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IDC Japanが国内IoT市場予測を発表

11兆円規模となる国内IoT市場、日本企業はPoC疲れを克服できるか?

2017年04月11日 07時00分更新

文● 大河原克行

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4月10日、IDC Japanは国内IoT市場予測について発表。2016年には5兆2700億円だった市場規模が、2021年には11兆240億円に拡大。特にIoT向けITサービス市場は、2021年までの年平均成長率が64.8%増となり、2021年には、6670億円の市場規模に達するとした。

高成長が見込まれるIoT向けのITサービス

 説明会で登壇したIDC Japan ITサービス シニアマーケットアナリストの植村卓弥氏は、「ITサービス市場全体では、前年比1~2%増という低い成長率だが、IoT領域に限定すると高い成長率となり、予測期間の後半でも50%を超える高い成長率を維持している。クラウド向けITサービスと比べても高い成長率になっており、さらに、これらの実績が、IoTを活用して業務サービスを提供する『IoT Enabled』につながることになる」などと述べた。

IDC Japan ITサービス シニアマーケットアナリストの植村卓弥氏

 同社では、IoT市場を、製造業や運輸業、小売業などの20業種を対象に調査。さらに、各業種におけるユースケース(製造業では、製造オペレーション、製造アセット管理など)に分類して調査を行なっている。さらに、導入サービスや運用サービス、アプリケーションなどの12の技術に分類した調査も同時に実施している。これらの分類をもとに、ITベンダーや導入企業などを対象に、取材調査やアンケート調査を行なうとともに、政府などから発表される調査結果なども加えて、市場動向を予測しているという。

IoT市場の支出額をさまざまなカットで予測

 テクノロジー別の市場予測では、サーバーやストレージ、ネットワーク機器などの「ハードウェア」は、2021年までに年平均成長率が21.8%増となり、「コネクティビティ」は同12.3%増、アプリケーションやアナリティクスなどの「ソフトウェア」は同21.7%増、導入サービスや運用サービスなどの「サービス」は同21.8%増になると予測した。

 4つのカテゴリーのなかで、もっとも高い成長が見込まれるサービスは、SIやネットワーク構築、カスタマイズアプリ開発、保守サービスなどで構成される「IoT向けITサービス」、組み込み型を含むM2M領域のサービスや、ビジネスコンサルティングおよびビジネスプロセスアウトソーシングサービスなどで構成する「IoT向け非ITサービス」、産業特化や産業横断型の新規事業、ユースケースのIoT活用など、企業がサービスなどにIoTを活用する「IoTを活用した業務サービス」の3つに分類。今回、IoT向けITサービスの市場成長について予測を発表した。

テクノロジーカットでのIoT市場展望

 これによると、2016年は前年比96.9%増の548億円となった国内IoT向けITサービス市場は、2021年まで年平均成長率64.8%増で成長。6670億円の市場規模になると予測した。その一方、2016年時点ではIoT向けITサービス市場は黎明期であり、依然としてプロジェクトベースのサービスが中心になっていると指摘。産業分野別には、製造業や公共分野などのインダストリアルIoT領域におけるITサービス支出が多くなっているという。

3年かかってPoCに行き着く例もある

 今後は、「デジタルトランスフォーメーションの進行」、「PoCの本格案件化」、「生産管理やERPなどの基幹系システムとの連携領域の拡大」、「新たなビジネス創出に伴う支援需要」を成長促進要因にあげ、一方で、「人材不足」および「技術の進展に伴う、ユーザーによる内製化の進行」を成長阻害要因にあげた。

 植村氏は、「IoTに関するPoCの案件数は増加しているものの、スケールにつながる案件が少なかったり、PoCに至るまでに長期間を要するといった課題が生まれている。なかには、3年かかって、ようやくPoCに行き着いたという例もある。IoTイニシアティブ関与者の70%以上がPoC段階以前のイニシアティブに従事しているという実態もある。一部のITベンダーからは、『PoC疲れ』という言葉が聞かれるほどだ。CxOなどの経営層や意思決定者を巻き込むことが、スケールさせるためには重要。PoCをやっていれば、IoT市場の成長に追随できるというわけではない」とした警笛を鳴らす。

課題となるPoCからのスケール

 また、「データ連携がIoT活用の鍵になることは共通認識になりつつあるが、部門間や企業グループ内など、異業種の壁が課題になっている。今後、IoTサービス事業者には、企業や産業のデータバリューチェーンをつなぐ役割が求められてくる。これはITサービスの能力ではなく、ビジネス領域の能力である。調整役としてのスキルセットが求められるのがIoTサービスの特徴であり、ビジネスコンサルティング系の企業がIoT事業を伸ばしている理由はここにある」(植村氏)と指摘した。

 

社外用途のIoT Enabledが隆盛へ

 IDC Japanが注目しているのが、IoT Enabledである。

 これは、これまでのIoTが社内用途での利用であったのに対して、社外用途として利用するもので、同社がIoT市場におけるサービスを3つに分類したなかで、「IoTを活用した業務サービス」に分類されるものとなる。

IoTを活用した業務サービス「IoT Enabled」

 IDC Japan コミュニケーションズ シニアマーケットアナリストの鳥巣悠太氏は、「IoT Enabledは、社内でのIoT活用の実績をもとに、社外用途における最適化にIoTを活用するものであり、製造プロセス最適化ソリューション、航空サービス最適化ソリューション、建設現場最適化ソリューションなどの事例が出ている」とする。

IDC Japan コミュニケーションズ シニアマーケットアナリストの鳥巣悠太氏

 具体的には、ファナックが、顧客に導入した機器のダウンタイムを減らすためにIoTを活用した、GEが航空機のエンジンにセンサーを取り付けたデータをもとにサービスを提供したり、コマツが建設機械にセンサーを取り付けて、遠隔でモニタリングを行うといった例があるという。

 鳥巣氏は、「ビルの空調、照明の制御のほか、エレベータやエスカレータの稼働を遠隔でモニタリングするコネクテッドビルディング、車載機器から発信なされるデータをもとに、ドイラバーの運転状況を把握し、そこから保険金額を動的に変更するテレマティクス保険などがある。IDC Japanでは、36種類のユースケースを想定しているが、今後、企業とITベンダーとの組み合わせによって、新たなIoT Enabledによるユースケースが創出されることになるだろう」と予測した。

 一方、国内IoT市場におけるハードウェアは、2021年までの年平均成長率で10.8%増となるが、「IoT市場という観点でみれば、他のIoT領域に比べてハードウェアの成長率は低いが、それでも高い成長率であることに変わりはない。特にネットワーク機器は成熟市場であるが、ここにもIoTは大きな影響を与えることになる」(IDC Japan コミュニケーションズ グループマネージャーの草野賢一氏)などとした。

 ラックやデスクサイドなどに設置されるITネットワーク機器だけでなく、屋外などに設置される産業用ネットワーク機器が、IoTによってプラス影響を受けるとしており、「ITネットワークは成熟市場となっており、2016年の実績でも、企業向けイーネットスイッチ市場は前年比4.9%減となっている。これに対して、産業ネットワークは前年比1.5倍~2倍になっており、今後、IoTによって、さらに成長が本格化すると見ている」(草野氏)などとした。

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