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人工知能とビッグデータによる右派のプロパガンダはこけおどし?

2017年02月28日 10時43分更新

文●Jamie Condliffe

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トランプ政権誕生を後押ししたとされるケンブリッジ・アナリティカのターゲティング広告とビックデータ解析に基づく心理分析には、威力を裏付けるデータがない。

ビッグデータと心理分析の威力が政治と主流メディアの様相を変える可能性はあるが、そう断言するのは難しい。

今年1月、マザーボード誌が長文記事を公開したもともとは スイスのダス・マガジン誌がドイツ語で掲載された文章で、ビッグデータ企業ケンブリッジ・アナリティカがドナルド・トランプの当選をどう後押ししたのか、比較的詳しく書かれていることで注目された。ケンブリッジ・アナリティカは自社のWebサイトで5000種のデータを基に、2億2000万人の米国民に関する心理プロファイルを収集したという。ケンブリッジ・アナリティカの背景にあるのは、ある人の考え方を理解すれば、その人の考えを揺さぶる効果的なターゲット広告を送れる、という理論だ。

さらにガーディアン紙が掲載した長文の記事はケンブリッジ・アナリティカの心理戦略が見かけよりも根深いことを示している。ヘッジファンドの経営者に転身したコンピューター科学者、ロバート・マーサーが、現在の米国政治とメディアを巡る状況を形作る「数百万ドルを投じたプロパガンダ・ネットワークの中枢を担って」おり、ケンブリッジ・アナリティカはその唯一の構成要素であるというのだ。

マーサーは確かにケンブリッジ・アナリティカに投資した。またトランプ政権のスティーブ・バノン首席戦略官(大統領上級顧問)が会長を務めていた極右メディアのブライトバートにも多額の資金を投入している。理論的には、レーザー誘導のような正確さでピンポイントに読者に情報を伝えるシステムを備えた右派ニュースサイトは、強力なプロパガンダ・マシーンを形成しうる。だがこの過程にケンブリッジ・アナリティカの心理プロファイリングがどれほど実際に貢献しているのかは定かでない。

昨年、MIT Technology Reviewの取材では、ケンブリッジ・アナリティカの活動がトランプの当選に決定的な影響を与えたことを示す公開データは存在しなかった。当時、ノースカロライナ大学チャペルヒル校のダニエル・クレイス教授(政治コミュニケーション論)は「データの基本的な分類はだいたい簡単に予測のつくもの」であり、一方「そうでないものがもたらす優位性は潜在的で、ほんのわずかなものでしかない」という。さらに最近、バズフィードはケンブリッジ・アナリティカの元従業員数名と、業務に関わったコンサルタントのインタビュー記事にした。バズフィードの取材で明らかになったのは「ケンブリッジ・アナリティカは自社の心理的手法がうまくいっている証拠さえ示さなかった」ことだ。つまりケンブリッジ・アナリティカのターゲティングの効果は、インターネット上で広く用いられている他の手法とそれほど変わらない可能性もある。

政治とメディアの面倒な状況をビッグデータと心理プロファイリングのせいにするのは、欧米諸国に広がる巨大な経済的分断を直視するより確かに魅力的だ。だが、データもなしにそのような立場を取るのは賢明ではない。

(関連記事:Guardian, Buzzfeed, Motherboard, “How Political Candidates Know If You’re Neurotic,” “Is 2016 the Year of Psychological Profiling?”)


転載元(MIT Technology Review)の記事へ

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