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データ中心のビジネスのためのデータセンターとクラウドへ

IDCFはなぜデータ集積地を目指すのか?石田社長に聞いた

2016年09月27日 07時00分更新

文● 大谷イビサ/TECH.ASCII.jp

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自社運用のデータセンターとクラウドを軸に「データ集積地」の構想を進めるIDCフロンティア(以下、IDCF)。クラウドサービスの競争が激化する中、2016年4月に新社長に就任した石田誠司氏は、どのようにIDCFを切り盛りしていくのか? IDCFが培ってきた実績と強み、そして戦略について聞いた。(インタビュアー:TECH.ASCII.jp 大谷イビサ)

現場発の改善を心がけてきたIDCF新社長のバックグラウンド

 今年48歳の石田誠司氏は、大手SI企業を皮切りに営業を15年ほど務め、IDCF入社直後(当時のソフトバンクIDC)は営業だったものの、ここ数年は運用畑を歩き続けてきた。「クラウドサービスを立ち上げるときに、手順書ベースの運用はダメだろうと言い続けていた。手順書だと時間はかかるし、お客様の要望にもオンデマンドに対応できない。だったら、お前がやれという話になり、営業あがりの私が運用の責任者として現場に行った」という経緯だ。

 手順書ベースの硬直化した部署だと思って足を運んだ運用現場だが、実際は現場発の改善案をいくつも持っていたという。「メンバーは重厚長大な手順書がすでにできあがっていたので、起案しても通らないだろうと勝手に思っていた。そこに運用を知らない私が入っていって、一定の基準を満たすものは全部採用したんです」と石田氏は振り返る。現場発の提案はエンジニアのモチベーションも高く、現場の改善はスピーディに進んだ。

 機器の障害に対しても、ITILのチケット番号を調べるのではなく、まずお客様が知りたい情報を迅速に提供する。「お客様と話したことがない社員がたくさんいました。だから、営業に頼らずに、自分たちで説明しなさいという活動はずっとやっていました。営業より、むしろエンジニアの言うことを信じてくれるお客様がいっぱいいる。運用部門でも実際に売り上げ計画を持たせて、達成した部署もありましたよ」と石田氏は語る。

 その後、運用の自動化も進め、1万3000工程を短縮し、運用改善のためにプログラミングできる人材も増やした。さらに各拠点でオペレーターの稼働率を計測し、作業を分散化するというプロジェクトも主導してきたという。こうして長らく運用現場で改善を続けてきた石田氏は、2016年4月に代表取締役社長に就任し、まさに勝負どころに差し掛かっているIDCフロンティアの舵を取ることになった。

IDCフロンティア 代表取締役 社長 石田誠司氏

データセンターにおいてもスピードを重視

 IDCフロンティアというと、「データセンターの会社」というイメージが強い。1980年代に国際通信事業者としてスタートした同社は、2000年以降データセンターに大きな投資を続けている。従来から展開している7か所の都市型データセンターに加え、北九州データセンターは6棟目、白河データセンターは4棟目を建設中。とにかくすごい勢いでデータセンターに投資してきたわけだ。

 データセンターに関しては、自社保有の強みを生かして、これまでもさまざまなチャレンジを行なってきた。商用のデータセンターで初めて外気冷却を取り入れたし、サーバーの集積率を上げるために100Uラックのアイディアをはじめ、実際に65Uのラックも検討してみた。半年でビルトインブロック方式の超短工期型データセンターを建てたこともある。「その時のタイミングで最適な建物設計や空調技術を取り入れている。北九州や白河データセンターは毎回建屋のカタチが変わるけど、ゼネコンさんにはまた変えるんですかと言われています」と石田氏は笑う。クラウドが普及し、とかく迅速性が要求される時代。「今すぐサーバーが1万台欲しいという依頼に対して、これから建てますので14ヶ月かかりますでは商売にならない」(石田氏)とデータセンターの改善・刷新においてもスピードを重視してきた。

コストと省エネにも配慮した白河データセンター

 昨今では、大手SIerのデータセンターも老朽化が進み、IDCフロンティアのデータセンターをDC in DCで利用するケースも増えている。「大手SIerも、もはや数十億円の設備投資をしてまで新しいデータセンターは建てられない。であれば、本業であるSI事業に専念すべきだし、実際いっしょにやりましょうというお話をたくさんいただきます。SIerさんが提供しているお客様のプライベートクラウドと弊社のパブリッククラウドをハイブリッドでつないで、ソリューションの幅を持たせることもできます」(石田氏)。データセンターを家主として貸すだけではなく、協業してソリューションを作っていけるのが、IDCフロンティアの強みだ。

 そしてネットワークに関しては、昔から同社がこだわっている部分だ。同社では国内随一となる890Gbpsとなる大容量バックボーンを保有し、国内のITインフラ事業者として確固たる地位を築いてきた。「われわれのDNAとはなにかというと、国際デジタル通信企画、国際電話の時代から30年間ずっとネットワークをやってきたこと。サーバーも大容量のネットワークがあるからこそ、場所を意識しないで利用できる。大容量のトラフィックでも微動だにしないネットワークを作っていきたい」と語る。

データセンターは本当の意味での「データセンター」へ

 そして、こうした高性能・高効率なデータセンターを苗床にして構築されたIDCFクラウドも2014年10月からの開始で、もうすぐ丸2年を迎える。この間、サービスラインアップの拡充や機能強化などを矢継ぎ早に行ないつつ、Growth PushやSendGrid、Mackerel、SmartBeatなど、さまざまなサービスとの連携を深めてきた。「最初はユーザーインターフェイスにこだわったクラウドとして売り出し、毎週のように改善を加えてきた。同業もこの流れを追従してきている」と語る石田氏。従来展開してきたクラウドサービスに比べると約20倍に達する急成長を実現しており、すでに1万アカウントを突破している。

 Amazon Web ServicesやMicrosoft Azureなどが一歩抜きん出た感のあるパブリッククラウドの市場。こうした中、IDCFクラウドはエンジニアでなくても使ってもらえるクラウドを目指す。「クラウドなのに、なぜファイアウォールやロードバランサーの設定が必要なのか、必要なCPUのコア数をお客様に計算させるのか、ずっと違和感があった。たとえば、月次や日次の処理量を指定すれば、勝手にサイジングしたり、データをバックアップしてくれるようにならないと、みんな使ってくれないですよ」と石田氏は語る。たとえば、広告やマーケティングの担当者が気軽に使って、市場分析ができるクラウド。シェアを拡大していくには、とにかく多くの人が使いやすいクラウドサービスを作り上げることが、IDCフロンティアの使命だという。

 とはいえ、インフラサービスはコモディティ化が著しい世界。電力や運用のコストはかかる一方、価格は年々下落する傾向にある。石田氏もこうした現状に限界を感じている。「多くのインフラ事業者がコロケーションから始まり、ホスティングを経て、クラウドに移っているけど、要はサーバーの切り売り。これだけを提供していても、もはや立ちゆかないし、世の中を変えていくことはできない」と石田氏は指摘する。

 こうした中、データセンターの価値を最大限に引き上げていくため、IDCフロンティアが目指しているのが「データ集積地」という構想だ。「気がつけば当社のお客様は、多くのデータを抱えていらっしゃる。これをうまく使えないかと」ときっかけを石田氏は語る。データ集積地を支える戦略の一つ「データエクスチェンジ」では、データセンターを利用している顧客が抱える専門性の高いデータを、ディープラーニングやAIなどを用いて分析し、さらに互いのデータを突合して新しい価値やビジネスを生み出してくのだ。

ユーザー同士のデータを突合して、新しいビジネスを生みだしていく

 「今までコロケーションも、ホスティングも、データセンターで運用されていながら、『データ』に関わってなかった。でも、データセンターなので、『データ』という本質に戻りましょうというのが、私のメッセージです」と石田氏は語る。

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