日用品としてのBluetoothイヤフォンの新基準
さて、その性能ですが、2000円台で買えるBluetoothイヤフォンは少ないので、クオリティーが高ければ同価格帯のスタンダードということになるはずです。
まずBluetoothで問題になる遅延は感じられません。YouTubeでライブ演奏の動画を見ても、ギタリストのピッキングやドラマーのスティックの動きと音は一致していて、ずれるようなことはない。動画視聴がストレスになるような、遅延のひどい製品がまだまだ多い中で、この点だけでも使う価値があります。
そしてBluetoothであることに起因する、顕著な音質の劣化も見られません。たとえば高域のモジュレーションのようなもの。パワーはそれほどないようで、音量を上げるとかなり早めに歪み始めますが、ごく普通の音量ならS/Nも悪くない。
イヤフォンとしての素性は、どう表現すべきか、ちょっと難しいところがあります。まずBluetoothではない2000円台の有線イヤフォンと較べてどうかというと、これは分が悪い。なにしろこのクラスには1MOREのPiston Classicが存在するので。でも、Piston Classicが存在しなかったとすれば、2000円台のイヤフォンとしては良心的な特性です。
端的に言えば、かなりローエンドに寄った特性ですが、不必要に盛ったことによる飽和は感じられず、中高域とのバランスも損なっていない。はっきり言ってしまうと、日本のメーカーの5000円~6000円のBluetoothイヤフォンより、オーディオ機器としてずっとまとも。スポーツスタイルの密閉カナル型としては、意外や意外、音楽を楽しむには十分な性能です。
それにしても最低価格帯のBluetoothイヤフォンがこのレベルというのは驚きです。イヤフォンは趣味のオーディオ機器である一方、なければ困る日用品でもあります。Bluetoothイヤフォンも以前はあると便利な贅沢品だったはずですが、イヤフォン端子のないスマートフォンが増えてくると、日用品としての価格と性能が求められるはず。
いまどうしてもBluetoothイヤフォンが必要。そういう方は迷わずお求めください。価格以上の価値はあります。
著者紹介――四本 淑三(よつもと としみ)
1963年生れ。フリーライター。武蔵野美術大学デザイン情報学科特別講師。新しい音楽は新しい技術が連れてくるという信条のもと、テクノロジーと音楽の関係をフォロー。趣味は自転車とウクレレとエスプレッソ