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TPP「離脱で米経済13兆円下振れ」試算で米国の再接近も?

2017年05月08日 06時00分更新

文● 週刊ダイヤモンド編集部(ダイヤモンド・オンライン

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4月29日で“ハネムーン期間”を終えたトランプ米大統領だが、主要な政権公約に進捗が見られない異常事態に陥っている。とりわけ日本の産業界の関心が高い、経済連携の最新の試算に着目した。(「週刊ダイヤモンド」編集部 浅島亮子、竹田幸平)

「米国の再参加にいちるの望みをつないでいる──」。ある経済産業省幹部は言う。TPP(環太平洋経済連携協定)の行方は、日本経済や日系企業に与えるインパクトが強いだけに、産業界の関心が高まっている。

 ドナルド・トランプ米大統領が就任早々に離脱を表明後、一時はTPPの“空中分解”が危ぶまれた。だが、米国内で政権運営の巧拙が評価される「大統領就任後100日」が迫った4月下旬、日本は方針転換をした。表向きは、「米国込みの12カ国成立」に固執することをやめ、米国抜きでもTPP実現を目指すことにしたのだ。

 だが、その裏には米国のTPP再接近に賭ける日本側の目算が透けて見える。

 実は、TPP離脱を決めた米国にとって“不都合な真実”となる最新の経済効果の試算がある。そこで明らかにされたのは「TPP離脱こそ米国経済を大きく下振れさせる」という何とも皮肉な結果。裏を返せば、米国がTPP再参加を検討してもおかしくない“状況証拠”にもなり得るといえる。

 世界的なEPA(経済連携協定)研究組織で共同議長を務め、TPPなどの試算に関する国際議論を先導する川﨑研一・政策研究大学院大学特任教授。同氏が今年新たにはじき出したその試算には、これまで米国の政策決定に影響力を及ぼしてきた有力シンクタンク、米ブルッキングス研究所も関心を寄せているという。

 試算の結果を基に、昨年の日米のGDP(国内総生産)からTPPへの経済効果の金額を概算値で示したのが下図だ。

 TPPによる経済効果は、関税削減と、それ以外の投資や知的財産といった非関税障壁の分野の大きく二つに分けられる。両方を足した米国への経済効果を見ると、TPPに参加すれば日本円ベースで16兆円程度の恩恵が見込めていたはずなのに、離脱によって3兆円弱まで縮小することになる。

 TPP離脱が米国経済の下振れにつながる理由の一つは、例えば参加国であるオーストラリアの安価な農産品などが関税削減によって域内でシェアを高め、米国に逆風となることが挙げられる。逆にオーストラリア側からすると、米国が離脱した方がTPPからの経済効果が大きくなるという関係にあるのだ。メキシコやチリも、関税面では米国離脱シナリオの方がそれぞれの経済にプラスに働く。

 世間ではこうした関税の動向に関心が向きがちだが、グラフを見れば分かるように、関税以外の分野の方が、経済効果や離脱時の下振れへの影響が大きい。識者が指摘するように、先進国同士では既に関税は低く、自国内の経済構造改革などを含む非関税分野の方が、各国ともGDPに与える影響が相対的に大きくなる。

 最新の試算をベースに考えると、トランプ氏は“米国第一主義”を旗印にTPPからの離脱を決めたものの、それこそが米国経済の競争力を弱める矛盾に陥っている。トランプ氏は「TPPが雇用を奪う」と訴えていたが、これといった定量的な根拠が明確に示されてきたわけではなかった。

 TPP離脱と引き換えに、米国は日本と2国間FTA(自由貿易協定)を結ぶ方針を示し、4月半ばには「日米経済対話」の初会合を開いて協議を始めた。

 だが米国への経済効果を考えると、実際に進行中の「TPP離脱+日米2国間FTA」シナリオは、当初の「12カ国TPP」に遠く及ばない可能性が高い。米国にとっての主要な輸出先は日本ではなくメキシコやカナダであり、対日交渉で条件を詰めても、TPPに比べればパイが小さくなると考えられるからだ。

 トランプ氏の誤謬はこうした点にとどまらない。TPPそのものとは別の話だが、同氏が掲げてきた中国とメキシコとの貿易で高い関税をかける方針も、実現に至れば米国のGDPを大きく損なう。

 では、米国が抜けた11カ国による「TPP11」が実現した場合の日本への影響はどうなるのか。試算によれば、「12カ国TPP」に対し8割程度の経済効果が見込め、米国ほど“痛手”を負うわけではない。むしろ、2国間FTAの交渉が深掘りされて、TPPより関税撤廃の範囲が広くなる可能性すらある。そうした点を踏まえると、日本の場合、「TPP11+日米2国間FTA」と、当初の「12カ国TPP」の経済効果では、さほど大きな差は生じない。

あんこ抜きあんパンの狙い

 とはいえ、そもそもTPP成立には「域内のGDPの合計が85%以上を占める6カ国以上」との要件が課され、GDP世界一の米国が離脱すれば、本来的に成立し得ないものだった。技術的にはTPPの条文を変更することでクリアできるものの、ある国内シンクタンクのエコノミストは、米国不在のTPPを「あんこのないあんパンのようなもの」と言い切る。

 また、日本政府はかねてTPPに、経済効果のみならず「アジア・太平洋地域の安定にも寄与する」(安倍晋三首相)という安全保障上の役割も担わせようとしてきた。そのため、日本としては米国がTPPに参加してくれるならば、それに越したことはない。

 「パン(『TPP11』)が口を開けて待っていれば、再びあんこ(米国)を入れ込めるチャンスがある」(前出のエコノミスト)だけに、日本政府は、まずは11カ国でのTPPの実現に道筋をつけておき、米国の再参加に望みをかけておくのが得策と考えているのだ。

 また、「TPP11」に関しては、米国が表向きTPPの「永久離脱」を宣言した手前、米市場へのアクセスと引き換えに国内規制改革に踏み込んだベトナムやマレーシアが成立に難色を示しかねないとの指摘もある。こちらの交渉とて、一筋縄でいくわけではない。

2国間FTAにもメリット

 一方で、政府関係者の間では、「本音では米国込みTPPにしたいが、仮に米国との2国間FTAになっても構わない」(別の経産省幹部)という現実的な考え方も浮上している。2国間FTAの方が、トランプ氏が強く主張している“貿易不均衡の解消”を実現しやすいからだ。

 どういうことか。種を明かせば、「日本が米国から石油・天然ガスを大量に買えばよい」(同)というもの。米国からのエネルギー輸入を増やせば、日本は輸出を減らすことなく、農業の規制緩和など身を切ることもなく、貿易不均衡を解消できるのだ。

 一見、暴論のようだが根拠もある。これまで米国はシェールガス・オイルを戦略物資と位置付け、原則輸出しない方針を貫いてきた。オバマ政権時代には一部、輸出が認められるのみだったが、トランプ氏は「関連産業の活性化につながるため積極的に輸出してゆく方針」(政府関係者)だという。

 新政権誕生から100日の「ハネムーン期間」が過ぎたにもかかわらず、通商政策を筆頭に主要8分野の政権公約のほとんどに進展が見られない。政権運営を担当する主要人事すら固まっておらず、個別の政策論争をする段階に至っていないのが実情だ。

 予測不能なトランプワールドではあるが、トランプ氏が「ディール(取引)」を好むビジネスライクな一面を持つのは確か。TPPにせよ、2国間FTAにせよ、米国に帰する利益が最大化される道を選ぶことになるだろう。


※本記事はダイヤモンド・オンラインからの転載です。転載元はこちら

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