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記者こぼれ話

この葬儀会社がヤバい

2016年08月24日 17時00分更新

文● 盛田 諒(Ryo Morita)

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 東京ビッグサイトで8月22日(友引)から24日まで葬祭業界展示会「エンディング産業展2016」が開かれています。三菱電機の新製品発表会で隣の西ホールに行ったとき看板が目に止まり、これもご縁とお邪魔してきました。

 最新の葬儀技術を探していたとき、パンフレットを渡されたのが「葬儀業界専用ムービーアプリ『葬ストリーム』」。開発元は葬儀会社アーバンフューネスコーポレーション。面白そうなので話を聞こうとブースを覗いたところ「間もなく上映です!」の声とともに同社制作のプロモーション映像がディスプレーに流れはじめました。内容をざっと紹介しますのでまずはご確認ください。

世界最大の通販サイトを運営する「kamazon」

葬祭サービスの売上を500億円に伸ばす

日本一の火葬サービスkamazonの巨大火葬施設

カマゾン代表取締役 ビフ・ハワード・カネンCEO

イノベーションの名のもと既存企業を駆逐していく

通販と同じように利益優先の経営姿勢を崩さない

「ありがとうございました」と箱を運び出す宅配業者

これがkamazonの新火葬サービスだ。荷積みしている

大人が入れそうなサイズのダンボールが並んでいる

「(音声)空前の大ヒット!」

「お世話になります」と利用者

「(音声)kamazonプライム会員なら翌日に遺骨が帰ります」

「(音声)去年おじいちゃん亡くなった時kamazon使いました!」

2040年、kamazonの価格戦略は順調に成功しているようだ

若者はすでにお葬式の文化を知らない

もはや笑いものだ

「(音声)江戸時代じゃね!?ウチら見たことねーし」

お葬式を知っている人は昔を懐かしむ

「(音声)お通夜っていったらみんなで酒飲んでさ~、告別式とかあってね~」

「(音声)今はさ、運んで燃やしておしまい」kamazonのことだろう

やはりお葬式はグリーフケアに必要な儀式という意見があった

「(音声)巨大IT企業が葬祭サービスに参入した近未来、日本からお葬式という慣習が消えた」

東京下町・間亭葬祭

間亭葬祭の一人息子マテイ。赤いジャケットが目につく

「(音声)kamazonが葬祭サービスなんて始めなけりゃ」

「(音声)うちもほかの葬儀屋もこんなみじめな思いをするこたあなかったんだ!!」

kamazonのようなIT大手が伸びはじめたことで、中小零細企業の売上は激減

ビジネスモデルが根本的に異なるkamazonへの対抗策も思いつかない

父親に食ってかかるマティ

「(音声)ならこうなる前に父さんたち日本の葬祭業者はどうしてIT化しなかったのさ!」

父親は「アイティ?」。2040年になっても葬祭業界のIT化は進んでいないようだ

「(音声)葬式の“そ”の字も知らない若造が親に意見するんじゃねえ!」

旧態然とした父親の姿勢に憤り、行動を決意するマテイ

「(音声)過去を変えるためにクドウ博士のもとに来たマテイ」

白い煙とともにあらわれる霊柩車

「(音声)霊柩車をタイムマシンにしたの??」驚きはもっともです

よく見るとコントローラーがDJI Phantom 4に似ている

「(音声)葬祭業界を変えてみせる!」霊柩車に乗り込むマテイ

「(音声)未来を変えるんだ!」霊柩車に語りかけるクドウ博士

「(音声)こうしてマテイは過去へ旅立った」

「(音声)葬祭サービスを変えるために」

加速中、紫色の光を放ちはじめる霊柩車

これで時速約140km(88マイル)出ているのだろうか

チェレンコフ光のような青白い光とともに消失した霊柩車

そして道には炎の痕跡だけが残った

BACK TO THE FUNERAL(葬式に戻れ)

 「バック・トゥ・ザ・フューネラル」のロゴが大写しになったところで映像は終わりました。いろいろコメントに困る演出もありましたが基本的には「旧態依然とした葬祭業界はIT化しないと新興業者に駆逐されかねないぞ」と警鐘を鳴らす内容でした。映像のあとアーバンフューネス社の従業員と思われる男性2人があらわれ「アーバンです」「フューネスです」「アーバンフューネスです」と、スケッチブック片手に「理想の葬式業界コント」を始めましたが、そこは省略します。

 あらためて話を聞くと、アーバンフューネスは業態としてもユニークなIT系葬儀会社でした。セレモニーホール(自社会館)を1箇所しか持っていないにもかかわらず葬儀施工数は年間2000件超、2002年創業以来の増収続きの成長企業です。

 なぜそんなことができるのか、その秘訣がまさにIT施策です。同社の売上は6割が家族葬。創業当初からSEO対策は万全で「地名+家族葬」検索結果でつねに上位を獲得してきたそうです。24時間365日対応のカスタマーセンターも設け、深夜・早朝の搬送にも対応。不動産は極力持たず、人員をシステマティックに管理して、品質と利便性で勝負する。IT時代の葬儀会社というわけですね。

 14期連続増収の要になっているのが顧客・施工管理システム「CROW」。自社用に開発していたDB管理ツールを業界向けに発売したものですが、一般のIT企業が開発している製品より現場目線で使いやすいと評判ということです。その他にもセレモニーホールの情報を集めるためにセレモニーホール情報掲載アプリ「葬ロング」、自社を含めた葬儀会社を選べるサイト「葬儀ガイド」などを開発・公開。情報サービスを自社の利益につなげている面がとても大きいようです。

 ちなみに冒頭で紹介した「葬ストリーム」は葬儀場のプロモーション映像を撮るための無料アプリで、VRによるバーチャル内見対応予定も視野に今秋リリースをめざして開発を進めているそうです。余談ながら「葬儀場VR」は他社も取り組んでいます。「結婚式場VR」「賃貸マンションVR」などと同様に、バーチャル内見系サービスの1つとして定着していくのではないでしょうか。

 高齢化社会、葬儀業そのものは拡大傾向の成長産業です。ただし葬儀費用そのものは低価格化の傾向にあり、イオンなど異業種大手が参入したことで競争にも拍車がかかっています。kamazonのような業者がいつあらわれても不思議ではありません。破壊者があらわれたとき、IT葬儀会社の雄であるアーバンフューネスがどうやって抵抗するのかはとても気になるところですね。




盛田 諒(Ryo Morita)

1983年生まれ、記者自由型。戦う人が好き。一緒にいいことしましょう。Facebookでおたより募集中

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