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「海外挑戦は楽しい」ソラコム・Knot・SORABITO各代表が語った日本発の強み

勝負の決め手は、エンジニア・非言語・雇用創出

連載
経済産業省×ASCII STARTUP 日本発グローバル・ベンチャー公開選考会

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日本発ベンチャーならではのメリットとは

 セッションの後半では、海外展開に関する共通質問について各社が答えた。

――海外展開において重要と考えるポイントは?

ソラコム玉川社長「最後はエンジニアが勝負になる」

 「もともと立ち上げるタイミングで海外展開したいと思っていた。理由はいくつもあるが、日本市場はIT業界では全世界で5%以下。ソフトウェアベースのプラットホームビジネスをやったとき、相手はグローバル全体。5%でしか戦えない会社では絶対に体力負けする。海外で勝たないと生き残っていけないというのが直感的にわかっていた。結局は大きな市場を持っているところのほうが同じような開発リソースでも勝てる。最終的には太刀打ちできなくなる」

 玉川社長によれば、ソフトウェアは開発力が大事で、ソフトウェアエンジニアの数の勝負になるという。グローバルでプラットホームを提供しているグーグルやアマゾンは資金をエンジニアへの投資として囲っている。アマゾンなら数千人、グーグルなら1~2万人のソフトウェアエンジニアがいる。

 「ソラコムの場合は通信を提供しているので法人向けだ。ソラコムを自動車や自販機や建機や時計や家電に組み込むので、事業者のエンジニアで使ってもらいたい人がお客さんになる。だから最初から海外前提だ。会社を作るときにサービスを提供する市場をアメリカにするか日本にするか悩んだくらい」

Knot遠藤社長「メッセージは”非言語”で伝えていく」

 アジアは高度成長めざましい。ただ、日本人の給料が倍になったらすごいが、倍になったといっても1万円のお給料が2万円になったという話でしかない。数十万円の腕時計が買えることはなかなかない。日本のメーカーであってもメイドインジャパンの腕時計はわずか。高品質でリーズナブルな腕時計がほしいと思っている消費者はいるにもかかわらず、買えなかった」

 海外をメインで考えているので伝え方には気をつかっていると遠藤社長。「MUSUBU Project」という日本の伝統工芸と世界を結ぶコンセプトをKnotでは行っているが、そもそも伝統文化を海外の言葉に乗せて伝えるというのは難しい。

 「現在『君の名は。』が大ヒットしているが、組み紐の技術を採り入れた時計のベルトをコレクションとして発売している。組み紐は、"組み紐"でしかなく、説明は難しい。そこですべてのプロダクトでムービーを撮っている。必ず絵で見せていく。これは万国共通」

SORABITO青木社長「アジアに1万人の雇用を生むこと」

 「お客さんがもともと日本の建機を求めていた人たちだったのでグローバルなサービスをやろうということではじめた。海外展開においていいなと思う点は、彼らは目の前に仕事があって(建機が)『欲しい』ということが多い。どの国から質問されても迅速に答えたい」

 SORABITOの顧客として現在多いのは香港やベトナムだ。言語対応から港までより早く送るための体制を整えている。ポイントは、日本でかつて使われた製品が求められている製品のため、いかに国内から集めるかという点にある。

 「利点としては、まとめて取引できるところがある。たとえばベトナムにおいて海外に展開した日系企業と"パートナー制度"をやっている。我々のプラットホームの意義は、現地での雇用が生めること。流通させた建機についての販売、修理・メンテナンスで稼いでもらう。わたしたちはアジアに1万人の雇用を生みたいといっている」

――日本発ならではのメリットは?

ソラコム玉川社長「日本の”消費者”は世界一厳しい」

 「日本市場のお客さんは品質に対して非常に厳しい。日本のお客さんがOKといったときそれ以上を求められることはないが、逆にアメリカでできたものを日本にもちこむとクレームがくるということはある。IoTのSIMに関しても同じだ。ソフトなのでかなり細かい点まで良いフィードバックがもらえる。IT産業という意味でいうと、日本の中で世界に展開している企業はほとんどない。ソフトビジネスをやろうとしたとき、売り先の面でも日本だけだと難しい。製造業が強い日本という意味ではIoTで日本がお客さんになる。ITだとないが、製造業だとある分野」

Knot遠藤社長「日本での成功=質の担保になる」

 「日本はあらゆる面でマーケットが成熟しているため、日本でうまくいっている・成功しているということが、海外にもっていくとき障害をなくしてくれる役割を担う。売れる・売れない、質がいい・悪いというのは『日本で成功している』ということでクリアできる。ただ内需を整えるには、従業員もいれば家族もいてメシも食えないといけない。そこは日本企業が海外進出できない理由にもなっているとは思うが、内需をしっかりしないと海外展開できないとも言えると思う」

SORABITO青木社長「日本ブランドへの信頼だ」

 「アジアでもASEANを中心に展開している中、日本から行くとあたたかく受け入れられる。現地とのパイプがあったこともあるが日本の機械なら間違いないと言われる。これは面白いビジネスになるということで、信頼面でも日本発は強い」

――ブランチ・パートナーは必要か? 国内とのリソース配分はどうするか?

ソラコム玉川社長「売り方は"超ローカル"で攻める」

 「製品そのものがソフトで作っているものなので、製品の点ではどこでも同じ。コピーさえすれば使えるという点では超グローバルだ。では日本でつくったものを向こうのアマゾンにもっていけば売れるかというとそうではない。アメリカはアメリカの販売戦略が必要になる。それぞれのエリアにおける売り方は超ローカル、現地採用のアメリカ人が戦略を立ててアメリカで売るという考え方でやっている」

Knot遠藤社長「必要に応じてパートナーを選ぶ」

 「扱っているのがファッショングッズなので必要性を感じることもない。中国など、現地のパートナーがいないときついという国はあるが、それ以外は自分たちでやっていけばいい。時代がよくなったなと思うのは、先日、韓国に出張していたとき、こちらが製品について説明する前にFacebookなりInstagramに消費者が情報を上げてくれていたため、逆に向こうから声がかかった。時代背景をつかんでいれば必要に応じてパートナーを選んでいけばいいんじゃないかと思っている」

SORABITO青木社長「地域差をサービスに取り込む」

 「リソース配分の問題にもなるが、市場があるからといって一気に攻めてしまっては1つも攻略できないことになってしまう。また日本国内でも商慣習が違うところはあるが、それは他国でも同じ。ベトナムという一ヵ国で考えてしまうとハノイとホーチミン、それぞれの中で異なる。それをサービスに取り入れるのが大事。出張で知るのもアリだが、現地の人とコミュニケーションをとりながら組み入れる。商慣習やサービスをまるっと入れて、仮説検証してよくやっていく。パートナーからは現地の声が瞬時にもらえる。海外で顧客をつかむために自ら行ってはいるが、深く知りたい地域ではとくに役に立つ」

――海外展開の醍醐味を知りたい。いったい何が楽しいのか?

ソラコム玉川社長「海外スタッフと同じ目標が持てるのが楽しい」

 「現地3拠点で現地採用している。日本で生まれて日本で育ったが、30歳くらいのときに苦労して留学していた。当時の苦労が実り、日系アメリカ人をふくめて多様性のある海外スタッフをもっている。物理的に同じ場所にはいないが、テレカンファレンスの仕組みで、同じ目標をもって動いているのを感じるのがとても楽しい」

Knot遠藤社長「"実力がすべて"というシンプルなところが好き」

 「楽しくてしょうがないというくらい。展開先の国からすると、わたしは外国人だ。縁もしがらみもない、すばらしい製品とサービスをつくってコンシューマーに提供することだけ考えればいい。まがりなりにも20年間腕時計業界でやってきていると本流ではないところでおかしな結果が生まれることが国内ではあった。海外ではすべてが実力というシンプルなところがあり、わたしとしては好きだ」

SORABITO青木社長「トラブルよりも発見が多くて楽しい」

 「楽しい、すごく楽しい。やればやるほど発見があるので飽きない。最初はトラブルや問題が日々起きるが、それにも増して発見が多かったり、現地で『よく買ってるよ』と言ってもらえたり、魅力を感じてもらえる。やればやるほど楽しい」

世界との勝負に向けて

 日本発のグローバル展開に必要なものは何か。各代表の言葉からうかがえるカギは、課題としての難しさよりも、ビジネスとしての意義にあった。

 既存の成功例が当てはまらない前提であっても、世界規模でスケールさせる強みとして日本国内での実績は必ず結びついてくる。海外発での日本人によるスタートアップや成長企業も当然あり、その成長例もあるが、一方国内で培った力を発揮できる分野・商材が、日本をはみ出て、より伸びていくことに期待したい。

 すでに準備は万端という3社。最後の質問として、2017年の展開について聞いた。ここからの各社の実際の展開は、ぜひASCIIとしても追い続けていきたい。

 「日本で苦労してサービスを発表したとき、市場全体に評価してもらえて『すごいの出たね!』と言ってもらえてうれしかった。それを今度は世界でやっていきたい。3拠点同時多発的に売っていくために、がんばりたい」(ソラコム玉川社長)

 「一言で言うと、サービス開発だ。直営店には北は北海道から南は沖縄からお客さんが集まってきてくれている。『オラが村にもKnotギャラリーショップをオープンしてくれ』という声をもらっている。全国にお店を開いたり、吉祥寺の直営店付近には製造工房やアフターサービス拠点を設け、メンテナンスをスピーディーにする。本店ともなると月間来客数のうち30%以上がアジアの方。海の向こうから来なくても買えるぞという状態にしていくのがテーマ」(Knot遠藤社長)

 「サービスを立ち上げて11月で1年が経った。海外で狙っているエリアはいくつかあるが、まず国内での供給体制をしっかり作っていきたい」(SORABITO青木社長)

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