このページの本文へ

企業も銀行も健全化したのに経済活動が上向かない理由

文● 高田 創(ダイヤモンド・オンライン

  • この記事をはてなブックマークに追加
  • 本文印刷
デフレ脱却への道筋を確かなものとするために、2017年は疑似ヘリコプターマネー的なものや、日銀のバランスシートの縮小を行わないとのコミットを行うような対応が選択肢になりそうだ

国債は債務の
「身代わり地蔵」

 一般的な見方として「国債は財政赤字垂れ流しの浪費によって積み上がった」との考えがあるが、そう単純ではない。筆者は長らく、国債は「過剰な債務を肩代わって積み上がった身代わり地蔵」として説明してきた。

 国債はバランスシート調整に伴う損失処理のプロセスのなか、段階的に債務を肩代わり、「時間を確保する器」の機能を果たす。悪く言えば、債務問題の「先送りの道具」でもあった。

 日本の1990年代以降のバブル崩壊において、企業の過剰債務問題として議論された。それから30年近くが経過し、日本企業の債務負担は極めて軽い、「筋肉質」状況になった。一方、長年にわたる債務負担を肩代わりしてきた結果、国債残高が巨額に達した。

◆図表1 バランスシート調整の最終局面概念図

 図表1は、筆者が1990年代から用いてきたバランスシート調整の「段階的」概念図である。バランスシート調整の基本形は次の3原則、すなわち、(1)債務の肩代わり、(2)成長戦略として債務処理原資確保(多くの場合は自国通貨切り下げ)、(3)先行き期待改善のパッケージである。

 まず先に、国債を用いた「肩代わり」が行われる。次に、同図表の左側に示される債務負担処理の原資を確保した損失処理が必要になる。債務負担処理の原資は、理想的には新商品開発や生産性向上等で新たな市場を確保することであるが、現実には海外への依存、自国通貨切り下げ政策がとられてきた。

 その結果、同図表の右側で先行き期待を改善させ、資産価格を改善させることが必要とされた。以上の債務肩代わりプロセスは日本では完了し、さらに金融機関の国債は日銀が肩代わりするまでの最終段階になった。

 企業の債務は軽くなり、今や上場企業の半分以上は「実質無借金」だ。銀行のバランスシートも世界一の水準まで健全化した。企業も金融機関も本来なら前向きな投資に動いてもいい状況であるにもかかわらず、経済活動が一向に盛り上がらないのはなぜだろうか。

長年の債務調整の結果
日本経済は草食系に進化

 長年の債務調整のなかで先行き期待が低下し、その結果、過去の履歴を背負う適合的期待形成によって足元、経済活動が回復してもマインド改善に至っていないと筆者は説明してきた。日本の経済主体の行動パターンが、先行き期待の高い「肉食系」から「草食系」に進化し、一度、「草食系」に進化してしまった以上、なかなか元に戻りにくいとした。先の図表1で、債務を肩代わりしてもらったにもかかわらず、企業や金融機関等の民間経済主体が依然慎重な行動にあるのは、単に過去の履歴を背負う、適合的期待形成だけによるものでもない。

 依然、残った次の課題として、「身代わり地蔵」である国債残高そのものの大きな塊が債務として存続している以上、残高を削減すべく、いずれ大幅な増税が行われると国民が意識すれば、消費行動はより慎重になる。同様に、日銀が国債を大量に抱えたなか、いずれ日銀が売却し、金利が上昇すると予想すれば金融機関の行動も慎重になりやすい。

 前ページの図表1で、確かに民間での肩代わりが終わったものの、依然、債務そのものは残存するだけに、結局、国民に負担意識が続くとの見方もある。

 こうした考えは、財政学では「リカードの中立命題」として教科書的な見方である。また、財政当局が財政再建と増税の必要性を国民に語れば語るほど、国民の増税負担意識が拡大し、国民は先行きに慎重になりやすい。

負担意識の軽減を行えば
マインド改善につながるか

 図表2は、債務の肩代わりからの出口戦略で、増税不安や日銀による金利上昇不安が生じることで国民が慎重な姿勢をとることを示したものだ。一方、非伝統的な出口戦略においては、ヘリコプターマネー(空から国民に紙幣を散布すれば、人為的にインフレを起こさせるだろうという考え)として、増税による負担の先送りを行うことや、日銀の保有国債の売却を抑制することが選択肢になる。

 一般的に、日銀の国債直接引き受けで資金を配るような、打ち出の小槌のようなヘリコプターマネーは正当化しにくい。ただし、現実に債務負担が先行きの期待回復を阻んでいる以上、一定の負担意識の軽減化も不可欠だ。今日、財政を重視した物価水準の財政理論(Fiscal Theory of Price :FTPL)が再び脚光を浴びているのは以上のような論点が背景にある。今月、その提唱者で、2011年にノーベル経済学賞を受賞したクリストファー・シムズ・プリンストン大学教授が来日し、大きな話題になった。

 一方、2017年はデフレ脱却への道筋を確かなものとするために、疑似ヘリコプターマネー的なもの、同時に日銀もバランスシートの縮小を行わないとのコミットを行うような対応が選択肢になることもあるのではないか。もちろん、恒久的なマネタイゼーション(通貨増発に伴う国債の貨幣化)には財政面で規律ある枠組みも必要になるのは言うまでもない。

 こうした対応は2017年後半に予定される衆院解散総選挙に向けた対策にもなる可能性がある。今後の、金融財政政策を巡る世界的な潮流には注目だ。

◆図表2 債務の肩代わりのなかでの出口戦略

(みずほ総合研究所 常務執行役員調査本部長/チーフエコノミスト 高田 創)


※本記事はダイヤモンド・オンラインからの転載です。転載元はこちら

カテゴリートップへ

最新記事
最新記事

アスキー・ビジネスセレクション

QDレーザー販促企画バナー

ASCII.jp ビジネスヘッドライン

ピックアップ