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アスキーエキスパート第8回

なぜ大手企業とベンチャー企業と連携が難しいのか 距離を縮める取り組みは?

2016年08月04日 12時00分更新

文● 光村圭一郎/アスキーエキスパート

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国内の”知の最前線”から、変革の先の起こり得る未来を伝えるアスキーエキスパート。三井不動産の光村圭一郎氏による技術とイノベーションについてのコラムをお届けします。

 大手企業とベンチャー企業のコラボレーションは、この数年、ちょっとしたブームになっている。両者のマッチングを目的にしたイベントは、東京都内であれば毎週のようにどこかで開催されている。その代表的な例である“イノベーションリーダーズサミット”のウェブサイトを見ると、過去に参加した大手企業の名前が数百、ずらりと並んでいる。

 多くの大手企業がベンチャー企業との連携に熱い期待を寄せ、自社だけでは成し得ないイノベーションを実現する好機と捉えている。しかしながらまだまだその成功事例は少なく、各社がその方法を模索しているというのが実態だろう。

 連載第2回目となる今回は、“なぜ大手企業とベンチャー企業と連携することが難しいのか”という点についてまとめてみたい。

大手企業のリソースを使う難しさ

“大手企業のリソースとベンチャー企業をいかに近づけるか”。私は大手企業の持つパワーの源は“強大なリソース”にあると考えている。資金、人材、技術的蓄積、営業ネットワークなどなど。大手企業の強いリソースと、ベンチャー企業の先鋭的な技術やアイデアを組み合わるのが理想的な連携の形であることは、誰もが認めるところだ。

 現在、大手企業内でベンチャー企業との接点を持とうとしているのは、ほとんどが“新規事業部”や“オープンイノベーション推進部”などと名づけられた部門だと思われる。そしてこれらの部門は、既存の事業部門や商品本部とは切り離されていることが多い。会社としては、既存の事業にとらわれない斬新なビジネスを生み出すことを期待しているわけだから、このような位置づけとなるのは当然だろう。

 しかしながら、大手企業のリソースの多くは、独立部隊である新規事業部門ではなく、既存事業部門の掌中にある。新規事業部門の担当者は、ベンチャー企業と組み合わせたいリソースが社内にある場合、まず既存事業部門の門を叩き、リソースを借り出すところからスタートしなければならない。ここに大きな壁がある。既存事業部門の理解を得られず、リソースを活用することがままならず、連携も上手く進まないという場面が少なからず生じるのだ。

既存事業部門のカベ

 既存事業部門もイノベーションを否定しているわけではない。にもかかわらず、なぜこのような状況が生じるのか。以下、私が着目するポイントをいくつか挙げてみたい。

1 既存事業部門はベンチャー企業のことを知らない

 新規事業部門の人たちは、日々多くのベンチャー企業と面会しながら、新しいビジネスアイデアを練っている。必然的にベンチャー企業の考え方や仕事の進め方、強みや弱みについての経験値を蓄えることができる。

 しかし、既存事業部門の人たちにとっては、ベンチャー企業は縁遠い存在だ。日常の仕事の中で接点を持つことは稀であり、大手メディアでベンチャー企業の動向を目にする機会は増えたものの、それを“自分事”として捉えることは難しい。まして、ベンチャー企業が置かれている“具体的な状況=ビジネス環境の苦しさ”に共感し、理解できる人は極めて少ない。

 そんな彼らがベンチャー企業を見ると、どうしても“粗さ”が目立ってしまう。既存事業部門では、取引先(彼らもまた大手企業であることが多い)が提供してくれる安定的な土俵の上で仕事ができる。それに慣れている人からすれば、ベンチャー企業の魅力は認めつつも、大切なリソースを提供するには二の足を踏んでしまう。

2 既存事業部門のニーズが顕在化されていない

 既存事業部門も様々な問題、課題を抱えている。しかし、私も以前は既存事業部門で働いていたからわかるが、日々の仕事に追われる中で、それを強く意識して取り組むことは意外に難しいことだし、その解像度も決して細かいものではない。

 その状態で、ベンチャー企業が具体的な提案を持ち込んでも、「話はおもしろいとは思うよ」、「いつか考えてみたいね」という反応に留まるだろう。

 その解決のためには既存事業部門の問題や課題を言語化して共有することが重要だ。さらには、議論を掘り下げて、彼らも気づいていなかったニーズを顕在化させ、実際にやってみようという気になってもらうというプロセスが重要になる。また、それをベンチャー企業とも共有し、精度の高い提案につなげてもらう必要もある。

3 新規事業部門の経験不足

 自身を省みて恥ずかしくなることも多々あるが、新規事業部門の経験不足も要素として挙げておきたい。

 新規事業部門の社員も、さかのぼれば既存事業部門で働いていた“フツーのサラリーマン”に過ぎない。これまでの経歴で新規事業やイノベーションに関連する業務に就いたことがある人のほうが少数派だろう。

 また、そもそも新規事業部門の方針があいまいなことも多い。どのような新規事業を目指すのか、どれくらい既存事業を壊すイノベーションに取り組むのか、どれだけの失敗を許容できるのかなど、これらの観点にはっきりとした答えを持っている会社は多くないだろう。

 大手企業とベンチャー企業の連携はひと筋縄ではいかない。新規事業部門は、ベンチャー企業と既存事業部門の橋渡しという役割を果たす必要があるが、そのためのスキルを身につけ、ゴールを明確にしなければ議論をリードすることはできない。

ベンチャーとの距離を縮めるために

 大手企業とベンチャー企業との連携を実現するためには、既存事業部門へのアプローチの質を高める必要がある。これは多くの大手企業に共通する課題だろう。このカベを乗り越えるために、三井不動産社内で行なっている取り組みをいくつかご紹介したい。

 まず、社員とベンチャー企業の接点を作るために開催しているのが、“Meet Up!”というピッチイベントだ。これは月に1回、ランチタイムに行なうもので、3~4社のベンチャー企業が登壇する。社内にはポータルサイトで告知し、毎回約50名が自らの意志で参加している。

 ベンチャー企業という存在を身近に感じ、理解してもらうためのイベントのため、ピッチと同時に重視しているのが質疑応答。ベンチャー企業はVCや新規事業担当者向けの感覚で話すため、話の前提が共有されておらず、伝わりにくい場合がある。そんなときは、ファシリテーターを務める私が質問したり補足したりしている。

 また、アンケートの中で、後日面会したい企業を聞き、面談をセットする際は私が同席して議論を整理するように心がけている。理解促進を目的に始めたイベントではあるが、ここから具体的な業務発注や連携が生まれ始めているのはうれしい成果だ。

 もうひとつの取り組みは、関連会社を含め、30を超える部門に行ったヒアリングである。これにより、どのような案件であれば連携の可能性があるのか、リソースを提供するだけの踏み込みが可能になるのかを、従前よりも正確に把握できるようになった。また、各部門にベンチャー企業からの提案を持ち込む際は、心に刺さる内容になっているかどうか、提案資料を事前に確認するように心がけている。

 これらの取り組みにより、上述の3つのカベのうち“ベンチャー企業への理解不足”と“既存事業部門のニーズ把握”という2つについては、一定の効果が出てきているように思う。次回の原稿では、残るもうひとつの課題である“新規事業部門に必要なスキル”について考えてみたい。

【三井不動産光村氏の登壇が決定!】2016年8月26日(金)開催のIoT&ハードウェアスタートアップの祭典“IoT&H/W BIZ DAY 2 by ASCII STARTUP”では「日本企業だからできる製造大手が進めるイノベーション新手法」のセッションを実施予定です。参加登録はイベントレジストまたはPeatixの申し込みページからお願いします。

■関連サイト
31VENTURES

光村圭一郎(こうむらけいいちろう)

著者近影 光村圭一郎

三井不動産株式会社 31VENTURESアクセラレーター 1979年東京都生まれ。(株)講談社にて週刊誌編集者として勤務した後、2007年に三井不動産入社。オフィスビル開発、プロパティマネジメント業務、部門戦略策定等の業務を経て現職。主なミッションは「スタートアップと大企業の事業共創の実現」。その実験場として2014年、東京・三越前に「Clipニホンバシ」を自らプロデュースし、開設。KDDI「∞Labo」、青山スタートアップ・アクセラレーション・センター等のメンターを務める。

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