メルマガはこちらから

PAGE
TOP

日本はまだ35% 電子カルテがなかなか普及しない理由

連載
ASCII×クリプラ 電子カルテきほんのき

クラウド型モデルも登場し、拡大を見せる電子カルテ領域。いま、医療はどこまでIT化が進んでいるのか。ASCIIによる最新情報を毎週連載でお届けします。

第3回テーマ:電子カルテ x 普及しない理由

 大病院を除いて、一般診療所に電子カルテが広く普及しないのはなぜか。

 最大の理由は、導入にかかるコストの高さだといわれている。そして導入以降も、メンテナンスやアップデート、サーバーが故障した際の修理代などがかさんでいき、結果費用対効果に合わないというのだ。そもそもが、設置型電子カルテは、セキュリティーや運用保守への意識が高いものであり、そのぶんコストも高かった。

 また、電子カルテによる作業の効率化などのメリットは理解できているものの、紙カルテから切り替える際に、診療の混乱や入力作業の手間があるのではといった懸念も挙がっているという。

 以上が基本的な部分だが、ここからはクラウド電子カルテに詳しいクリニカル・プラットフォーム鐘江康一郎代表取締役による解説をお届けする。最新トレンドをぜひチェックしてほしい。なお、本連載では、第三者による医療関連情報の確認として、病院経営の経営アドバイザーとしても著名なハイズ株式会社の裵(はい)代表による監修も受けている。


デジタルだからこそ実現できる機能が電子カルテには必須

クリニカル・プラットフォーム代表取締役 鐘江康一郎氏

 スウェーデン、デンマーク、イギリス、オランダでは、すべての開業医が電子カルテを使用しています。フランス、アメリカの導入率は約70%に達しています。一方、日本の診療所における電子カルテの導入率は約35%と言われています。医療者にも患者にも大きなメリットがあるはずの電子カルテが、全体の3分の1の診療所でしか使われていないのはなぜでしょうか?

 2013年にメドピア社が行なったアンケート調査によると、電子カルテ未導入の医療機関の42%が「コストが高い」ことを理由に挙げています。つまり「電子カルテは使いたいが、高すぎるから導入できない」というのが、多くの方が持っている感覚のようです。私は、この「コスト」という言葉には2つの意味があると捉えています。1つは「絶対額」としてのコストで、もう1つは「費用対効果」という意味でのコストです。いわゆる「コスパ」ですね。

 電子カルテと同じく高額な費用のかかる医療機器は、使うたびに収入を得られますが(例えば、心電図を1回計測すると1300円の収入となります)、電子カルテはどれだけ使っても1円の収入にもなりません。この点が「電子カルテ導入はコストに見合わない」と言われる所以なのでしょう。紙でもできる「記録」「保存」をデジタル化しただけの電子カルテでは、これ以上の導入が見込めないのかもしれません。

 クラウド時代の電子カルテは「コスパを高めるため」に「紙カルテではできないことができる」が1つのキーワードになると考えています。前回挙げたような「医療者と患者さんをつなぐ機能」や「蓄積したデータを分析する機能」、「AIを活用して診療を支援する機能」など、デジタル化をしたからこそ実現できる機能が、今後の電子カルテの必須機能になってくると思われます。


記事監修

裵 英洙(はいえいしゅ)MD, Ph.D, MBA
ハイズ株式会社 代表取締役社長

著者近影 裵 英洙

1998年医師免許取得後、金沢大学第一外科(現:心肺総合外科)に入局、金沢大学をはじめ北陸3県の病院にて外科医として勤務。その後、金沢大学大学院に入学し外科病理学を専攻。病理専門医を取得し、大阪の市中病院にて臨床病理医として勤務。勤務医時代に病院におけるマネジメントの必要性を痛感し、10年ほどの勤務医経験を経て、慶應義塾大学院経営管理研究科(慶應ビジネススクール)にてMBA(経営学修士)を取得。2009年に医療経営コンサルティング会社を立ち上げ、現在はハイズ株式会社代表として、各地の病院経営の経営アドバイザー、ヘルスケアビジネスのコンサルティングを行っている。

合わせて読みたい編集者オススメ記事

バックナンバー