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自作PCの究極系、Mod PCの凄まじさを体感

モルタルに大理石、曲面水冷!スゴ技Mod PC制作者に訊いた超ド級のこだわり

2017年04月08日 10時00分更新

文● ジサトライッペイ

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saitoさんのMod PC「曲面ワイドモニタ型PC」。35インチの曲面液晶ディスプレーの横に設置し、右にはPC、左には液晶ディスプレーで囲まれた空間を創りたいという発想のもと生まれた匠の作品です。

 どもどもジサトライッペイです。

 新年度が始まり、「今年度こそPC自作に挑戦してみよう!」という方、結構いらっしゃるのではないかと思います。「PC自作なんて昔やったっきりだな」という方も少なくないでしょう。僕は職業柄、恒常的にPCパーツとたわむれる日々ですが、そんな僕でも毎年なにか1台は記憶に残るPC自作をやろうと思ってたりします。

 とはいえ、いかんせん、先立つものがない。

 昨年散財したせいで、今年一月時点での貯金はゼロ。金ナシ彼女ナシ甲斐性ナシの34歳。さて、今年はどうしたものか。悩んでいたところ、昨年12月に秋葉原で開催した「パソコン工房 Winter DIY festival supported by ジサトラ」の自作PCコンテストで、「曲面ワイドモニタ型PC」で我々のド肝を抜き、見事アスキー賞を受賞したsaitoさんを思い出しました。ユニークな着想、CAD設計による既存のフレームに頼らない精緻なガワ、長期間に渡る綿密な作業などなど、saitoさんのPC自作には学ぶべき点が非常に多く、なにかお金がなくても自作できる新しいアイディアが思いつくのでは? と考え、saitoさんのお宅へうかがうことにしました。

目の当たりにして実感する「曲面ワイドモニタ型PC」の完璧さ

 快く取材を引き受けてくださったsaitoさんのお宅へ早速お邪魔すると、リビングでいきなり「曲面ワイドモニタ型PC」にご対面。実物はかなり大きく、迫力がはんぱない。そして、寄りで見てみるとその緻密なつくりに再度驚かされます。

完璧なレイアウトで構成された曲面ワイドモニタ型PC。

 曲面ワイドモニタ型PCの構成を左から順に追うと、マザーボード、ライザーケーブルで接続されたグラフィックボード、SFX電源ユニット、その下にポンプ一体型リザーバー、ラジエーター。CPUとGPU部は水枕をセットし、水冷のラインが引かれてます。水路は反時計回りで、ラジエーターで冷やされたクーラントがリザーバーに入り、そこからGPUを経由してCPUへ行き、そこから下の配管を通り、またラジエーターに戻るという流れです。

温度センサーで水温をモニタリング。

 よく見てみると、中央グラフィックボードの下部に温度センサーがシンメトリーに2個設置してあります。左のものはGPU部へ入る前の冷やされたクーラント用、右のものはCPU部を抜けてラジエーターへ向かう前の温まったクーラント用だそうです。確かに右の温度センサーのほうがわずかに温度が高いです。

電源スイッチはSilverStoneの「ES01-PCIE」を使って、2.4GHz帯接続のリモートスイッチ式。

 SilverStoneのワイヤレスパワー/リセットスイッチ「ES01-PCIE」を挿し、車のキーのように完全リモートになってました。このようにsaitoさんの自作PCは、デザイン的な美しさと機能的な美しさが完璧に融合しており、舌を巻くばかりでした。

 こんなすごいものを作っていたら、さぞご家族の方は驚かれるのではないですか? とうかがったところ、息子さんは設計段階から見ているので完成してみるとわりと感想はあっさりめ。奥様はもともとお父さんが専用の工作室でバリバリ作業をやっている方だったので、saitoさんの規模ではさほど驚かれないとのこと。理解のあるご家族でうらやましいです。

ネジは西川電子部品が行きつけ、部材は東急ハンズなど

 さて、ひとしきり感嘆してばかりではいけません。なにか自分の自作PCに生かせるお話を聞かなくては。というわけで、最も気になっていた質問をまず訊いてみました。それは“ネジ”です。PCケースにあたる“ガワ”を自分で一から自作するとなると、避けては通れないのが部材設計・加工なんですが、そこには必ずネジが必要になりますが、ネジにはさまざまな種類やサイズがあります。一体saitoさんは何を使っているのか? 回答はすごくシンプルなものでした。

「ネジはほとんどM3で、秋葉原の西川電子部品で揃えてます」

saitoさんがヘビーユースのネジはM3。

 マザーボードの固定からさまざまな部材の固定まで、基本はM3を使っているとのこと。M3はミリネジのサイズのひとつで、確かに自作PCでも幅広く使われています。saitoさんはスペーサーなども基本このM3対応のものを使っているそうです。「いろんなネジ使うと、ネジ穴制作がめんどうそうだなー」と思っていた僕には朗報です。ネジをM3だけに限定してしまえば、設計に使う時間も加工もだいぶ短縮できるはず。よし、僕も西川電子部品に通っちゃおう。

 また、Mod PCは完成品を組む前に、木板でモックアップを制作してサイズなどのチェックをするそうです。確かに金属だとモックアップ代や加工代だけでかなりお金がかかります。そこを東急ハンズなどで安く木板を購入して、レーザー加工業者に手持ちしてCADデータをもとに各パーツを切り出しているそうです。

木板モックアップ用のパーツ。各パーツはCADで制作し、かぶらないようにレイアウトしたものを、木板でレーザー加工。この時にネジ穴もM3に合うように空けているそうです。

 ちなみにsaitoさんは2015年からMod PCを作っているそうで、歴代の作品を見せてもらうことになりました。

記念すべきMod PC一号機は昭和がテーマの「モルタルPC」

外装にモルタルを採用し、昭和の公団住宅っぽさを演出した「モルタルPC」。当時の自作PCコンテンストにエントリーして、改造バカ“高橋敏也”さんにサインをもらったそうです。

 まずはsaitoさんにとってのMod PC一号機「モルタルPC」。こちらは2015年2月に制作されたもので、外装に手で練り混ぜたモルタルがすり込まれてます。当時、PCケースは黒を基調としたデザインのものばかりで、なんだかつまらないと考えたsaitoさん。2009年に自作したというPCパーツを再利用し、PCケースの外側に木版とアルミアングルを設置することで、このモルタル外装を実現したそうです。

外装部は着脱可能。もとになったPCケースのサイドパネルにアルミアングル付きの木版をネジどめしてあります。

 外装部はもとのPCケースのサイドパネルをうまく活用されてました。PCケースになんとかモルタルを塗装できないものかと考えると、結果うまくモルタルが載らず失敗なんてことになるのですが、そこをこの構造でブレイクスルーしてます。そして、剥がれ落ちやすいモルタル部を着脱可能にすることで、メンテナンス性にも配慮。saitoさんの機能美へのこだわりは一号機から全開だった模様です。

逆サイドはアクリルパネルで魅せるPCケースになっています。

 昭和の公団住宅っぽい見た目に反し、反対側はアクリルでPCパーツが透けて見える仕様なのがすごくおもしろいと思いました。1台で昭和っぽい古めかしいイメージとコンピューター感満載の未来っぽいイメージを同居させた味わい深い作品です。

とんでも素材と機能美の集大成「リバーシブルPC」

こちらはなんと外装に大理石を採用した意欲作「リバーシブルPC」です。こちらもコンテストに応募し、つくる女のサインが入っております。

 そして、2015年9月に作ったというPCがこちらの「リバーシブルPC」です。IN WINを筆頭に、昨今のPCケースはアクリルや強化ガラスなどでサイドパネルが透明になっているのがトレンドです。しかし、その大多数が左サイドが透明になっているため、PCパーツを愛でるためには必然右置きにしなければなりません。そこを不満に感じたsaitoさんは、右置きでも左置きでも透明な部分が見えるようなリバーシブル構造を作っちゃったそうです。

 あいかわらずどえらいところから着想するものです。そして、またまた注目は外装ですよ。外装。これ、大理石なんですって! いくら既存のPCケースがつまらないからってフツー大理石にいきます? saitoさんの着想はもはや天才のそれです。

リバーシブル機構の構造検討スケッチ。saitoさんはMod PCを制作する過程で必ず最初はこのようなスケッチを書くそうです。

 リバーシブル構造は一見理解しづらいんですが、右置きの時はマザーボードが一般的なレイアウト。で、左置きの時は上下が逆になると考えればわかりやすいかと思います。で、その逆にする構造の肝はマザーボード固定部のレール構造にあります。

アクリル板のマザーボード固定部は上下2本のレールで引き出せるようになっています。

 このレールをいったん外して向きを90度回転させることで、右置き時にPCケースの前面だった部分が左置き時の天面になり、反対に右置き時に天面だった部分が左置き時の前面になるという構造です。うん、僕も自分で言ってて困惑してきますが、つまりはそういうことです。

PCケース側のレールは2本ですが、右置き時と左置き時で位置が変わるため、マザーボード固定部の裏側のレールは4本になります。

 しかし、このレール機構はメンテナンス性抜群ですよね。このシステムを応用すれば、システムを複数台入れられて簡単に入れ替えできるPCケースなんかも作れそうです。ちなみに、リバーシブルPCは外装の大理石パートと内装のアクリルパートに分かれているんですが、その隙間はわずか6mm。この間にレール機構などの取り付けシステムを入れているとのこと。

 なお、この頃は僕も大風連丸という人生初のMod PCを作っておりましたが、saitoさんの作品と比べると足元にも及ばない大味なものでした。

大風連丸の設計図。この頃はワークステーション用のマザーボードを使っているのにもかかわらず、CADを使うなんて発想がそもそもありませんでしたね……。赤ペンと紙でなんでもこなそうとする雑誌編集者の悪いところです。

鋭意制作中の最新作はなんとポンプレス&ファンレス水冷PC

 先ほどのモックアップ用木版でチラ見せしましたが、saitoさんが現在制作中の最新作も見せていただきました。なんと、ポンプレスかつファンレスの超静音仕様の水冷PCだそうです。

 saitoさんいわく、曲面ワイドモニタ型PCを作ったときに駆動音が気になったのが制作のきっかけだそうです。僕が聞いた限りでは、曲面ワイドモニタ型PCの駆動音は全然静かなほうだったんですが、それでもsaitoさんはだいぶ気になるそうです。意外なことに曲面ワイドモニタ型PC制作で水冷に初挑戦だったこともあり、またもやsaitoさんのDIY魂に火がついてしまった模様。

おなじみの制作前スケッチ。円がいくつも重なるイメージや支点と振り子のようなイメージです。
なにやら物理っぽい計算式もちらほら。

 これらのヒントから、おそらくは位置エネルギーを使って水を循環させ、ファン以外の手段で冷却するシステムなのだろうということはわかりましたが、自然冷却では室温に影響されまくることうけあいです。その疑問をsaitoさんにぶつけてみると、大変うれしそうに「これを使うんです」とあるものを手渡されました。そう、泣くも子も黙る熱電素子“ペルチェ素子”です。

現在制作中のモックアップとペルチェ素子。すごく奇抜な形をしております。なぜだか最初に見たときはクロノ・トリガーのタイムマシン「シルバード」を思い出しました。

 ペルチェ素子とは、小型の冷温庫などに使われている素子で、電気を流すと一方は吸熱し、一方は排熱するというおもしろい特性があります。過去に、Cooler Masterが「V10」というペルチェ素子を採用したCPUクーラーを販売して話題になりました。しかし、その強力な冷却性能のおかげで結露のリスクや、発熱側の冷却をどうするかなどの問題もあり、ファンレスで実装するのはかなり難題です。とはいえ、そこはsaitoさんならまた我々があっと驚く手法で見事実現までこぎつけるはず。完成がとても楽しみです。

 取材を終えた感想は、「自作PCってまだまだいろんな可能性があるな」でした。もちろん、お店で売っているPCパーツを買ってそのまま組み立てるのも自作PCですし、買う前にいろいろと選定している時間もすごく有意義な時間の過ごし方だと思います。僕なんか毎月のように“今買うならこれリスト”を作ったりして妄想してます。

 しかし、そこから一歩進んで既存のパーツを塗装したり、ケーブルに凝ってみたりするところからMod PCというジャンルに入り、究極系はsaitoさんのようにガワを一から作ってしまうのも自作PCの醍醐味ですよね。それこそ、まごうことなき“世界に1台のPC”になるわけですから。人生が終わりを迎えるときに「あーそういえばあんなPCよく作ったなー」と思い出すPCになるのではないかと思うのです。

 そんな自作PCはきっと、作る前にスケッチしているときも楽しいし、部材を買いに行くときも楽しいし、組み立てや加工業者で悩んでいる時間も絶対に楽しいはず。saitoさんにはたくさんアイディアやノウハウを教えていただきましたので、僕も今年は本格的にMod PCに挑戦しようと思います。「フツーのPC自作に飽きた」みなさんもぜひ一緒になにかおもしろいPCを作っていきましょう。

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