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kintoneな人 第2回

クラウドだからこそ実現できる「ハイスピードSI」の価値とは?

普通の受託開発会社をクラウドダイブさせる金春氏にとってのkintone

2017年03月28日 07時00分更新

文● 大谷イビサ/TECH.ASCII.jp 写真●曽根田元

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kintoneのメリットは開発工数の削減だけではない

 金春氏から見て、kintoneのメリットはまず開発工数が減ること。「ハイスピードSI」を標榜するアールスリーからすると、見積もりをなるべくとらずに、スピーディに開発を手がけられるツールとしてkintoneは最適だ。

「今のIT業界は人月を積み上げた方が高くなるけど、普通はものすごく速くできるって価値が高いじゃないですか。だから、単価が安いから案件をいっぱいやるのではなく、速くやるから単価が高いというのが理想なんですよね。簡単ではないのはわかっていますけど、3ヶ月で500万円かかる案件が、2週間でできても500万円という世界に持って行きたいです。速くあげるために勉強しているし、スペシャリストもそろえているので」(金春氏)

「速くやるから単価が高いというのが理想」(金春氏)

 もう1つは現場部門の担当者と行なわれる対面開発。これは仕様書ベースでの受託開発を続けてきた金春氏にとってみると、きわめて不思議な体験だという。

「長らく受託開発をやっている僕らの場合、かっちりした仕様書は作れるんですが、それでも後からリクエストが出てきます。でも、kintoneの場合、ユーザーと直接打ち合わせしながらシステムを作るので、作りたいモノが基本ずれない。うちのオフィスで対面開発すると、2時間くらいでイメージ通りのものができるので、お客様はとにかくびっくりします(笑)。今までシステム開発でびっくりされたことなんてないんで、体験としては面白いですよ」(金春氏)

 PaaSとして「未成熟」なのもkintoneの魅力だという。高機能を実現するためにブラックボックスが複雑な外資系のPaaSに比べ、kintoneはきわめてシンプルで機能も限定的。逆に、こういう未成熟な製品だからこそ、パートナーが介在する余地があるわけだ。

「PaaSは制約があるのは理解しています。でも、外資系の複雑なPaaSはお客様から聞かれたときに、それができるか、できないか明確に答えられないんです。その点、kintoneは複雑なプロダクトじゃないので、できることとできないことがはっきりしています。実際、外資系のPaaSとコンペになった案件で勝てたとき、お客様からは、『すぐにできるかどうか答えてくれるので安心感がある』と言われました」(金春氏)

自社プロダクト「gusuku」まで含め、kintoneにフルコミット

 こうしてkintoneにフルコミットすることになったアールスリーは、さまざまな事例を手がけることになる。多いのはSFAのような案件管理だが、製造業の多い大阪では生産進捗管理のような案件もあるという。先日はヤマハ発動機のコールセンターの事例記事も掲出したが、全体で見ればかなりレアな使い方のようだ。

 kintoneに関しては、さらに「gusuku(グスク)」という自社プロダクトも開発した。gusukuはkintoneのアプリの開発を支援すべく、テスト環境と本番環境のステージングを可能にするサービスだ。アールスリーが得意とするAWSをフル活用しており、データ自体もS3に保存される。

「開発をしていた人間から見ると、本番で動かすアプリをそのままいじるなんて怖くてできないですよね(笑)。やっぱりテスト環境で確認してから、本番で稼働させたいのですが、kintoneってその機能がありません。その代わり、サイボウズが設計情報を入れ込むためのDeploy APIが用意されるという話を聞いたので、だったら作ろうということで社内用に作ったのがgusukuです。でも、そのうち僕らが必要なんだから、お客さんも絶対にいるよねと思い、プロダクトとして世に出しました」(金春氏)

 gusukuもリリース当初はアプリのステージングしか機能がなかったが、その後、設計情報のダウンロードやバージョン間の差分管理、Excel帳票のプラグインなど機能も拡張した。最近ではkintoneレコードや添付ファイルのバックアップオプションまで追加されている。

「他社でも部分的にサポートしている機能はあるのですが、別々で追加すると、結局高くつきます。だから、いろんなものを節操なくgusukuに載せています。バックアップの話をすると、入れますというお客様は多いです。サイボウズのクラウドは4重のバックアップをとっているのですが、それでも別のクラウドに置きたいというお客様もけっこういるんですよ」(金春氏)

クラウドネイティブな新人には「会社の空気を変えてほしい」

 ここまで聞くと、レガシーな受託開発会社が一気にクラウドインテグレーターに変身したようにみえる。しかし、12年に渡って、まさに淡々と受託開発を進めてきた会社がいきなり変化するのは難しい。JAWS-UGやkintone Caféなどに金春氏が積極的に参加しても、社風を変えるのには時間がかかったようだ。いや、まだ変わっているとも言いがたい。

「最初は社内でもkintoneなんて使えるのかという空気はありました。でも、サイボウズとの関係は良好で、いろいろ露出もお手伝いしてもらっています。なによりkintone案件が入ってくるので、社内で触る人も増えてきたので、会社の雰囲気はずいぶん変わりました」(金春氏)

 社風を変えるためにもう1つ金春氏が手がけてきたのが、コミュニティ界隈からの積極的な人材登用だ。JAWS-UGをはじめとしたコミュニティに積極的に出入りしている西島幸一郎氏、池上綠氏、浅賀功次氏、沖 安隆氏などを次々とハイヤリングし、会社の文化をクラウドシフトさせてきた。

「古くからうちの社員は受託でゴリゴリ作ってきた人たちばかりなので、寡黙で本当にちゃんと仕事してくれるんですが、正直コミュニティやクラウドとは相容れない。でも、そういう人ばかりでは、社内がしんどい。だから、新しく入った人たちには『会社の空気を変えてほしい』と言っています。うちはエンジニアの会社なので、エンジニアが居心地がいい会社にしたいと思っています」(金春氏)

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