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ロードマップでわかる!当世プロセッサー事情 第382回

業界に痕跡を残して消えたメーカー 特許問題で深い爪跡を残すOPTi

2016年11月14日 11時00分更新

文● 大原雄介(http://www.yusuke-ohara.com/) 編集●北村/ASCII.jp

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チップセットの供給で急成長
からの急転落

 話を戻すと、1993年にOPTiは新規株式公開を行うが、この際に発行した株式の時価総額は、3億5000万ドルに達したという。1992年の売上は1億ドル近かったので、これだけ高騰するのもわからなくはない。

 同じ1993年、インテルはPentiumを発表する。OPTiもすかさずこれに対応、1994年にViperシリーズと呼ばれるチップセットを投入する。実はこのViperシリーズは同一型番で違う製品が混在していて非常にわかりづらい。

Viperシリーズ
シリーズ名 型番 種別
Viper 82C556/82C557/82C558 デスクトップ向け
Viper-N 82C556/82C557/82C558N モバイル向け(1995年)
Viper-M 82C556M/82C557M/82C558M マルチメディア向け
Viper DP 82C556/82C557/82C558 デュアルプロセッサー対応
Viper MAX 82C566/82C567/82C568 デスクトップ向け(1997年)

 基本のチップセットは同じで、一部のチップだけ入れ替えて用途別に対応という感じだが、Viper-Mのマルチメディア向けはデータシートを読んでもなにがマルチメディア対応なのかさっぱりわからないのはご愛嬌か。

 またViper DPは、P54Cベースのデュアルプロセッサー対応らしいが、これが搭載された製品は今のところ確認できていない。

 Viperシリーズに続き、1996年からはSocket 7に対応したチップセットの出荷を開始する。1996年にはFireStarこと82C700、1997年にはVendettaこと82C750をリリースする。FireStarはノート向けで、Vendettaはデスクトップ向けである。

FireStarの構成図。ワンチップといってもまだSuperI/OやLCD/SVGAは統合されておらず、ノースブリッジ機能がワンチップ化された程度である

 このあたりからOPTiの業績は急速に下がり始める。理由は簡単で、台湾メーカーが本格的に製品を展開してきており、さらにインテルも自社でのチップセットビジネスに本腰を入れてきたためである。おなじみ有価証券報告書(Form 10-K)から数字を拾うと、以下のように凄まじい落ち方になっている。

OPTiの売上と営業利益
年号 売上 営業利益
1992年 9822万ドル 909万ドル
1993年 8526万ドル 917万ドル
1994年 1億3410万ドル 1455万ドル
1995年 1億6368万ドル 1125万ドル
1996年 1億1873万ドル -1406万ドル
1997年 6784万ドル -1047万ドル
1998年 4000万ドル -733万ドル
1999年 2226万ドル -892万ドル
2000年 2320万ドル 917万ドル
2001年 757万ドル -77万ドル

 チップセット一本槍だったツケが回ってきたというところか。もちろん同社もこうした状況に備えて、1993年にはIDEコントローラーやサウンドコントローラー、1994年にはグラフィック、1997年にはUSBコントローラーといろいろラインナップの拡充を図るが、どれも業績を支えるほどではなかった。

会社を売却できず方針転換
暗黒面が業界に爪跡を残す

 さて、実はこの記事、ここまでが枕だったりする。1998年頃からOPTiは身売りを真剣に考えるものの、買い手はついに現れなかった。その結果、同社の対策は業界に深い爪跡を残した。というより今も爪を立て続けている。

 1998年、OPTiの取締役会議長兼最高経営責任者にBernard T. Marren氏が就任。ここから大幅にビジネスモデルを転換する。

 2002年、同社はすべての製品と製造資産をOPTi Technologyという別会社を仕立ててそこに売却、OPTi自身は社員数1人(要するにMarren氏だけだ)のIPライセンス会社になった。IPライセンス、と言うと聞こえはいいかもしれないが、要するにパテント・トロールである。

 2000年にはインテルと、2006年にはNVIDIAとライセンス契約を結び、2009年にはAppleから1900万ドル、2010年にはAMDから3200万ドルの賠償金を獲得しており、他にもSiSやVIA Technology相手にも訴訟を起こしており、VIAに関しては現在もまだ裁判が進行中である。

 NVIDIAのライセンス契約を見てみると、OPTiの保有するPre-snoop特許をNVIDIAが利用するにあたり、四半期毎に75万ドルを支払うというものである。あるいはSiS及びVIAとの訴訟では、このPre-snoop特許のほかに、Predictive snooping of cacheが挙げられており、この特許侵害に対して210万ドルの損害賠償を求めている。

 少し前から、さまざまな半導体メーカーがお互いに特許の利用許諾を交し合う(例えばインテルとAMDはお互いの保有する特許を利用できる契約を結んでいる)のが通例だが、この目的の1つがパテント・トロール対策である。

 今はPC関連メーカーを中心に攻撃しているが、2011年にはアナログ半導体メーカーのExarとの間でもライセンス契約を結ぶなど、取れる所ならどこからでも金を取るのがパテント・トロールの原則であり、こういう存在がPC業界から生まれた、というその一点の理由でOPTiという社名ははいまだに業界に名前を残し続けている。

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