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さようならSR-03GP

パナソニックから東芝、そして台湾へ、一膳炊き鍋の変遷をたどる

2017年01月22日 15時00分更新

文● 四本淑三

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SR-03GP

 一膳のご飯が美味しく炊けるのみならず、万能調理器としてデスクトップで大活躍してしまうパナソニックの「SR-03GP」。小さくかわいい上に役に立つこの機械をわたくしはもう手放せません。

 ところで、マイコン制御も保温機能もタイマーもないのに、うまく炊けてしまう理由はなんなのか。それは温度スイッチの仕組みにあります。

 炊飯器に使われているのは、フェライトと磁石を使った温度スイッチが一般的です。磁性体であるフェライトは磁石にくっつきますが、ある温度以上になると磁石につかなくなる。その温度をキュリー温度といい、そうしたフェライトの特性を使ったスイッチです。

 中でも感温フェライトという素材は、材料の組成でキュリー温度をマイナス10度から130度の間まで自由に設定できるそうです。これで鍋底に接している感温フェライトが設定温度に達すると、磁石が離れてスイッチが切れるというシンプルな仕組みが成り立つわけです。

 ちなみにフェライトを発明したのは東工大の先生で、それを事業化したのがTDKですから、オールジャパンテクノロジーによる日本のオリジナル家電が炊飯器とも言えるわけです。もちろんSR-03GPもその末裔。フェライトを使った温度スイッチの仕組みはTDKのサイトでどうぞ。

炊飯器の底にある、押すとぷよぷよ動く丸いもの。その裏にフェライトが貼られています

この裏ぶたの中にスイッチが収まっているので開けてみましょう。お約束の注意事項ですが、分解は自己責任で

私は自己責任で開けてみました。レバーと連動するスイッチの仕組みが見られます。これは磁石が落ちてスイッチが切れている状態

これは磁石がくっついてスイッチが入っている状態

 では、最後にSR-03GPの開発意図やユーザー層について問い合わせてみよう。ということで、まずパナソニックのウェブサイトを開いてみたところ、えええっ!

後継機種の計画はなし

 なんと「生産終了」の文字ががががが……。

 幸せな一膳生活も、一転して奈落の底に。しかし気を取り直し、改めて後継機種の計画はないのか、そして歴代製品のラインナップについてパナソニックさんに問い合わせてみました。

 まず、後継機種の予定はないそうです。市場に出回っている製品で最後。パナソニックほどの大企業では、一度下された決定が簡単に覆るはずもなく、これは本当に残念ですが諦めるしかありません。

 また、この製品の歴史について確実にわかっているのは、2001年に当時の「ナショナル」ブランドで「SR-G03」というモデルが発売されていたこと。その際の資料に「23年継続していたモデルのマイナーチェンジ版で、フタがガラスになり、カラバリが増えた」という記述があったこと。その2点のみ。それ以前の製品の資料は見当たらず、現在の事業部にも知る者はいない。よって公式に回答できるのはここまで、ということでした。

 まずは、ここまで製造が続いたことに感謝しましょう。そして残されていた資料から推測するに、モデルチェンジをしながら同等の製品の生産はおよそ40年ほど続いてきたことになる。これは大変なロングセラーモデルということになります。

 そこで最初のモデルがどんなものだったのか、ネットを検索して勝手に調べてみることにしてみました。0.27L、1.5合炊きという仕様の炊飯器で確認できたもっとも古い製品の型番は「SR-3F」。ヤフオクの出品などからオレンジやグリーンなどのカラバリが存在したらしいこともうかがえました。パナソニックさんの資料にあった「23年間継続していたモデル」は、おそらくこれでしょう。

 このようにロングセラーを続ける製品にはなにかしら共通する理由があります。たとえばシトロエンの2CVやホンダのカブのように、単純だけど工夫次第でどうにでも使える、便利過ぎず工夫するのが楽しいという部分。SR-03GPにもそれは確かにあるわけで、2CVやカブと同様、丈夫で長持ちだろうと期待します。でも、いずれ使えなくなる日はやって来るわけで、そのときどうするのか。

 0.5合が炊ける炊飯器はほかのメーカーにもいくつかあります。たとえばコイズミの「KSC-1510」のように、保温機能やタイマーなど機能で上回るものもある。でも、なんというかこう、デザインがいまひとつ可愛くない。できればSR-03GPの生産設備をどこかに払い下げ、ジェネリック家電として生き残ってくれないかとも思ったりもするのですが。

 たとえば、我々はまだ、こんな形で世界最初の炊飯器を手に入れることが可能です。

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