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国産縫製工場を救うクラウド化 熊本発「シタテル」が革命的である理由

マッチングだけではNG 工場とブランドをアメーバのようにつなぐクラウドソーシング

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 シタテル株式会社は「国内初となる縫製事業のクラウドソーシング」を掲げるスタートアップだ。衣服の生産工場とユーザーをつなぐ架け橋となるマッチングサービスとはどのようなものなのか。アパレルでも類を見ないサービス業態である『シタテル』について、代表取締役である河野秀和氏にお話をうかがってみた。

シタテルの河野秀和代表取締役 

小ロットで衣服を作りたい人と工場を橋渡ししたい

 シタテルは、アパレル関連のビジネスユーザーをマッチングさせるプラットフォームサービスを展開している。ファッションテックやクラウドソーシング、シェアリングエコノミーといったキーワードで紹介されるサービスを提供しているスタートアップだ。

 代表取締役の河野氏は起業以前に熊本県で企業の経営支援を行っており、その時から「大量に作ったものをばっと売るという時代じゃなくなった」と縫製工場など地場の経営者の悩みをよく聞いていた。そこで、「少な目めに作ったらいいのでは」と言うと、これができない。

 理由はアパレル業界の仕組みにあった。大手ブランドはまず商社に依頼をする。商社は生地と資材を手配して元請けの工場に出し、元請けの工場がさらに下請けの工場に出して……、という流れになっていた。その枠組みの中では、小ロット、つまり15枚や30枚程度を作りたい、といったニーズに対応できなかったのだ。

 しかし一方で、河野氏がこのような工場に直接出入りし、「15枚作ってくれませんか」と持ちかけると「ラインが空いているからいいよ」となる状況もあった。問題となっていた流通について解析を行った河野氏は、アパレルにおけるプレーヤーが多重構造でつながっていることに気づく。単純に中間業者が中抜きしているわけではなく、納品までの工程に対する処理が複雑なこともあり、情報伝達がスムーズに運んでいない状況があった。

 そもそも、洋服を作りたいという人がいても、どの工場に行けば作れるといったアクセスする術はない。ウェブで情報共有をする動きが活発なわけでもないため、Googleで「洋服の発注」について検索をしてもトップに出てくるのは、gooやYahoo!のQ&Aサイトというありさまだ。

 現在のシタテルは全国の約1000工場を超えるデータベースを持っているが、アパレル関係者でさえそこになかなかアクセスできない事情がある。工場側はまさに職人という感じで、「必要なら足を運んで来い」ということになりがちなのだ。そして、足を運んで取引の交渉ができたとしても、うまくオペレーションできないと、できあがったモノが想像と違うといったクレームが起きてお互いが不幸になる。これは、工場側をまとめるオペレーション機能がないということが原因だ。

 「我々シタテルは産業自体を変えたいというスタンス。ご無礼を承知で話をさせていただいているが、アパレル業界は生地メーカーや卸、小売り、といった既得権益ができあがっており、外から攻める人がいないと変わらない産業だと感じていた」と河野氏。

 2014年3月、最初は10工場くらいでスタートし、ウェブサイトを作って流入を促したところ、案の定、小ロットの衣服を作りたいと言う大きなニーズがあった。それがわかったため、すぐにシステム開発をスタート。衣服を作る工程では多数の要件が溜まっていくが、それをいかにつなげるのかが重要になる。従来はメールだったり電話だったりとばらつきがあったが、シタテルはチャットベースの「アトリエシステム」を作りあげた。ファーストコンタクト、つまりユーザーが流れたところから、いかにシームレスに工場の生産を回せるかという点に注力したのだ。

スマホで発注から納品までのコミュニケーションができる(画像提供:シタテル)

 アトリエシステムは、チャットベースで注文されるアイテムの相談、パターンやサンプル生産、本生産などの工程をシタテルのコンシェルジェを通して最後の納品まで確認できるというもの。アパレルにおいて関係する各プレーヤーがシタテルを通してつながる仕組みだ。

 こちらに加えてもう一方で、シタテル社内には全国のユーザーと工場をマッチングするために開発された独自アルゴリズムによる「シタテルコントロールシステム」がある。まさにアパレル工場の総合データベースとなっており、縫製技術のレベル、対応可能アイテム、料金設定、リードタイム、稼働状況といったシタテルが独自に集めた情報が詰まっている。

シタテルは経済産業省の事業者に採択され、衣服におけるインダストリー4.0及び衣服生産プラットフォーム事業を推進している

 シタテルコントロールシステムの開発に関しては、共同検証という形で富士通に入ってもらっている。検証は富士通が実施するベンチャー企業支援プログラム「MetaArcベンチャーコミュニティ」に基づき、共同での取り組みを行った。結果的には約30人月ほどの開発力を提供してもらい、コストを節約できたというよりは時間をショートカットできたことの恩恵の方が大きかったようだ。

 アナログとデジタルの中間を人力とシステムの両面で埋める形となっているが、やはり当初は工場とユーザーのバランスを取るのに苦労したと河野氏。メーカーなどのユーザーが集まりすぎても生産が追いつかないと予想できるし、一方で工場だけたくさん先に取ればいいかというと、そうでもない。工場側は、「仕事を持ってくると言ったじゃないか、早く持ってきてよ」と言う人たちが多いそうだ。そんな時は「1年間くらいバッファーを持たせてください。その間に流通を作り上げます」と根気強く説得したと言う。

 河野氏は「我々が普段着ている衣服を作る産業はとても古い部類に入るが、それをテクノロジーの力でよくしていきたい」と語る。この想いが原点なのだ。

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