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国産縫製工場を救うクラウド化 熊本発「シタテル」が革命的である理由

マッチングだけではNG 工場とブランドをアメーバのようにつなぐクラウドソーシング

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エモーショナルな工場とユーザーの間でクレバーに仲介する

 「最近、シタテルに似たサービスを見かけるが、まったくうまくいっていない」(河野氏)

 ここには、シタテル自体も経験した失敗談がある。大きな違いはプラットホーム上で中間のクッションとして入るか入らないかだ。

 直接ユーザーと工場をつなぐマッチングサービスをシタテルもクラウドで提供してみたことがある。中間のやり取りが省かれると、最初はユーザー側も喜んでもらえたのだが、徐々にオペレーションの不具合だったり、品質の責任の所在などでクレームが出てくる。そこで結局シタテルに話が戻ってきてしまったのだ。

 河野氏は「ブランド側もファッションテックを志向する動きもあるが、実際はかなりエモーショナル。もちろん工場もエモーショナルなので、いかにクレバーに情報を整理するかが重要になってくる」と言う。

画像提供:シタテル

 ブランドが工場と直接やりとりできない理由のひとつが、要望のばらつきにある。真ん中で要望などを整理するプレーヤーが不在の場合、責任のなすりつけあいになってしまう。ここをシタテル側は工場と密につながっているために担当できるというわけだ。わかりやすく言うと、シタテルが工場に対してはオーダーに対して責任を持ち、ユーザーに対しては品質に責任を持っている。その両者に、「アメーバのようにフレキシブルにつながっていきたい」と河野氏は言う。

 おかげで、デザインを自前で作り生地も手配できる大手ブランドから、生地が調達できない中堅企業、イメージしかない小規模企業もしくは個人デザイナーまで、現在は幅広い依頼を受けている。顧客としては服飾ブランドが多いものの、飲食店や美容関係の企業が、制服のデザインを依頼してくることもあるという。

 ハイファッションブランドから一風堂の制服まで。さらには「東京2020」に向けた動きもある

「トラックレコードは6日。海外からでもやる自信がある」

 洋服の製造は通常、半年間くらいのサイクルがある。それは産業構造が作り出したリードタイムなのだが、春夏に秋冬モノを作り、秋冬に春夏モノを作っている。一方、ユニクロなどのようなファストファッションの場合、店頭でこのアイテムが売れたというデータが生産サイドに回って、3週間くらいでまた店頭に並ぶというサイクルとなっている。このスピードが魅力でもあるのだが、シタテルはさらにすごい製造のトラックレコードを持っているという。

 ある日、グローバル展開している某ブランドからシタテル上の注文チャット経由で、「香港のショーに間に合わせないといけないアイテムがあるが、工場が急になくなってしまった。6日間で作ってくれ」と相談があったそうだ。当時のシタテルの社員は「社長、これは無理なので断ってよいか」と言ってきた。しかし、これに河野氏はカチンときた。

 「チャレンジする前からできないと言うな。全部データを取ってみろ」と。当時はシタテルコントロールシステムができる前だったため、エクセルでまとめたデータを見て工場の動きなどを確認。すると「生地はOK、工場も空いている」、「パタンナーも東京で確保できそう」と状況が見えた。しかし、ブランドは早く作れと言いながらも、「サンプルはやはり見たい」と無茶を言ってくる。

 結果、河野氏は社長としてのGOサインを出し、当日中にCADでデータを製作し、熊本の工場にデータを飛ばした。レーザーで切ってもらって、その日のうちに空港便で東京に送ってもらい、量産の生地の手配も同時に進める。3日目にサンプルが届いてクライアントに見せたところ、若干の修正でOKが出たので、データを修正して、その日のうちに資材や生地をセットアップして工場に手配。6日目には量産した製品を渡すことができたという。

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