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コンビニ無人レジ化の近未来、バイト・パート需要が激減!?

2017年04月26日 06時00分更新

文● 森山真二(ダイヤモンド・オンライン

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経済産業省が進める「コンビニ電子タグ1000億枚宣言」にセブン-イレブンやファミリマート、ローソンなど大手コンビニが合意した。いわゆるICタグを使い、無人レジのコンビニやサプライチェーン全体を効率化したりするという取り組みが進められる。決済不要の米アマゾン・ドット・コムの「アマゾン・ゴー」も真っ青のコンビニ電子タグ宣言。果たして流通にとってバラ色の未来を開く“魔法のチップ”になるか――。(流通ジャーナリスト 森山真二)

経産省の「旗振り」と
「アマゾン・ゴー」の脅威が背景

 経産省は、かねてICタグに着目してきており、遡ること2004年にはICタグの1個あたりの価格5円を目標に設定して技術開発を目指す通称「響プロジェクト」を2年間展開してきた。

 以来、今回のICタグ1000億枚宣言までの間、研究、検討を続けてきたのだろうが、今まさにICタグの大胆な構想を持ち出してきたのは、人手不足などを背景に労務費が上昇していることが引き金になっているのはいうまでもない。

 ICタグがあらゆるコンビニの製品に貼付されれば人手不足の解消、さらに、ICタグに関連するリーダーや対応するレジなど電子機器類などICタグを製造するメーカーだけでなく、情報産業機器業界などで新規需要が発生、経済の活性化に寄与できるという読みもあるのだろう。

 昨今では米アマゾン・ドット・コムがAI(人工知能)や顔認識システムなど、最新の技術を駆使した、レジ不要のコンビニ、「アマゾン・ゴー」を発表。過去、規格などでは足並みが揃うことが少なかった大手コンビニ業界だが、我が国の流通業界もアマゾンに負けてはならぬと多少の焦りもあって、ICタグの1000億枚宣言に合意したかもしれない。もっとも、ICタグで埋め尽くされた世界は、そんなにバラ色の未来なのだろうか。

ICタグのメリット
一括瞬時の決済が可能

 まず、ICタグのメリットを見てみよう。ICタグの良さは、第一に一括、かつ瞬時に決済できることにある。

 ICタグはチップから無線で情報を発信する仕組み。買い物した商品をICタグのリーダーのあるレジで精算すれば、バーコードのように、いちいち読み取る必要がない。同じような品目数ならば、精算時間はバーコードに比べ3分の1以下、4分の1というデータもある。

 現在のセルフレジ(無人レジ)は、自らバーコードをスキャンし清算する必要があり、不慣れな消費者は時間がかかり、今ひとつ人気がないのが実情だ。ICタグならば、複数の商品をレジ台に置けば瞬時に一括して読み取ってくれるので、消費者はセルフの自動精算機で支払いを済ませるだけとなり、レジ時間のスピードアップになるし、小売店側はレジ要員を極端に減らせる。いや、レジ要員は置かなくてもいい。

 というのも、流通業ではシステム的に店舗の出口で一括決済ができるようにしておけば、アマゾン・ゴーのように商品を棚から持って帰ることもできるのだ。

ICタグの凄いところは
サプライチェーン全体の効率化

 ICタグの凄いところはサプライチェーン全体の効率化につながるところである。現在はバーコードでの管理であるため、どこのメーカーが生産した、何という商品であるかという程度しか把握できず、メーカーで作られた商品がどこの卸に入り、いつ小売業に出荷されたかなどいうサプライチェーン情報を管理するのはいちいち人手をかけてやらなければならず手間がいる。

 ICタグは情報量が多く商品情報を書き込んだり、読み込んだりできる。いつどこで加工されたかなどいう加工工程ごとに記憶できるために、トレーサビリティなども容易になるというメリットを持っている。

 理屈的にはICタグは遠隔操作ができるため、Aという商品が棚から一つ売れたという情報がリアルタイムにつかめ、自動発注や自動値下げ、さらには売れている商品の店舗間移動なども容易になる。

 店内調理をする要員、商品の補充をする要員のみを配置しておけば、まさに無人に近いコンビニができることになるし、スーパーなどでも極端に人を減らせる。億劫なレジ待ちもなくなる可能性がある。

 ICタグを軸に店舗の機材やメーカーや卸という流通の各段階で、装置の新規導入、入れ替えが進めば新市場も開ける。

 少なくともコンビニの約5万5000店だけでもレジの入れ替えが進めば、対応レジが一台100~200万円としても500億~1000億円の市場になる。ICタグが1枚11円以下での流通することを前提としても経産省の年1000億枚構想なら1000億円の市場になる。卸やメーカーも、ICタグに対応した情報管理システムに移行すると見られており、巨大な市場が出現するのである。

 しかし、繰り返すが、“魔法のチップ”であるICタグの未来はそんなバラ色の世界なのだろうか。

人手不足の解消には役立つが
不況時の雇用吸収力は低下

 ICタグによって労働集約型産業だった流通業の効率は間違いなく高まる。

 例えばコンビニのアルバイトは平均的な店舗、平均的な日販の店で1店あたり20~30人程度だ。しかし、ICタグの普及でレジ要員や検品作業、発注作業が不要になり、品出し要員のみで済むのなら、おそらく、コンビニのアルバイト従業員数は半減以下で成立することが想定される。

 同じようにスーパーやドラッグストアなど、小売業全体的に省人化は進むだろう。その一方で、雇用面を見れば、人員の過剰感が生まれる。

 現在、よくロボットが人間の労働力として代替とされることが話題になっているが、ICタグの普及にはその懸念はないだろうか。

 小売業はこれまで雇用の受け皿になってきた。現在のところ、結果として慢性的な人手不足も生じている訳であるが、ICタグの普及は不況時において、雇用吸収力が低下する懸念はないだろうか。

ICタグの普及に
乗り越えるべきハードルとは

 ただ、ICタグの普及定着までには乗り越えなければならないハードルは少なくない。まず、価格である。経産省は1枚あたり(ICチップ、アンテナ、シール化などタグの加工に関する費用が)1円以下になっていることを年1000億枚宣言の前提にしている。現在、大日本印刷などが低価格化に取り組んでいるが、今はまだ10円である。この価格ではコンビニの商品に貼付しても、割高すぎて話にならない。

 やはり1円以下が理想だが、そうすると現在価格の10分の1である。これまで順調に100円から50円、そして10円と下がってきたが、ここから1円までの距離はそう近くはないだろう。経産省は2025年までという期限を切っているが、後8年間で課題がいくつも浮上することが予想され、これをクリアできるかが焦点である。

 また宣言にはいくつかの留保条件もついている。例えば、レンジ温め、金属容器、冷凍、チルド、極細形状などでない商品に貼付することになっている。

 考えてみてほしい。今後、コンビニが力を入れる分野である冷凍食品やチルド製品を外すことは可能なのだろうか。

 ICタグは流通の近代化に一役買うし、柳井正ファーストリテイリング会長兼社長がいうようにICタグの活用で産業革命以来の革命が起こることもわかる。だが、革命にはクリアしなければならない課題が少なくない。


※本記事はダイヤモンド・オンラインからの転載です。転載元はこちら

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