このページの本文へ

「医療世界一」は国際比較してみたら日本だった

2017年03月16日 06時00分更新

文● 真野俊樹(ダイヤモンド・オンライン

  • この記事をはてなブックマークに追加
  • 本文印刷

日本では、悲惨な医療事故が起こる度に、医療バッシングが起こり、医療不信に拍車がかかる。その度に「日本の医療はひどい」「欧米に比べて遅れている」等の声が聞かれる。先進主要国に比べ、本当に日本の医療はひどいのか、調べてみた。(多摩大学大学院教授、医師 真野俊樹)

日本人は自国の医療に
不信感を持ちすぎている?

 日本人ほど自国の医療に不信感を持っている国民はいない。2010年にロイター通信が報じた「医療制度に関する満足度調査」によると、日本人の医療満足度は15%で、これは世界の先進・新興22ヵ国中、最下位である。ちなみにトップは、スウェーデンの75%だ。

 また、カナダの調査(下表)においても、客観的データはほぼA評価であるのにもかかわらず、日本人の健康への自己評価は低い。

 その一方で、安倍政権では日本の「医療の良さ」を海外に輸出するとしているし、中国人を中心に日本に医療ツーリズムで訪れる患者も増えてきているようだ。果たして日本の医療レベルは高いのであろうか。そこを簡単に検証してみたい。

 あえて結果を先に言えば、筆者の分析では、日本の医療は世界の医療と比べても「10勝5敗3分け」(表)で「世界一」と言えるものであった。

 なぜ、そうと言えるのか。その要点を説明しよう。

かなり際立っている
がんの5年生存率

 まず、日本国民の2人に1人が罹患するという"国民病"になった「がん」であるが、日本において、がんの5年生存率は高い。OECDのデータでも、大腸がんの5年生存率(2004~09年)を調べたものでは、日本は68%と1位である。

 ちなみに主要国を見ると、アメリカ5位(64.5%)、カナダ6位(63.4%)、ドイツ13位(60.4%)、イギリス18位(53.3%)となっており、加盟国の平均は59.9%である。

 また、世界67ヵ国、2500万人以上のがん患者の5年生存率を調査した国際共同研究「CONCORD-2」(1995~2009年)によると、日本は肺がんでも5年生存率30.1%とトップで、アメリカ18.7%、イギリスは9.6%なので、日本の成績はかなり際立っているといえよう。

外国人が感動する
日本の看護師の接遇

 この調査を見ると、肝がんも日本の成績は良好である。そもそも肝がんは肺がんと同様、相対的に5年生存率は低く、日本は27.0%。ただし、これは他国と比べると、相当に優れた水準だ。アメリカは15.2%で、欧州各国も20%に達していないからだ。一方、胃がんは韓国がトップであり57.9%で、日本は54.0%である。ちなみに欧米は、30%前後と軒並み低い。やはり、日本はかなりの高水準であることがわかる。

 さらに、再びOECDの調査に戻って、乳がんの5年生存率を見ると、日本はアメリカに次いで2位の87.3% 、子宮頸がんも4位の70.2%と、これらも健闘している。

 その他、よく聞くのは、外国人旅行者が訪日中に病気やケガで入院し、そのとき「日本の看護師は、こんなことまでしてくれるのか」と驚き、感動したという話である。例えば、日本の看護師は入院患者のベッドメイキングもすれば、食事の配膳、風呂上がりには患者の体を拭いたりもする。こういうことは欧米の看護師はしない。欧米ばかりではなく、中国や韓国などアジアでも見られない。

 さらに、医師受診の回数も日本は突出して多い。OECDの統計によると、国民1人あたりの医師にかかる回数は加盟国の平均が6.6回。これに対して日本は12.9回。意外にも低いのが、スウェーデンであり、年間2.9回。このスウェーデンの約3回に対して、日本は約13回という、この数字の開きは、つまり「医師との距離」の違いでもある。

 1回1回の受診で「医療費が過剰に使われる恐れがある」という医療経済的な視点から見れば問題ではあるが、「医療が身近である」という国民側の安心という視点から見れば、これはかなり素晴らしいことと言えるだろう。要するに、「困ったらすぐに医者に行ける」という環境が整っていることになるからだ。

 英国やスウェーデンなど、家庭医制度が行き渡った国では、確かに制度上は素晴らしいと言えるが、身近とは言い難い。家庭医が「ゲートキーパー」とか「ゲートオープナー」といわれるように、家庭医を通さなければ、大病院など高度で専門的な医療機関を受診できないからだ。一方、日本の医療では、患者が行こうと思えば、直接、大病院の受診が可能なのである(最近は紹介状の持参を原則とするケースが増えているが…)。

薬の値段は
「ブラックボックス」

 一方、薬剤に関しては必ずしも「日本が良い」とは判断し難い。日本での薬剤の投与数は多く、厚生労働用の試算では500億円分あるという。確かに、高齢者が多量の薬を持って薬局から出ていく姿をよく見かける。

 値段についても、例えば、肺がん治療薬「オプジーボ」は、当初、100gあたり約73万円(現在は引き下げとなって32万5000円)という非常に高額の医薬品であった。これは、がん免疫療法薬というイノベーティブな薬であるから、こういう値がつけられた。

 薬価では、どのタイプの薬かによって計算方式が決まっている、オプジーボは原価を積み上げての値段であるというが、個々の医薬品について、どこがどう加算されてその値がついたかといった詳しいことはわからないし、なにより、原価にしては(処方量が増えるとしても)、2017年2月に薬価が半分になったことも不思議である。そういう意味では、薬価というのは「ブラックボックス」といえる。

 このように、薬価も含めて医療の値段は国が決めているが、「透明性」が低い。さらに国民医療費は年々増加しているので、ここは「日本の負け」とせざるを得ないであろう。

海外視察の後は
やはり「日本がいい」と感じる

真野俊樹さんの『日本の医療、くらべてみたら10勝5敗3分けで世界一』(講談社+α新書)が好評発売中。192ページ、907円(税込み)

 私が1995年に米国に留学した時に、日本と米国の「医療の差」に愕然としてから15年以上たった。現地の日本人医師に「20年後には日本の医療も米国のようになるよ」と言われたのを、今でも鮮明に覚えている。

 確かに、日本でも米国のように、徐々に「お金のあるなし」が治療を決めるようになっているようだ。しかし、国際政治学者のサミュエル・ハンチントンが世界的なベストセラーである「文明の衝突」で指摘したように、文化にも多様性があり日本文化もその一つの類型だという。私は医療も文化と同じように、国や地域によって多様性があると考える。つまり、日本の医療も、高齢化対応や最先端技術のおかげで向かっていく方向性は米国に似ているが、必ずしも一つの方向に収斂するわけではないのだ

 そういった視点で見てみると、米国医療にも優れたところもあり、劣ったところもある。ヨーロッパや北欧についても同じである。

 そんな折に、昨年は医療不信による日本医療へのバッシングが相次いで起きた。冷静な視点で見た場合、日本の医療はそれほど悪いのだろうか。

 私は仕事柄、海外の病院や医療事情を視察する機会が多い。そこでは多くの方々(医療関係者や企業関連、弁護士、会計士等の方々)と同行する。すると、必ず、最終日のラップアップでは、「やはり日本の医療がいいね」という結論になる。もちろん我々が日本人であるというバイアスは考慮に入れなければならないが、データを用いて比較しても、やはり、そのような結論になる。スバリ、日本ほど医療すべてにおいて、完璧に近い国はない。あまりにも、その事実が知られていないのではないか。

 もちろん、日本の医療にも問題点はあるだろう。このままだとマズいという問題もあるかもしれない。しかし現時点で「日本の医療は世界一」である。私は、そう実感している。

「日本の医療が劣っている」と感じるのは、多くの場合、医師や医療機関に対する患者の医療不信によるものだ。亀裂が生じつつある日本の患者と医師の信頼関係を改善することができるならば、すでに世界で最も優れている日本の医療を、さらにより良きモノへと引き上げることができるのではないか。

 それが日本国民にとってプラスになると信じている。


※本記事はダイヤモンド・オンラインからの転載です。転載元はこちら

カテゴリートップへ

最新記事

ASCII.jp特設サイト

最新記事

ASCII.jp ビジネスヘッドライン

アスキー・ビジネスセレクション
ピックアップ