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ブラック企業の壮絶パワハラ、体験者が明かすサバイバル術

2017年03月15日 06時00分更新

文● 工藤ダイキ(ダイヤモンド・オンライン

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パワハラは企業社会に深く根を下ろしている。ブラック企業で壮絶なパワハラを経験した元営業マンが、その実態を明かす(写真はイメージです)

会社員時代の絶望の日々
職場に潜むパワハラの惨状

「周囲は誰も助けてくれない」「もう会社を辞めてしまいたい」――。

 私はブラック企業の営業マン時代、日々そうした絶望の淵にいました。職場で壮絶なパワハラを受けていたのです。現在、フリーライターとして独立した私は、会社員時代の経験を基に社会の労働問題を取材し続けていますが、あのとき感じた恐怖や、やり切れない思いは、今も脳裏に焼き付いて忘れることができません。

 パワハラは古くて新しい問題です。最近では、周囲に「パワハラ上司」という印象を与えることを恐れるあまり、部下に対して厳しい指導をしづらいと嘆く企業の管理職の声も聞こえます。それはそれで問題ですが、こうした言説の背景には、「パワハラ」という言葉が世の中に蔓延し、インフレ状態を起こしているため、いささか軽いイメージで語られ過ぎるようになってしまったという一面もあるように感じられます。

 私はこうした風潮に、以前から危機感を覚えていました。本来の意味で言う「パワハラ」とは、職場で権力を持つ者が弱い立場の者に対し、業務上適正な範囲を超えて、精神的・身体的苦痛を与えるという、れっきとした人権侵害であり、場合によっては刑事罰の対象にもなりかねない行為だからです。その深刻さは、私のように実際に経験した者でないとわからないのかもしれません。

 昨年、大手広告代理店・電通の女性社員が長時間残業に疲弊して自殺した事件は社会問題となり、その背後にパワハラの存在も指摘されたことから、世間のパワハラへの問題意識が改めて高まりました。とはいえ、世間の意識の高まりだけでパワハラを根絶できるわけではありません。パワハラの「種」は企業の職場に深く根付いているからです。

 上司・先輩から部下・後輩に対して行われる「指導」と「パワハラ」の境界線を見極めることは、口で言うほど簡単ではありません。パワハラを受けている部下は、厚生労働省のHPを見たり、労働問題の専門機関に相談したりすれば、その定義や対応策に関する基礎知識は得られるでしょうが、日々職場で行われているパワハラは巧妙なケースが多く、個人の知見だけでは立証できないことも多いからです。また、明らかにひどいパワハラを受けているケースでも、社内での立場を気にして声を上げづらいという人も多いと思います。

 現在、パワハラ被害に遭って悩んでいるビジネスパーソンは、自分が置かれている状況をどう見据え、どう対処していくべきなのか。私の経験を基に、お伝えしたいと思います。

 本記事では自己紹介を割愛しますが、私が以前勤めていた会社の状況や退職後の経緯については、先日ダイヤモンド・オンラインに寄稿した記事「ブラック企業の元営業マンが教える、会社に人生を奪われない心得」で詳しく述べたので、興味がある方は参考にしてください。そこは美容商材を扱う商社で、まさに黒色に黒色を上塗りしたようなブラック企業。私はこの会社と関わったことがきっかけで、かなり特殊な経歴を歩みながら、今日に至っています。

 まずは、私が会社員時代に経験したパワハラの実態をご紹介しましょう。上司から暴言・暴力を受けているとき、同じ職場で働く従業員は誰一人として私のことを助けてくれませんでした。たとえば、退職勧奨を受けている際、私は直属の上司に胸ぐらを掴まれたことがありますが、同席していた社長は不敵な笑みを浮かべながら暴力を黙認。またすぐそばには他の従業員が5人ほど働いていましたが、一瞬空気が凍った後、みんな淡々と仕事に戻ってしまいました。「社会は残酷なんだ」と学びました。

録音内容を公開
これが退職勧奨の実態だ

 私はその後、このブラック企業を訴えることになりますが、そのとき役に立ったのが、パワハラを受けていた際にICレコーダーで録音していた「退職勧奨の録音データ」です。その一部をご紹介し、ブラック企業のリアルな実態を知ってほしいと思います。下記の会話は、営業所内で行われた退職勧奨の内容です。接続詞の追加や固有名詞の削除など、多少の編集を加えていますが、実際の会話の内容とほぼ同じです。

社長「なんで休日出勤しないの?」

筆者「いや……休日はバドミントンのクラブチームの練習がありまして……」

社長「じゃあオリンピック目指せって。今何歳?」

筆者「23歳(当時)です」

社長「間に合う!東京オリンピック!毎日練習しろ。だからお前は仕事してる暇ないよ」

上司「お前もう(会社を)辞めた方がいいよ?あ?」

筆者「いや頑張ります」

上司「頑張るじゃねーよ。頑張ってねーから言ってんだよ。ちっ」(※舌打ち)

社長「お前さ、ほんと考え方が違うんだよ。会社とお前の考え方が違うんだよ」

筆者「はい」

社長「お前バカか?ここに居んな。俺の近くに居んな」

筆者「すみません」

いい加減に辞表持って来い!
親に電話するから番号教えろ

上司「お前もう辞表持ってこい」

筆者「いや、頑張ります」

上司「いやじゃねーよ。いい加減にしろよお前」(※胸ぐらを掴まれる。社長黙認)

筆者「すみません」

上司「あ?何がすいませんだよ?迷ってる暇ないって言っただろ。ちっ」(※舌打ち)

社長「親の電話番号教えて」

筆者「え?なんでですか?」

社長「必要なんだよ。お前に言ってもしゃーねーだろ」

筆者「いや、僕でお願いします」

上司「うるせーよ」

筆者「親は関係ないんで」

社長「関係あんだよ。関係あんだよ」

上司「教えろって言ってんだよ。言えよ」

社長「なめてんだろ?ほんとに?ふざけんな!」

上司「社長、ぶっ飛ばしちゃダメですか?」

 この後、両親の連絡先を聞き出された私は、社長が電話をかける前に急いで両親に連絡し、「社長から電話があるかもしれない」という情けない報告を行いました。ちなみにその会社は週1回の休日出勤を推奨していましたが、給料や手当などは1円も発生しません。完全なサービス残業です。私は月2回のペースで休日出勤していました。

 私は小言などを除くと計7回ほど、社長にガッツリ退職勧奨をされたことがあります。だいたい毎回1時間前後で終わるのですが、長いときだと3時間以上、退職を促されたこともありました。退職勧奨は会議室などの密室で行われるときもあれば、全従業員が働く目の前で公開処刑にされることもあるなど、かなりバリエーションに富んでいました。

取引先の社員まで退職勧奨に
参加するという異常事態

 様々な退職勧奨を経験しましたが、その中でも極めつけでヘコんだのは、こともあろうに、他社の社員(M氏、H氏)が同席する中で行われた退職勧奨です。今から紹介する録音データは、実際には1時間近く行われた会話なので、重要な箇所だけを抜粋して記載します。営業所内の応接間(密室)で行われたものです。

社長「俺は退社したらどうですかってお願いしてるんですよ」

筆者「ここで頑張りたいです」

社長「懲戒免職になったらもう仕事先ないんだぞ?」

筆者「そうなんですか」

社長「(会社を)辞めてくれない?」

筆者「嫌です。ここで働きます。ここで働かせてください」

M氏「サラリーマンの経歴に傷が付くよ」

社長「昇給もない。ボーナスも払いません。この時点で気づいてほしいんだよね」

H氏「自分の置かれている状況わかってますか?」

社長「自主退職しろって。お前はまだ若いんだから。何を意地になってるの?」

H氏「いつまでに答えを出すんですか?」

筆者「いや……それは……」

M氏「覚悟した方がいいよ。身をもってわかるかもしれないね」

社長「お前この状態でも働こうとしてんの?」

筆者「はい」

社長「はははははははは(笑)」

M氏「はははははははは(笑)」

H氏「はははははははは(笑)」

 このような集中砲火が1時間近く繰り返される屈辱。M氏とH氏は美容商材を取り扱うメーカーの社員です。私は商社に勤めて彼らの商材を取り扱っていたので、彼らにとっての「お客様」が私のはずでした……。にもかかわらず、なぜこんな目に遭わなければいけないのか。おそらく、社長が頼んだからこその退職勧奨への参加だったと思います。ちなみに彼らの所属する会社は、業界でもトップクラスのシェアを誇る超大手メーカー。おそらく上場していたと思いますが、これでは企業コンプライアンスなどあったものではありません。

 パワハラはこうした言葉の暴力だけではなく、時には身体的な暴力も伴いました。それから間もなく、私は会社を唐突に不当解雇されてしまったのです。

上司個人の問題か、会社の問題か?
パワハラ被害者が身を守る2つの方法

 いかがでしょうか。私が経験したレベルのパワハラに悩む人が世の中にどれほどいるかはわかりませんが、パワハラとはかくも陰湿で、社員の心に打撃を与えるものであることがを、パワハラを受けたことがない人にも知ってほしいと思うのです。

 こうしたパワハラに苦しめられるビジネスパーソンは、どんな対策を考えればいいのでしょうか。私の経験則上、その対応は大きく2つのケースによって異なります。パワハラが上司個人の問題か、それとも会社の問題か、ということです。

 第一に、パワハラの原因が直属の上司にある場合です。この場合は、周囲の同僚に相談したり人事部に駆け込んだりして、上司にパワハラをやめさせるよう、社内での働きかけを行うことが先決です。たいていの場合は、人事部や会社の上層部が本人に厳重注意を行ったり、上司かあなたかのどちらかを別々の部署に異動させたりすることで、事態の収拾を図ってくれるはず。そうなれば、状況が改善される可能性は高いと思います。

 ただ、いくら苦境を訴えても、会社がちっとも動いてくれないというケースが意外に多いことも報告されています。そうした場合は、労働基準監督署などの外部機関に相談するのが順当なところでしょう。ただし、この場合に優先すべきは、自分が会社に残れるようによく考えて振る舞うことです。外部の力を借りて会社と直談判してもらうなど、強硬な手段をとると、それで上司のパワハラはなくなったとしても、周囲のあなたに対する心象は悪くなる可能性があります。弁護士に相談する場合はなおさらでしょう。いわゆる「色眼鏡」で見られることにより、居心地が悪くなり、ゆくゆく自分自身で退職を選ぶという残念なことになりかねません。問題の解決はなるべく社内に止めることが必要です。

 第二に、会社ぐるみでパワハラが行われている場合です。私が勤めていた会社はまさにこれでした。率直に言って、この場合は会社に残るという選択をせず、なるべく早く新しい人生のスタートを切った方が賢明と言えます。もちろん、「それでも今の会社で頑張り続けたい」と考える人はいると思いますし、それはそれで尊い選択だとは思います。しかし、いざというときに自分が不利にならないよう周到に準備をしながら、いつでも退職届けを出せる心づもりをしておくことは必要です。

 ここで強調しておきたいのは、もはや「周囲の心象」など気にしていてはいけないということです。こうした会社のパワハラは、身体的な暴力、賃金未払い、退職勧奨やその結果としての不当解雇など、法に抵触しかねない悪質な行為を伴うことが多くあります。労基署や弁護士などの外部関係者を活用し、「泣き寝入り」しないことを考えるべきです。これらの関係者に助けを求める際には、私が行ったように、パワハラの一部始終をICレコーダーで録音するなどして、明確な「証拠」を用意しておくことが必要不可欠です。

 私の場合は、不当解雇を受けたため、弁護士に依頼して会社と民事裁判を行ない、解雇を取り下げさせた上に、和解金として700万円を勝ち取ることに成功しました。「やられたらやり返す。倍返しだ」という言葉が流行りましたが、それはドラマの中だけでなく、現実においても胸に刻んでおくべきセリフです。

 ただし、どんなに酷な待遇を受けても高額の慰謝料を取ることは容易ではない、という事実は心得ておく必要があります。慰謝料には「相場」が存在しています。もちろん個々の案件や状況により獲得金額は大きく異なるのですが、パワハラの慰謝料は50万円も取れたら御の字の世界です。不謹慎な具体例かもしれませんが、パワハラによる自殺が労災だと認定されて、残された遺族がようやく数百~数千万円の慰謝料を手にすることができるというレベルです。

慰謝料だけなら50~100万円ほど
訴訟は費用対効果をよく吟味

 私が勝訴したときの弁護士曰く、「慰謝料だけなら50~100万円ほど」だったそうです(残りは未払いの残業代や転職支援金)。慰謝料請求と残業代請求を同時に行う「合わせ技」で攻めるなど、やり方はいくつもあるものの、パワハラの慰謝料は低額しか取れないという事実と向き合うことも必要です。実際、費用対効果を考えた場合、訴訟という選択をしないほうが無難となることも多いです。

 このような戦略的な考え方は、労基の職員よりも弁護士の方が得意だと私は確信しています。たとえば不当解雇を受けて労基署に相談しても、彼らには業務範囲の関係上、解雇の有効、無効を判断する権限がないため、相談者を助けたくても助けられません。ここが公的機関の限界と言えるでしょう。

 それに対して弁護士は機動力があり、圧倒的にビジネスライクです。彼らは獲得金額の一部を、自身の成果報酬として受け取ります。だいたい獲得金額の20~30%ほどを弁護士費用として支払うのが、一般的な契約条件です。つまり弁護士からすると、取れるだけ取った方が自身への見返りが高くなるわけで、「勝ち」へのこだわりの強さには心強いものがあります。もちろん、金銭ばかりでなく善意で活動している弁護士もいるでしょうが、弁護士はお助けマンではなくビジネスマンだと考えるほうが妥当です。会社ぐるみの深刻なパワハラに悩むビジネスパーソンは、まずは弁護士のところへ足を運んでみてください。

(注)社員との交渉で企業が支払うお金の名目にはいくつかの種類があり、一般的に金額が大きいほうから「和解金(示談金)>損害賠償金>慰謝料」となります。慰謝料は精神的苦痛に対する金銭の支払い、損害賠償はこれに治療費などを加えた包括的な金銭の支払い、和解金は前述のものを含めその他諸々(転職支援金や残業代など)を加味した、企業・社員双方の落としどころとなる金銭の支払い、という意味合いです。詳しくは弁護士や労働問題の専門家に聞いてみてください。

パワハラの真の温床は
当事者よりも周囲にあり

工藤ダイキ氏の著書『24歳のフツーの男子がブラック企業に勝った黒い方法』(こう書房、1296円[税込])発売中

 ここまでパワハラの現状やその対処法について述べてきました。パワハラ被害に遭っているビジネスパーソンが、上司や会社との関係を見直し、希望ある未来へと歩を進める一助になればと願ってやみませんが、最後にパワハラ被害の本質に触れておきたいと思います。

 先に紹介した私のエピソードでも述べた通り、パワハラ被害者が最も苦しんでいることは、おそらく職場内の誰かが手を差し伸べてくれない状況なのではないかと、勝手ながらに考えています。壮絶なパワハラを受けていたときのことを思い出すにつけ、私は当時、見て見ぬふりをして助けてくれなかったり、パワハラに加担したりした周囲の社員に対して、「なんてひどい人たちなんだ」と思っていました。

 しかし、今の私は「それも仕方なかったのかもしれない」という結論に達しています。もちろん、彼らの対応を容認しているわけではありませんが、私を助けたら社長の反感を買い、言い換えるなら、自らの首を絞めることになるわけです。

 家族を守るために、お金のために、自分の幸せのために私という弱者を切り捨てるという判断は、至極合理的だし、ローリスクだとも思います。日本人とは面白いもので、みんなで同じ行動をするのが是という、社風ならぬ「国風」があるように感じます。しかも、一度でもレールから外れたら最後、そう簡単に再起することを認めないという縛り付きです。だからこそ、黙殺という行為が合理的になってしまうのでしょう。

 そんな当たり前の事実をようやく頭で理解できるようになった私ですが、やはり本心では今でも怨みの念にかられることがあります。罵倒されたり、殴られたり、蹴られたりしたときは私も苦しかった。だけど、それらの行為を笑いながら見ている上司、見て見ぬふりをする同僚を目撃したときの方が、より激しい憎悪と苦しさを覚えました。

 その意味でも、パワハラが横行する風土を作り出す真の原因は、パワハラの当事者だけでなく、その周囲にこそあるのではないかと私は思うのです。企業においては、経営者、人事部、総務部といった人材戦略を考える立場の人ばかりでなく、全ての管理職や一般社員が、そのことを肝に銘じるべきではないでしょうか。

(フリーライター 工藤ダイキ)


※本記事はダイヤモンド・オンラインからの転載です。転載元はこちら

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