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GMOインターネットのネットワークエンジニア中里氏に聞いた、OpenStack採用の裏話

OpenStackベースの「Z.com Cloud」はわずか4カ月でできた?

2017年01月18日 07時00分更新

文● 大塚昭彦/TECH.ASCII.jp 写真● 曽根田元

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OpenStackのノウハウを結集、「いいところどり」をして新サービス開発

 OpenStack JunoベースでConoHaやGMOアプリクラウドのリニューアルを終えた開発チームは、両者の「いいところどり」をした新たな法人向けクラウドサービスの事業提案をすることになる。それがZ.com Cloudだ。

 同社役員からは「(既存の)ConoHaやアプリクラウドではすくい取れないユーザー層向けの、新たなクラウドサービスを開発してほしい」という要件だけが伝えられており、具体的なサービス内容や機能要件は現場の開発チームが検討することになった。

 中里氏は、ネットワークサービスの面から見ると、ConoHaはソフトウェアベースの「柔軟性」を、GMOアプリクラウドはハードウェア(物理アプライアンス)ベースの「高速性と安定性」を備えており、新しいサービスではこの両方を兼ね備えたものを実現したいと考えたという。

同じOpenStack Junoベースで、ConoHa、アプリクラウドそれぞれの「いいところどり」を目指したのがZ.com Cloudだ(中里氏が描いた説明図)

 「それまで、当社の営業担当からは『(既存クラウドでは)この機能がないから失注した』という話をよく聞いていました。法人向けサービスの場合、インフラ構成は案件ごとにまちまちで、特にネットワークに関する要件はかなり多様です。ならば、その『できない』をなくすクラウドを作ろうと設計しました」

 たとえば、Z.com Cloudが提供するロードバランサーサービスを見ると、ConoHaで利用できる安価なソフトウェアロードバランサーと、アプリクラウドで利用できる高性能な物理アプライアンスの両方が選択できる。そのほかにも、グローバルIPアドレスの払い出しや専用線/閉域網サービスにも、いくつかの選択肢が用意されている。

 「パブリッククラウドの提供者としては、OpenStackの仕様にサービスを合わせるのではなく、必要とされているサービスにインフラを合わせなければなりません」「スケールの問題で、OpenStackが前提とするネットワーキングモデルが破綻してしまうようであれば、そこは切り分けて外のアプライアンスなどに任せるという判断も必要でした」

Z.com Cloudが提供するネットワークサービス群(パンフレットより。一部、将来提供予定のものも含む)

 ちなみに、ロードバランサーを提供する物理アプライアンスとして、アプリクラウドではブロケード製の「Brocade ADX」を採用していたが、Z.com Cloudではそれに代わってA10ネットワークス製の「A10 Thunder 1030S」を採用している。ADXの販売終了に伴って次の製品を探した結果、ベンダー自身がOpenStackプラグインを提供しており、オペレーションの方法もADXと似通っていたことが、A10採用の理由だという。

 「ADXを採用した際はOpenStackプラグインが用意されておらず、OpenStackとつなぐツールを自分たちで開発しましたが、今回はプラグインがA10から提供されていたので比較的簡単に動かせました。動作検証を仮想アプライアンスで行い、その設定をそのまま物理アプライアンスに引き継げた点も評価しています。A10とほぼ直接やり取りして技術サポートをいただき、特に大きなトラブルもなく、検証開始からおよそ1カ月で採用を決定しました」

Z.com Cloudでロードバランサーに採用された「A10 Thunder 1030S」。顧客ごとに仮想パーティションで切り分けLBaaSを提供

 ConoHa、アプリクラウドのリニューアル作業で苦労を重ねた甲斐もあって、OpenStack Junoを採用したZ.com Cloudの開発はきわめてスムーズに進んだという。結果、前述のとおり4カ月ほどでサービスをローンチすることができた。「自分たちで作った、という意識が特に強いサービスになりました」と中里氏は語る。

 「ConoHaのときは土日も作業しないと間に合わないような状態でしたが、そのときのノウハウがあったので、Z.com Cloudではあまり苦労しませんでした。Z.com Cloudは『定時内で健全に開発したサービス』ですね(笑)」

Z.com Cloudは「SIをするためのクラウド」というポジショニングで

 昨年夏にリリースされたばかりのZ.com Cloudは、これからさらにサービスを拡張していく段階だ。次のフェーズとして、帯域保証型回線、顧客側で用意した仮想アプライアンスの立ち上げ、SSLオフロード機能といったサービスを開発中だ。

 特にこれからは、インフラよりも上のレイヤーでのサービスを強化していくべきだ、というのが中里氏の意見だ。そのためにも今回、安定したインフラプラットフォームを構築できたことは大きな意義を持つという。

 「パブリッククラウド市場では、すでにAWS、Azureといった“巨人”がいます。それを考えると、単に仮想インフラを提供できます、というだけのサービスでは厳しい。Z.com Cloudは、パブリッククラウドというよりも『SIをするためのクラウド』なのかなと考えています。オンプレミスのシステムをクラウドに移行するときに、顧客と対面して、工数をかけながら構築していくためのツールというポジションですね」

 中堅規模までの企業はZ.com Cloudでカバーし、クラウド移行のコンサルティングやSIも含めてGMOグループやパートナーがサポートしていく。また、大規模な企業向けには、専有のプライベートクラウド環境をホストし、月額で提供する「プライベートクラウドホスティング」サービスも開始している。こうしたサービスも、OpenStackに関する技術とノウハウをGMO自らが蓄積したからこそ、可能になったと言えるだろう。

 とはいえ、技術はあくまでも、顧客に喜ばれるサービスを作り、提供するための「道具」にすぎないことを、中里氏は繰り返し強調した。ネットワークエンジニアから「クラウドを作る仕事」へジョブチェンジしたことで、エンジニアとしての視点も少し変化したのかもしれない。

 「OpenStackへのこだわりはまったくありません。技術はあくまで目的ではなく、サービスを作るための手段ですので、ほかの道具でも構わないと思っています」

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