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アスキーエキスパート第21回

小さな個人の想いが、地方のオープンイノベーションを生む

2017年02月02日 09時00分更新

文● 井田広之/アスキーエキスパート

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国内の”知の最前線”から、変革の先の起こり得る未来を伝えるアスキーエキスパート。鳥取県庁の井田広之氏による地方都市でのオープンイノベーションについての最新動向をお届けします。

後回しにされがちな地域・鳥取

 オープン初日に1000人もの行列ができたというスターバックスコーヒー鳥取1号店。2015年5月のことで、この鳥取出店によってスタバは全都道府県への進出を果たした。日本国内のスタバ1号店は1996年オープンというから、実に20年経過してから鳥取に店舗ができたのだ。また、ディスカウントストアのドン・キホーテは2016年11月、本州で1番最後に鳥取にオープンした。

 良いか悪いかは別として、これらのように、全国展開するお店が「やってきたとしても最後のほうに進出して来るのが鳥取」というのが、筆者が子どもの時からの肌感覚で、地域でも暗黙の了解的な話なのだ。

 これは企業の取る行動としてはとても合理的な判断で、鳥取県は人口が全国で1番少なく、商圏も小さい。そのため、ビジネスという観点からすると、稼ぎにくい地域であり、全国展開するにあたっては、出店の優先順位が下がるのである。

大手やスタートアップによる新しい兆し

 しかし、筆者は最近、この従来の流れとは異なる新しい兆しが見えてきたと感じている。たとえば、以下のような全国に展開されていくプロジェクトが鳥取を起点に始まっている。

■スターバックスコーヒージャパンの例
 前述のとおり鳥取進出は全国で1番最後となったが、日本の地域で受け継がれてきた伝統技術とコラボしてプロダクトを生み出す“JIMOTO made”プロジェクトでは、第1弾の東京(江戸切子のグラス)に続く第2弾を鳥取で展開している。具体的には、地元の窯元・玄瑞窯(げんずいがま)と組み、鳥取砂丘や美しい海をモチーフとしたオリジナルマグカップを開発し、地域限定で販売している。スタバファンが地域に足を運ぶきっかけになるとともに、地元への愛着や誇りを持つことが期待される。

アスキーエキスパート 鳥取第6回
『コーヒーアロママグ Sakyu』

■エアークローゼットの例
 エアークローゼットは、全国の働く女性やママのライフスタイルを応援することを理念に、オンラインファッションレンタルサービスを行う注目のスタートアップ。企業コラボなど様々な形のプロジェクトを展開する中、家庭や仕事で頑張る“地方の女性”のライフスタイル全般を応援して地域活性化を目指す“Follow me project,”も実施している。これは、地方の女性をマイクロインフルエンサー(多数のフォロワーを抱えるソーシャルメディアユーザー)として育成することで、地方の課題であるマーケティング力の向上などに貢献するもの。このプロジェクトの第一弾が鳥取県からスタートしており、今後全国への展開を検討しているという。

なぜ、地方展開が起きているのか

 このような全国でもブランド力のある企業や注目スタートアップが、全国での展開を考えている取組みを鳥取の地から始めることは、以前は見られなかった動きである。この要因としてまず考えられるのは、政府による地方創生の推進と、地方に対する社会的な関心の高まりであろう。

 さらに、これらのプロジェクトを知っていく中で筆者が気づいたことがある。それは、いずれのプロジェクトも地方側に熱量の高いキーパーソンがいることだ。スタバのプロジェクトのパートナーは、地元の若手陶芸家であり、子どもの頃に関西から鳥取に引っ越してきた自身を受け入れ育ててくれた故郷・鳥取に恩返しがしたいという熱い想いがあり、今回のオリジナルマグは、1年半もの開発期間を経て出来上がったという。

地方のキーパーソンは役所にもいる

 一方、外部と連携して地域の課題解決に挑むキーパーソンは、全国の地方自治体にも増えつつある。筆者は2017年1月に、TEDxにも登壇し話題を呼んだ元ナンパ師の塩尻市職員・山田崇氏、マッキンゼーなどを経て組織の“変革屋”を担う佐々木裕子氏、イノベーション・ファシリテーターの野村恭彦氏らが東京・原宿で開催した“MICHIKARA官民協働フォーラム”(関連サイト)に参加した。

 これは、全国の地方自治体で働く公務員や地方創生に関わる民間企業のリーダーたち約50名が集まり、官民連携プロジェクトの事例を学ぶとともに、地域の理想の未来をグループで試作したり、相互にネットワーキングする場であった。

 参加していた公務員はイノベーター人材ばかりで、”やらされ”ではなく”自発的”に動き、役所の既存のルール・風土の壁にぶち当たってもくじけずに前に進むような人々であり、地域課題の解決のために民間企業と連携して取組むことに非常に前向きであった。

 このように民官問わず地方側にも都市部等の先進的企業と対等な関係で連携できる熱い人々が増えており、小さな個人であってもその情熱によって社会を変え得る時代において、前述のような新しい動きが今後ますます地方に増えていくのではないだろうか。

動き出したオープンイノベーション構想

『星空の鳥取砂丘で仲間たちと』 撮影:佐々木健太

 2016年7月21日の記事でご紹介した地域経済活性化に向けたオープンイノベーション構想“星空県”(関連記事)が、このたび鳥取県庁の公式なプロジェクトとして動き出しそうだ。県名に引っ掛けた“星取県(ほしとりけん)”という名で展開される見込みだ。もちろん、筆者ひとりの力ではなく、構想に共感し応援してくださった県内外の多数の方々、また、筆者と一緒に事業化の実現に向けて積極的に行動を起こしてくださった地域の熱い方々の想いの賜物である。今後も、星空・宇宙をテーマにして、地域内外で様々なコラボをしながら、地域の産業創出に繋げていきたい。

■関連サイト
とっとりとプロジェクト

井田広之(いだひろゆき)

著者近影 井田広之

全国の生活者と鳥取県の企業が新商品を共創する「とっとりとプロジェクト」で、全国知事会「先進政策大賞」、日本デザイン振興会「グッドデザイン賞2015」を受賞。最近では、日本一に輝いた鳥取の美しい星空と宇宙をテーマに地域経済活性化を目指す「星空県」構想を提唱し、民間月面探査チームとのコラボもスタート。
経済産業省プログラム「始動Next Innovator」第1期生。中小企業診断士。神戸大学経営学部卒、山陰合同銀行を経て、鳥取県庁にて産業振興分野を10年担当。

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