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プログラミングは、誰もが学ぶべき教養のひとつ - IT業界の取り組みが公開

2016年08月05日 10時00分更新

文● 大河原克行、編集●ハイサイ比嘉

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様々な国で進む、プログラミング教育の必修化

 一般社団法人情報サービス産業協会(JISA)は、プログラミング教育必修化を見据えたIT業界の取り組みについて、報道関係者を対象に説明を行なった。

 NTTデータ経営研究所情報戦略コンサルティングユニットパートナーの三谷慶一郎氏は、「プログラミング教育に関する各国事例紹介と考察」と題して、昨今の状況について説明。「英国、ハンガリー、ロシアでは、すでに小学校でコンピュータ教育を必須化している。英国では、2014年からプログラミング教育を世界で初めて必須科目として導入。教員教育を重視している点が特徴であり、教員間のネットワークを構築し、教員同士が教える環境を作っている。ロシアでは、連邦教育スタンダードと呼ぶナショナルカリキュラムを持ち、これに準拠したカリキュラムを州ごとに定めているのが特徴。

NTTデータ経営研究所情報戦略コンサルティングユニットパートナーの三谷慶一郎氏

諸外国におけるコンピュータ教育の状況

イギリスでは、「Computing」を5~16歳までの義務教育に組み入れ、教員教育を重要視

初等および中等教育における内容(イギリス)

ロシアにおけるプログラミング教育内容

ハンガリーにおけるプログラミング教育内容

米国は、総額40億ドル(約4060億円)の予算投入予定

 米国でも、州ごとに整備し、学校単位で様々な取り組みが行なわれている。米国はSTEM(サイエンス、テクノロジー、エンジニアリング、マスマティクス)教育に力を入れており、教育支援策であるComputer Science for Allでは、総額40億ドル(約4060億円)の予算が投入される予定である」と、先進各国の取り組みを紹介した。

米国はSTEM(サイエンス、テクノロジー、エンジニアリング、マスマティクス)教育に力を入れている

2014年以降、日本でもプログラミング教室や講座が急増

 また「2014年以降、日本においても、民間におけるプログラミング教室や講座が急増しつつある。小学生対象では、Scratchのようにコードを書くことなくプログラミングの概念を学べるビジュアルプログラミング言語を用いることが多い。さらに、米国や英国では、手で触れるブロックなどを組み合わせることで、読み書きができない子供たちがプログラミングの概念を学べる玩具も出現している。

日本においても、民間におけるプログラミング教室や講座が急増

小学生対象では、Scratchのようにコードを書くことなくプログラミングの概念を学べるビジュアルプログラミング言語を用いることが多い

米国や英国では、手で触れるブロックなどを組み合わせることで、読み書きができない子供たちがプログラミングの概念を学べる玩具も出現

 大人向けとしても、ファブラボ鎌倉では、IoTクリエイター養成講座の中で、モノづくりとプログラミングを融合した高度な教育を行なっている例もある。ここでは、年齢制限がなく、会社をリタイヤした人も参加している」と解説した。

大人向けとしても、IoTクリエイター養成講座の中で、モノづくりとプログラミングを融合した高度な教育を行なっている例もある

プログラミング教育を推進する背景

 三谷氏は、プログラミング教育を推進する背景には、「高度IT人材の育成」「新しい社会の教養」「創造力の醸成」という3つの目的があるとする。「デジタル時代の進展とともに、2020年には国内で約37万人の高度IT人材が不足することが予想され、プログラミング教育を推進することは人材の裾野を広げることにつながる。

プログラミング教育を推進する背景には、「高度IT人材の育成」「新しい社会の教養」「創造力の醸成」という3つの目的がある

2020年には国内で約37万人の高度IT人材が不足することが予想される

 米国では、2020年には約140万人のプログラマーの雇用が発生するが、学位取得者数から見ると約100万人足りないと予測。これは約5000億ドル(約50兆円)の経済規模に相当するものになると見ている」と指摘。「全員をプログラマーにすることが目的ではなく、新たな社会においてプログラミングは誰もが学ぶべき教養のひとつだといえる。実践的なICT人材の育成においては、幼少期から基礎的なICTスキルを獲得する必要がある。また、日常生活や他の研究領域における課題解決に貢献する『コンピューティショナルシンキング』が重視されるとの声も出ている」などとした。

各国におけるプログラミング教育の目的

全員をプログラマーにすることが目的ではなく、新たな社会においてプログラミングは誰もが学ぶべき教養のひとつ

実践的なICT人材の育成においては、幼少期から基礎的なICTスキルを獲得する必要がある

日常生活や他の研究領域における課題解決に貢献する『コンピューティショナルシンキング』が重視される

 また、「プログラミング教育を推進するには、講師の確保、学習環境の整備、カリキュラムの開発および維持といった環境整備が不可欠。この点において、ITサービス産業の支援は極めて有意義である」と提言を行なった。

座学は飽きてしまいがちなので、実習を重視

 情報サービス産業協会の会員会社によるプログラミング教室への取り組みについても説明が行なわれた。

 アイエックス・ナレッジ 経営企画室マネージャーの高橋秀典氏は、同社が社会貢献活動の一環として展開している「ロボット&プログラム体験教室」について説明。

 「小学校4年生から6年生を対象に、モノづくりとプログラミングの楽しさを体験してもらうことを目的として開催。2011年からスタートして以来、これまで24回を開催し、438人の児童が受講している。受講した子供からは、教室が楽しかったとの回答が75%、また参加したいという回答が87%。3時間に渡る長い教室でありながら、子供たちは、予想していたよりも楽しんでプログラミングを受講している」とした。

アイエックス・ナレッジ 経営企画室マネージャーの高橋秀典氏

 一方で、「これまでの手応えとしては、プログラミング教室が学校で実施されても受け入れられるだろうと考えている。だが、プログラムの可視化が大切であり、体験教室では、クルマ型ロボットを使って1周を40秒に近いタイムで走るというレースに人気が集まっている。また、座学は飽きてしまいがちなので、実習を重視する必要がある」などとした。

先生たちのプログラミングアレルギー

 伊藤忠テクノソリューションズ 広報部CSR課長の市川陽子氏は、iPadとビジョアルプログラミング環境「Pyonkee」(ピョンキー)を利用して実施している「未来実現IT教室」について紹介。「教育現場では、外部から持ち込んだ機器はネットワークに接続できないなどの制限があるが、iPadを利用することでそうした問題が解決できる。現在は、2時間30分の内容となっているが、学校の授業では45分間という制限があり、この中に収めることも考える必要がある。

伊藤忠テクノソリューションズ 広報部CSR課長の市川陽子氏

 また、先生たちのプログラミングアレルギーがあるが、実際の教室の様子を見てもらうと、そうした不安が解消されている。まずこの拒絶感を払拭し、継続的に進められるコンテンツとICT環境がプログラミング教育の普及の鍵になる。さらに、学校によって、ICT環境の格差がある点も埋めていく必要がある」などと課題を指摘した。

“難しい”というイメージを払拭する題材、家に戻っても続けられる環境が必要

 NTTデータ 広報部の吉田潤子氏は、「“楽しい!”で子どもの心に種をまく こどもIT体験」として、同社が取り組んでいるプログラミング教室の事例を紹介。文部科学省が提供しているオンラインツール「プログラミン」を活用したアニメーション制作、ゲーム制作のほか、「Beauto Racer」「Beauto Builder」を活用したロボットプログラミング教室の内容について説明。192人の定員に約2600人の応募があることを示しながら、「子供が持つ、難しいという心の壁を払拭するために楽しめる題材を選択。さらに、家に戻っても続けられる環境が必要であり、そのためにフリーソフトを使っている。未来を作るのは子供たちであるというメッセージを前面に出して、アイデア発想の時間をプラスしている」などとした。

NTTデータ 広報部の吉田潤子氏

社員参加型の組織を目指すJISA

 情報サービス産業協会の原孝副会長(リンクレア代表取締役会長)は、「小学校や中学校でのプログラミング授業の開始に向けては、JISAとしても協力したいが、今の段階では具体的な話はない。600社、35万人に会員企業がある。そのポテンシャルを生かすことができるだろう」とした。

情報サービス産業協会の原孝副会長

 「JISAはこれまでは経営者の活動が中心であり、社員参加型の組織にしなくてはならない。また、地域創生の観点から、首都圏以外での取り組みも加速していく。さらに、革命プロジェクトとして、パラリンピックの応援とともに人口が最も少ない鳥取県の中学校を応援することで、ICTを活用して教育現場を変えていくといったことにも取り組んでいる」と説明。「JISAも改革を進めているが、努力不足で発信力が足らない。報道関係者を対象にしたこうした機会を年3、4回開催し、テーマを持って開催していく。各社の取り組みの課題も見えていく」とした。


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