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人工知能のコア技術を持つベンチャーはなぜ富士通とタッグを組んだのか

独自開発の機械学習フレームワークを展開するGRID

連載
富士通アクセラレータプログラムで何が起きたか

ベンチャーと大企業での理想的なイノベーションはどのようにして起こるか。「富士通アクセラレータプログラム」を題材に、参加ベンチャーの声をもとに協業現場の最前線を聞いてみた。

 4月18日、ベンチャーと富士通がAIサービスの共同開発で協業するリリースが発表された。富士通によるオープンイノベーション取り組みの一環である、「MetaArc(メタアーク)ベンチャープログラム」の第3期における成果の1つとして、株式会社GRID(グリッド)との新サービスの共同開発を行うというものだ。

 グリッドは太陽光発電を中心とした再生エネルギー開発をメインに据えて、2009年に創業したベンチャーだ。太陽光パネルメーカーとしてビジネスをスタートしたが、現在では太陽光発電での発電所開発やマネジメント事業などを行なっており、ミドルステージと言える規模となっている。

 そのようなクリーンエネルギー事業と並行して同社が力を入れているのが、人工知能(AI)やIoTの新事業だ。とはいえ、中堅のベンチャーがただ流行りに合わせてサービス・ソリューションを作っているわけではない。

 同社が提供するのは、機械学習/深層学習のフレームワーク。GoogleのTensorFlow(テンソルフロー)やPreferred NetworksのChainer(チェイナー)などと並んで、同社で独自開発した機械学習/深層学習フレームワーク「ReNom(リノーム)」を展開する。

 電力自由化など世の中の動きが変化するなかで、もともと自社で保有している太陽光発電所の発電量予測に自分たちが持つ技術が使えないかと模索した結果生まれたのがReNom事業だ。

大手企業であっても、対応できるプラットフォーム基盤を持つところは少ない

GRIDの中曽根綾香氏

 「機械学習から得られる結果に手応えを得たので、この技術を社会インフラ分野に応用できるのではないかと考え、AI事業部が2015年末に立ち上がりました」と語るのは、現在GRIDで同事業を担当する中曽根綾香氏。同社での富士通アクセラレータプログラムも担っている。

 ReNom は2016年5月に開発版がリリースされ、現在では実際の利用も始まっている。ReNomを使用した機械学習による事例は各種展示会での評価も高く、渋滞予測など他ジャンルにも転用できる汎用的技術基盤で、実際にパートナーを得て、事業としてつながる結果を得ているという。

 そもそもSaaS型のサービスとして、クラウドやIoTプラットフォーム上での提供を目指すReNomは、同社が富士通アクセラレータプログラムへ参加したきっかけとしては十分すぎるほどにわかりやすい。

 「富士通さんは長年培われてきたハードウェアの基盤技術があり、その上でZinraiを発表されて、今、AIに非常に力を入れています。人工知能の分野において、この2つの技術の融合は非常に重要で、一緒に協業する事に、大きな可能性を感じました。」(中曽根氏)

 機械学習という流行り以上にその実力も評価されていたGRIDには、すでに複数の大手企業からの声がけがあった。だが、領域での親和性やGRIDが求める基盤、そしてクラウド対応などのすべてを備えていたのが、富士通だったという。

 自社が持つ技術であるReNomを広げていく部分で、富士通アクセラレータプログラムへの参加は大きなチャンスと映った。2016年9月にGRIDはエントリーを行なった。

大企業の事業部とベンチャーが共同でプレゼン

 GRIDと富士通は、2つの案件について、協業合意している。

 1つが富士通の顧客に対するデータ解析ツールの1つとして、「ReNom」を使っていくこと。もうひとつが、富士通がもつAI技術のプラットフォーム「FUJITSU AI Solution Zinraiプラットフォームサービス」上に「ReNom」を活用したAIサービスを展開していくというものだ。たとえば、異常検知や予測などに特化したソリューションを想定しているという。

 ベンチャー側がもともと求めていた構想にはまっているように見えるが、そもそも手を挙げたのは富士通の事業部側だった。

 同社のアクセラレータプログラムでは、事業部担当者が直接ベンチャーと面談を重ねていく。ここに至る前には、社内の事業部から「このベンチャーと組みたい」という意思を確認しているという。第三者としてアクセラレータプログラム担当部署も面談にファシリテーターとして参加することで、打ち合わせや具体的な情報の交換が非常にスムーズに進んだと中曽根氏は語る。

 最終のプレゼン審査となるデモデイでは、協業を模索していた富士通のAIサービスを提供する事業部の担当者が共同でピッチを行なった。富士通のような巨大企業では、事業部ひとつひとつが独立した会社のような規模のため、全社横断的にアピールすることが難しいが、横串でのプラットフォームをベンチャーの技術力で強化するという点で、組み方としては非常にシンプルになる。

 共同リリースも発表したとはいえ、ビジネス面での具体的な創出はこれからであり、まずは実証実験を重ねていく段階だという。

問われるのは実績の積み重ね

 アクセラレータプログラムをきっかけに、新しいビジネスの芽を育て始めているGRID。しかし、ベンチャーと大企業の提携、協業には難しいことも多い。それがうまく進んでいる理由を聞いてみた。

 「1つはAI開発のためのコア技術を自社で作っているということがあると思います。自社開発のため、アクセラレータープログラムに参加する前から、自分たちで実装し、実績を蓄積していたことも大きいです」(中曽根氏)

 プログラム参加後の現在、PoCも含めて50以上の開発の実績を「ReNom」で積みあげてきたというGRID。この事例の多さも富士通からの高い期待を持たれている。

 本件は、ベンチャーが持つコア技術と、大手IT企業が持つネットワークやプラットフォームが組み合わさった事例といえる。AIというトレンドに乗ったことで、さらに多くの可能性が広がって行きそうだ。

中曽根氏が、参加したことのメリットを感じたのが、書類審査を経た直後。「富士通さんだけでなく、こういったイノベーションに興味があるほかの大手企業さんも含めた面談審査がありました。また、その後の懇親会もサービスについてアピールできる機会となりました」

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