょ!」だ。

 ある地方の経産局長にして「(スーパーと百貨店、コンビニで構成された)消費動向では意味がなくなっている」と苦笑しながら話すように、役人も統計の収集、構成の仕方に疑問を抱いているのは確かである。

消費の実態を表していない!?
総務省の「家計調査」

 これまで売る側からの消費動向を見てきたが、個人消費を把握する上で重要な役回りなのが総務省による「家計調査」だ。家計調査は標本統計で、全国約5300万世帯のうち、わずか8000世帯である。統計的にはこれで有意の数とされる。

 また対象となっている2人世帯以上の世帯といっても、専業主婦世帯と有職主婦世帯の比率が逆転してすでに久しいのに、調査に手間がかかるためか時間に余裕のある専業主婦がいる世帯や高齢世帯にサンプルが偏っているといわれており、消費の実態を表していないという指摘もしばしばされている。

 四半期ごとに発表されるGDP(国内総生産)だって、こうした家計調査、さらにスーパーや百貨店を主体とした消費動向の統計をベースに算出されており、果たして本当に、消費のとらえ方はこれでいいのだろうかという気がする。昨年の消費税10%の引き上げ先送りも、個人消費の停滞ムードを一つの理由としていたのは記憶に新しいところだ。

 百貨店はすでに6兆円割れの状態、一方でドラッグストアが身近な業態として消費の場に明確になっているし、ネット通販はアマゾンジャパンを始めとして市場が年々急速に拡大している。

 サービス産業とて侮れない。家事代行やクリーニング、さらにエステティック、旅行、学習塾、結婚紹介サービス業など続々と新サービスが輩出されており、こうした市場の消費をどうとらえればいいのか。しかも有職主婦の増加にともなって外食比率も上がっており、外食産業市場も堅調に推移しているのである。

 お題目のように最近は節約志向、節約志向と報道されるが、本当にそうだろうか。消費者は旺盛に消費をしているのではないか。しかも最近はインバウンド(訪日外国人)の消費約3兆7000億円程度が国内消費市場にプラスオンされているのである。

 消費の実態を正確に、精度高くとらえていかなければ、重要な政策判断を誤ることにならないか――。


※本記事はダイヤモンド・オンラインからの転載です。転載元はこちら

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