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三越伊勢丹HD「1億かけて1銭の利益も出ない催事」が象徴する苦境

2017年05月15日 06時00分更新

文● 週刊ダイヤモンド編集部(ダイヤモンド・オンライン

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決算発表記者会見の後、群がる記者の前で語る杉江俊彦社長 Photo by Kosuke Oneta

「お話しするのも恥ずかしいが、1億円のコストをかけて、1銭の利益も出ない催事を一生懸命やっていた」――。

 大西洋前社長が3月に突如辞任し、混乱が続く百貨店業界の雄・三越伊勢丹ホールディングス(HD)。後任の杉江俊彦社長は5月10日、2017年3月期決算の発表記者会見で、基幹店である伊勢丹新宿本店、三越日本橋本店と銀座店の3店について「コストコントロールが全くできていなかった」と指摘。冒頭の発言は、その一例をあけすけに説明したものだ。

 自嘲的な発言が口をついて出てしまうのも無理はない。中国人観光客の“爆買い”需要が去り、同社の17年3月期の連結売上高は2.6%減の1兆2534億円、純利益は43.5%減の149億円となったからだ。

 一方で、大丸・松坂屋を擁するJ・フロントリテイリングは、17年2月期決算で減収となったものの純利益は増益に、高島屋も減益ながら純損益のマイナス幅は12.4%減にとどまるなど、三越伊勢丹HDの不振ぶりが際立つ。

 こうした決算を受けて杉江社長は、14~16年度の中期経営計画の目標値がほとんど全て未達に終わった「大西路線」を全否定し、大きな転換を図ると明言した。

 在庫リスクを自ら抱えて独自商品を開発したり、メーカーと共同開発して販売し利益率を高める「仕入れ構造改革」。顧客との接点を増やすとして進めた中小型店「エムアイプラザ」「イセタンサローネ」の展開…。大西前社長が華々しく打ち出した新機軸は、たびたびメディアを賑わせてきた。

 だが杉江社長は、仕入れ構造改革について「利益貢献額は目標値を上回ったが、改革に要したコストを含めればマイナスの可能性がある」と負の側面を挙げ、中小型店の展開については「ビジネスモデルを確立する前に店舗数を拡大してしまった」として見直す方針を強調。特にエムアイプラザについては、新規出店の原則凍結を打ち出すなど、大胆に見直す考えだ。

 加えて、大西前社長が、顧客離れが止まらない百貨店事業に代わる成長事業として進出を決めたエステや旅行、外食事業については、「百貨店補完ビジネス」という位置付けに後退させたほか、早期退職の退職金割増額をさらに増やし、業界内で割高と言われる人件費を圧縮する考えを示した。

 こうした方針転換について杉江社長は、「従業員とひざ詰めで話し合った」と述べ、まずメディアに方針を語って既成事実化してから社内に通達するトップダウン型の大西前社長との違いを何度も強調して見せた。

もはや周回遅れ?

 ただ、今回、未達に終わった中期経営計画は、杉江社長が当時、経営戦略本部長として大西前社長とともに策定したもの。社長就任時の記者会見でも「計画の立案には私も携わった」と明言している。

 杉江社長は、不採算事業の見直しを後回しにして成長事業を優先していた大西前社長に対し、「自分はコストカットに最優先に取り組むべきだと訴えていたと」主張するが、「なぜ計画策定時ではなく、今になって全否定するのか疑問は残る」と指摘する百貨店関係者は少なくない。

 また、リストラと、基幹3店舗を始めとする本業である百貨店事業の収益力強化を打ち出した杉江社長だが、その前途は多難と言わざるを得ない。

 リストラについては、大西前社長もコストカットに手をつけなかったわけではない。それなりに進めようとはしてきたが、労働組合や、社内の抵抗勢力が反対してきたといわれる。3月に三越の千葉店と多摩センター店、そして高崎店を閉店したものの、今後さらなる不採算店舗の閉鎖は不可欠。しかし、店舗閉鎖には抵抗が強く、その実現には相当の困難が予想される。

 また、百貨店事業の収益力強化の道筋も見えない。同業他社はここ数年、不振の本業をカバーするため、さまざまな工夫に乗り出している。

 たとえばJ・フロントは、4月に「GINZA6」をオープンさせたように、テナントを入れて賃料を稼ぐ「不動産業」に力を注ぎ、景気や消費動向に左右されず、収支が安定しやすいビジネスモデルへの転換を図っている。また高島屋は、ショッピングセンターなどの店舗開発で稼ぐ関連会社を育てて収益をカバーしている。

 対する三越伊勢丹HDは、競合他社と比べて“周回遅れ”の感は否めない。その対策として、大西前社長は旅行やエステなどの会社を買収し、収益源の多角化を図ろうとしてきたのだ。

 もっとも中計の達成度や業績を見れば、大西路線の成果には確かに疑問符が付く。杉江体制に入り、その問題点の洗い出しがようやく始まったわけだが、かといって明確な成長戦略があるわけでもない。立て直しに残された時間は、決して多くはない。

(『週刊ダイヤモンド』編集部 岡田 悟)


※本記事はダイヤモンド・オンラインからの転載です。転載元はこちら

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