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エバンジェリストの長沢氏に聞いたアトラシアンのビジネスと製品

チーム開発での情報収集の課題を解決するアトラシアンのJIRA

2017年03月09日 07時00分更新

文● 大谷イビサ/TECH.ASCII.jp 写真●曽根田元

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アジャイル開発における効率的なプロジェクト管理を支援するアトラシアンの「JIRA Software」は、クラウド時代の開発スタイルにジャストフィットするツールだ。同社のユニークなビジネスモデルとプロダクトの魅力について、アトラシアン エバンジェリスト長沢智治氏に聞いた。

営業のいないアトラシアン、人が介在したら「バグ扱い」

 ソフトウェア開発の現場に向け、プロジェクト管理ツール「JIRA Software」を展開するアトラシアンは、技術や製品のみならず、なによりビジネスモデルという点で注目を集める企業である。2002年の設立以降、黒字経営を続け、2015年12月には株式公開を実現した優良企業だが、営業は一切おらず、クチコミとパートナーによる販売で業績を伸ばしている。営業がいないので、価格もきちんと明示されており、値引き交渉もやらないという。

「やっぱりアトラシアン自体が巨大市場の北米から遠く離れたオーストラリアの会社であることが大きいです。立ち上げ当初、リソースが足りない中、オンラインでサービス展開を進めていたら、けっこううまく行ってしまったんです。とはいえ、基本的な発想は『説明しないと理解できないようなプロダクトはよくない』ということ。価格が明示されていて、プロダクトの価値が理解でき、お客様のニーズとマッチすれば、当然購入してくれるだろうという考え方です。だから、ビジネスモデル上、人が介在すると弊社ではバグ扱いです(笑)」(長沢氏)

JIRA Softwareのカンバンボードによる全体の可視化、各アイテムと開発成果物の自動レポートによる把握

 価格だけではなく、製品情報もすべてWebサイトに載せており、無料で試すことが可能。購入したい場合はセルフサービスで欲しいものを必要な時に調達でき、クレジットカードで決済できる。B2Bの製品でありながら、B2Cに近いような販売モデルできちんと実績を伸ばしてきたわけだ。さらに社会貢献もアトラシアンのカルチャー。自身の経験も踏まえ、スタートアップへの支援も厚い。オンプレミス版を低廉な価格で提供し、売り上げはすべて寄付。また、NPOやOSSプロジェクトなどには無償で提供しているという。

セールスオフィスのないアトラシアンにとって日本オフィスは「実験」

 こうしたビジネスモデルの中、グローバルでは半数の社員が製品開発とサポートに携わっており、残りは必要最低限のマーケティング部隊だけ。マーケティングに数多くの人材を抱えるITベンダーと真逆のことをやっているわけだ。こうした先鋭的な考え方を持っている企業だけに、グローバルでもセールスオフィスは存在しない。オーストラリアのオフィスに業務は集中しており、2013年に日本法人を設立したのも、グローバルで成功したモデルを日本でも試してみるという「実験」なのだ。

「だから、われわれはつねに実験台なんです(笑)。エバンジェリストがいるのも日本だけ。エバンジェリストがいて、市場を盛り上げられるのであれば、今後まだまだ導入が少ない国や地域でもビジネスを拡大できるだろうという考え方です」(長沢氏)

 製品戦略もこうした会社の方向性に紐付いており、とことんオープンを旨とする。マニュアルや価格はもちろん、バグの情報や機能要求などもすべて公開。製品自体もプラットフォーム化されているので、アドオンで機能を追加でき、マーケットプレイスでビジネス化することも可能だ。さらにOSSではないが、購入していただいてた会社に関しては、希望があればソースコードも公開しているという。

「機能要求は投票制なので登録も自由だし、他のユーザーにも見られるようになっています。だから、製品に多少問題があっても、現状を知ることができます。ユーザー含めてみんなで育てていく感じですね。古くから使ってくださっている日本のあるお客様は『ダメな子を育てていく感覚』とおっしゃてくれました」(長沢氏)

 創業当初はオンプレミス版からスタートしたが、JIRAやConfluenceなどの主力製品も、今では完全にクラウド化されている。プロジェクト自体が短期化したり、コストダウンしていることもあり、最近ではサーバーを立てられないという案件も多く、クラウド版の方が受けているという。一方、機密情報があったり、開発スタイルがまだまだトラディショナルといった事情もあり、継続してオンプレミス版も提供している。これもユーザーニーズの結果だという。

開発サイクルにあわせてツールを連携できるところこそ価値

 グローバル企業のソフトウェア開発ではデファクトスタンダードと言われるくらいJIRAの浸透度は高い。ウォーターフォール型からアジャイル型へと開発環境が移行する中、最近は開発サイクルも短縮化している。そのため、トレーサビリティと透明性の高い開発環境を構築しなければ、品質の高いソフトウェア開発は難しい。

「正直、RedmineのようなOSSでもCI(継続的インテグレーション)みたいなことはできるんですが、仕様要求やバックログ、タスクなどの管理が今は縦割りで独立しています。そこでなにが起こっているかというと、情報収集にものすごく時間がかかっているんです。どこを修正したかソースコードを追うのも、コメントやID、ログなどをベースに探さなければいけない。ビルドも自動化したけど、そもそもなにをビルドしたのかわからないとか。プロジェクト作業の半分近く情報収集に費やしている会社も多いです」(長沢氏)

 こうした中、アトラシアンのJIRAの提供できる価値は、単なるプロジェクト管理にとどまらず、さまざまなツールと連携し、計画、追跡、リリース、レポートなどソフトウェアの開発プロジェクトを一気通貫でトラッキングできるという点だ。また、JIRAを柱に製品の要求仕様書の作成を行なえる「Confluence」やサービス型のGitソリューションである「Bitbucket」、ビルドツールの「Bamboo」、チームコラボレーションの「HipChat」など、アトラシアンのさまざまなツール・サービスを組み合わせることで、より効率的なチーム開発を実現できる。

開発プロジェクトを一気通貫でトラッキングできるアトラシアンの製品群

「たとえばConfluenceであれば企画チームが作った機能要件を1件1件チケット化してくれます。そのチケットを開発チームに渡せば、ステータスが動的に管理できるので、この機能がどこまで開発できているのかを追うことができます。企画チームは登録も自然言語でできるし、ドキュメントは議事録でもかまわない。コラボレーションの機能でディスカッションも可能なので、開発チームも企画チーム側の意図を理解した上で開発が進められます。運用側もソースのどの部分が変更されたのか、どういったテストを通っているのかなどを確認できます」(長沢氏)

OSSやクラウドサービスとの連携も可能なオープンなJIRA

 また、「オープン」という製品戦略からもわかるとおり、アトラシアンのJIRAは、他のOSSやクラウドサービスと組み合わせることも可能で、ユーザーが使いやすいツールを必要に応じて組み合わせることができる。この連携がアトラシアンのツールの最大の強みだ。

「たとえばBitbucketではなく、JIRAとGitHubで連携するとか、Jenkinsと連携するといったことが簡単にできます。なので現場の持っている過去の試算を活かしつつ、情報収集に時間がかかるとか、プロジェクト全体の把握が難しいといった課題を解決できます。実際、OSSでCIをやろうとして、JIRAに目を付けたという会社は導入も速いです」(長沢氏)

 もちろん、AWSのCodeDeployなどのサービスとも連携できる。クラウドネイティブなアプリケーションの場合、コードがどんどん変わり、頻繁にデプロイを重ね、マイクロサービスによってインフラもダイナミックに変化することになる。こうした開発環境の中、JIRAを使ってソフトウェア開発の見える化を進めていくのは必然の流れだという。

「AWSを使えば、インフラ回りの心配はほぼなくなります。ジョブの自動化や状況把握もできるようになっています。問題はその上で動いているアプリケーションがまともかどうか。これらをちゃんと管理しておかないと、頻繁に更新しても対応できなくなります。今後、マイクロサービスが一般化してくると、インフラ側も変更がかかってくるので、アプリケーションのコードとインフラのコードを両方とも見なければならない。とにかく柔軟になった分、見なければならない情報はかなり増えるはずなんです。その点、情報収集を効率的にするというJIRAの価値はクラウドでも同じです」(長沢氏)

情報収集の課題をクリアすれば、開発者もクラウドのメリットを享受できる

 これまでソフトウェア開発のプロジェクト管理はExcelで行なわれることが多く、タスク管理の面ですぐに限界を迎えていた。RedmineのようなOSSを導入するユーザーも多いが、メンテナンスという観点ではJIRAに分があるという。JIRAの場合、サービス型なのでメンテナンスが不要。本格的なチーム開発体制を構築するにあたって、日本語サポートやパートナーによる導入支援があるということで、導入されるパターンが多いとのこと。

 特にアトラシアンのツールに行き着くケースとして多いのは、プロジェクトごとに管理ツールが全部違うという課題だ。企画チームはExcelやGoogle、開発チームはRedmineやSlackなど、それぞれ利用するツールが異なるため、情報は分断。こぼれ落ちたタスクが品質低下やスケジュール遅延につながる。

ソフトウェア開発だけでなく、業務プロセスやヘルプデスクへの拡張が行なわれ、DevOpsのムーブメントに沿って製品が進化している

「プロジェクトが固定され、ツールが独立していればまだいいのですが、最近はエンジニアの流動性が高く、違うプロジェクトに移ることもよくあります。そうなると、ツールが違うと、その習熟コストが馬鹿にならないです。全社規模で使えて、価格面でも納得できるようなツールということで、JIRAを選んでいただくケースが増えていますね。JIRAを使って、情報収集の課題をクリアし、自分たちの価値を最大限に上げられる環境を作っていただきたい。そうするとクラウドの良さがさらに活きるはずなんです」(長沢氏)

■関連サイト

(提供:アトラシアン)

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