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ポケモンGOでわかったネットにつながる靴が与える衝撃

スマートフットウェアのプラットフォームを目指す「Orphe」

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大手競合の登場までに、どこまで先に行けるか

 Orpheが激しい動きに耐えうる設計をしているとはいえ、絶対に壊れないということはもちろんない。同社では現在製品の無料保証期間は設けておらず、有償での修理にしか対応をしていない。大手メーカーのような万全なサポート態勢をとることができないのは、Orpheの弱みの一つである。

 ただ、このようなリスクの高さや製品化の難しさ、その後のサポートの難しさがスマートフットウェア業界に大手スポーツメーカーがまだ参入しきれていない理由のひとつではないかと菊川氏は分析する。

 菊川氏はスマートフットウェアを取り巻く環境について、2014年の創業時から現在まで「思ったよりもプレイヤーが増えていない」と考える。ナイキやアディダス、アンダーアーマーなどの大手スポーツメーカーから、Orpheのように足の位置や傾き情報を取得し、リアルタイムで入出力するような製品は未だ発売されていないのだ。

アンダーアーマーのランニングシューズ「UA SpeedForm Gemini 2 Record-Equipped」

 「アンダーアーマーが開発しているスマートシューズは、消費電力が非常に小さく、充電の必要がない点は優れているが、リアルタイムでセンサーの測定値を送信するようなこともしていない。一方のOrpheは1秒間に50回センサーの値を送る、完全なコントローラー。その場で通信ができ、何かを起こせるというのは他にはない強み。みんなが外に出て、何かを操作するのに使ってくれたらいいと考えている。将来的に大手スポーツメーカーが参入してくれば、現在発売している商品は研究しつくされてしまう。そこまでに(Orpheが)どこまで行けるか。もしこの先ナイキやアディダスなどの大手スポーツメーカーと協業することができれば、それもぜひ検討したい。将来的には、no new folk studioはモジュールだけを販売して、あとは靴メーカーさんが靴を作ってくれればいいと思っている」(菊川氏)

 他社との協業も模索しているという菊川氏。Orpheについて「入出力ができるデバイス」だと捉えた場合には、あまりにもできることが多いからこそ、自由度を高く考えたいと思っている。

 8月に販売を開始した製品のロットは1,000足。日本はもとより、欧米での販売も見込む。ハードウェアスタートアップにとっては一つの大台と言える数量だ。今回の量産については、DMM.make事業部と組んで体制を作った。その先の調達についても、興味があるVCなどがあれば、前向きに考えていきたいと菊川氏は言う。

 「まずは1個製品を出すところまでをやりぬこうと考えていた。その終わりがやっと見えてきたので、この先は本当にプラットフォームにしていきたい」


「ポケモンGO」に「心が揺さぶられている」

 取材当日に着用させてもらったOrpheは、バスケットシューズくらいの重さで、電池や基盤が入っている違和感はほとんどなかった。

 IoT製品で重要なスマホのアプリ連携についても軽快な印象。LEDの発光パターンについてのこだわりも半端なく、さまざまなカラーパターンをウェブで共有できる仕組みも用意されている。タフなLEDシューズという価値も大きいが、真の可能性は、データをトラッキングできる靴というところにあるのは間違いない。

 靴はスマホ以上に、日常生活で屋外に出る際には欠かせないアイテムであるだけに、当たり前のようにネットにつながることでの横展開が非常に楽しみ。手元で使うモノと違い、ウェアラブル製品は究極的には装着への違和感がないことが求められるぶん、靴は相性がいいはずだ。

  ただし、これまでありそうでなかった「センシングできる靴」には、簡単にできなかった理由も当然ある。履き心地から、連続装用での耐久性、酷暑や雨天といった環境への対応も今後求められてくるが、ぜひうまい抜け道を探ってもらいたい。

 そして、歩行という人類共通の動作には、センシングによるさまざまな分野との連携の可能性がまだまだ眠っている。取材時に菊川氏が注目していたのが、「ポケモンGO」人気の過熱ぶりだ。いわく、「心が揺さぶられている」という。

 「ポケモンGOの流行で、実世界で情報と触れ合うシーンがこの先増え続けていくだろうということがわかったのは衝撃だった。これは僕たちにとっては有利な状況だと思っている。スマートフットウェアは、一番自然な形で身に着けることができて、入出力ができる道具。簡単な例でいえば、スマートフットウェアを使ってポケモンを走って追いかけたりすることも技術的には実現可能。あとはどういう形でそれを実現するか。タイミング的にはどう転がってもおかしくはない。関わってくる人によって、Orpheがどう成長をするか、変わりかねないタイミング」(菊川氏)

 パフォーマンス、アート、音楽、エンタテインメントだけではなく、ゲームやヘルスケアなど、活用範囲は非常に広い。今後IoT環境がより普及することで、入力の操作にはより平易さが求められるようになる。難しい操作なしにユーザーが何をしたいかがわかることが重要だ。入力のためのデバイスとして、表現のツールとして、Orpheは、大きな可能性をもって、未来へさらなる一歩を踏み出す。

●株式会社 no new folk studio
2014年10月20日設立。LED、センサー、Bluetoothモジュールが内蔵されたスマートフットウェア「Orphe」の開発・販売を手掛ける。DMM.make AKIBAに居を構える。
これまで大型の調達を控えていたが、今後はさらなる展開に向けて積極的に検討をしていく予定。
社員数は2016年8月時点で4名。調達と合わせる形でビジネスサイド・開発サイドともに積極的な募集を行う。

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