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生産率69%向上も、「ガートナー ITインフラ&データセンター サミット 2017」リポート

「昭和の町工場」が独自IoTシステムを開発、生産性を改善するまで

2017年05月02日 07時00分更新

文● 鈴木恭子 編集● 大塚/TECH.ASCII.jp

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生産率69%向上&増設投資1億4000万円の削減に成功

 こうして収集/可視化されたデータは、改善サイクルを回すことに大いに役立っていると黒川氏は語る。「例えば、稼働率は85%だと信じていたが実際は70%だったり、サイクルタイムが作業工程機器のメンテナンス不備で長くなっていたりといったことが判明しました」(同氏)。

 こうした課題を1つずつ改善することで、生産性は大幅に改善した。例えば、牽引フック(車載部品の一部)の切削工程で、サイクルタイムを9秒短縮したことで、1時間あたりの生産個数は107個から180個へと増加し、生産率を69%向上させた。これにより、当初予定していた2ラインの増設投資1億4000万円を削減できたという。

 成功要因の1つとして黒川氏が挙げるのは、「取得するデータの種類を欲張らなかったこと」だ。「生産性向上を目的に絞ったため、生産状況(個数)/停止時刻・時間/サイクルタイムの3種類しか取得していません。目的が明確であれば、データの種類は必要ないのです。データの種類を絞ったことで、低消費電力なシステムが実現し、現場からも(シンプルで)見やすく使いやすいと好評です」(黒川氏)。

 なお、現在利用しているシステムは、レッドハットと協業して開発を進めたという。その理由について黒川氏は、「レッドハットの人が素人の質問にも丁寧に回答してくれたこと、さらにDevOpsの考え方が、自社の開発スピードに合っていたこと」だと説明する。

 「システム開発時にきちんと要件定義をするのではなく、トライ&エラーで開発を進められる環境が社風とマッチしていました。われわれはシステム開発に関しては素人集団です。実際、実施した施策の7割は失敗していますが、すぐに頭を切り替えて次の施策に着手できる環境に助けられました。また、開発したものをすぐに自社のラインで利用することで、迅速な開発が実現できたのです」(黒川氏)

生産性向上改善例(出典:i Smart Technologies)

 「IoTの導入は『目的』ではなく『手段』です。日本の多くの中堅・小規模製造業は、生産性向上の余地は大きいと考えています」と木村氏は語る。

 今後、i Smart Technologiesは「iスマートあんどん」の販売と同時に、中堅・小規模製造業の課題解決支援事業も手掛けていく方針だという。

 「例えば、私や黒川が出向いて作業をすれば、一時的には課題解決になるでしょう。しかし、製造業の現場は、しばらくすると別の課題が出てきます。そのときに御客様自身で課題解決できるようになっていただきたい。一過性でない支援をするスキームを考案中です」(木村氏)

 最後に同氏は、「AI(人工知能)が製造現場に入り込むことで、人間の仕事を奪うのではないかとの懸念が聞かれます。しかし、AIでできてしまう作業を人間が頑張ってもしょうがないのです。人間はAIができない付加価値の高い仕事をすればよいのです」と語り、講演を締めくくった。

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