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「マニタ書房」オーナーでもあるとみさわ氏にインタビュー

馬鹿じゃないのと言われても、楽しい。エアコレクションの魅力を『無限の本棚』著者に聞く

2016年07月31日 17時00分更新

文● 聞き手● 遠藤諭(角川アスキー総合研究所)編集● ASCII編集部

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1968年からのとみさわ氏のコレクション遍歴がまとめられている。メジャーなものから「でん六鬼の面」、「他人のプライベートテレカ」、「パスポートもどき」など聞き覚えがないものまで多種多様だ。

そして、“エアコレクション”の境地に達する50代

とみさわ「僕のコレクションというのは”本"が原点だったというのもあって、同じ規格でバリエーションの異なるものが揃っている状態に興奮するんです。ミニカーやトレーディングカードも好きだったのですが、縮尺や規格が少しでも違うと激しくがっかりします。トレカも国際規格があってそこが重要なんです。トレカサイズで流行ったダムカードを参考にして自治体が発行したマンホールカードというのがあるのですが、それが名刺サイズだということを聞いたときに全然わかってない!と(笑)。ダムカードから学んでないじゃないかと(笑)。そういうところが重要なのに。

――コレクションで家の中すごいことになってるんじゃないですか?

とみさわ「すぐに飽きてがさーっと手放しちゃうので、意外にもモノで溢れかえってたりはしないんです。特に最近はエアコレクションに向かっているし、本はこうやって売っちゃうし。コレクションしてても他の人に負けたと思うとまたすぐ手放しちゃったりします。

 たとえばドリフグッズは、当時『日本一だ!こんなの集めてるやついないわ!』と思っていたのですが、集めている途中に凄い人を見つけてしまったんですね。もう無理、敵わないやと思って全部手放しちゃいました」

――コレクションに対するモチベーションは物欲ではないんですか?

とみさわ「昔は僕も物欲だと思っていたんですが、トレカを集めているときに違和感を感じました。野球カードにはユニフォームの切れ端がはめ込んであるジャージカードというのがあったんです。ユニフォーム自体は昔から取引されているんですが、10万、20万。でも、野球カードは500円で買ったらたまたまその中にそのカードがあるかもしれないという夢があるから人気になったんです。そうなると金のあるやつには敵わなくなってみんな麻痺してきちゃう。そうするとなんか違うな、モノじゃないなと。突き詰めていくと、自分はただの白いカードが番号をふられて、日本全国に散らばっていたらそれを集めるのを楽しめるだろうなと気づきました」

――集めるだけが目的ならただの白いカードでいい!

とみさわ「人気選手だから高いとかじゃなく全部一律100円! みたいな。でもそれで俺の楽しさは損なわれないぞと。という話をトレカ仲間にすると馬鹿じゃないのと言われますけど(笑)。そのときモノが好きなのではなく、集める行為自体が好きなんだと気づいたんですね。それがエアコレクションです。

 たとえば半顔というコレクションがあって、これは主役二人の顔が半分ずつ左右に分かれているデザインの映画のポスターのことなんです。それがおもしろいなと思って集めようとしたんですが思いのほか多くて。そのうち別にチラシがなくてもいいやと。あるいはポスターしかない場合、手に入らないから写真撮ったりネットで検索したり公式サイトから画像引っ張ったりして、こんなのありましたっていうので満足です。別にモノを集める必要がなかったんです」

――それって、ある種コレクションの否定という側面がありますね。

とみさわ「あるでしょうね。だから物欲派の人からするとお前なんかコレクターじゃないと思われるかもしれないですし。そこはかなり気を使って本は書きまして。物欲派の人を否定しちゃいけないし、こっちが偉いみたいな言い方もしちゃいけない」

――昔、中国の弓の達人が技を極めていったら、最後弓を射ないとこまでいったみたいな。そんな感じがしてきました。でも、今までやったからそれが言えるのかなぁ?

「マニタ書房」の今後

とみさわ氏が全国から集めた珍本が詰まった棚には、手書きの特殊な”仕切り板”が並ぶ。

――要するに「エアコレクション」というのは物欲がある次元で昇華して、バーチャル化してデータ化したんですね。

とみさわ「ゲームフリークに入社したときにMac Classicを支給されたのがパソコンを使いだしたきっかけでした。カード型のFileMakerは性に合わなかったですね。表が作りたかったんです。はじめはテキストエディタの表を書く機能でその当時熱中していた”ぐいのみ”のコレクションのデータをつけていました。あの頃は一面に表を作るとパソコンがものすごく重くなって使い物になりませんでしたね。その後何年か後にExcelを使い始めて、『俺が追い求めていたのはこれだ!』と思いました。

 ブックオフ巡りをしているときは一番Excelを駆使していました。何を入力したら面白いか考えるのが楽しかったですね。『あ、ブックオフの店舗の標高を書くと面白いぞ!』って気づいたときの自分の喜びは今思い出すとばかばかしいですけどね(笑)。あとは訪問した日とか駐車場の有無は書くけど営業時間は大体同じだから書かない、とか。そういうことを考えるのが楽しいんです」

――自分でルールを決めて店舗や場所を巡るという「勝手にスタンプラリー」も面白いですね。

とみさわ「ウルトラマンスタンプラリーや、JRがやっているスタンプラリーのような敷かれたレールは全く興味ないんです。自分でスタンプラリーを見つけて勝手にやるのが好きで。ブックオフ全店とか。今夢中なのはニュータンタンメン本舗ですね。川崎発祥の辛口卵とじラーメンのチェーン店です。食べ歩きもかねていますすが、その支店とインスパイア店も全部リストアップして行った店にチェックを入れるんです。それがたまらなく楽しいんです(笑)」

――データ魔なんですね。

とみさわ「ゲーム会社にいたときはデータとかそういうのは苦手だったのに、不思議ですよね」

――マニタ書房の本棚の、「自殺」、「社長」、「埋蔵金」、「ジェンダー」、「宗教」、「毛」、「刑罰」、「秘境と裸族」、「大相撲」、「アイドル」、「愛国」、「巨大土木」とか本と本の間に挟んであるインデックスみたいなのが楽しいですね。

とみさわ「仕切り板って僕は呼んでいるんですけど」

――昭和の日本の業というか、書店でもワゴンに追いやられた本って感じですよね。「万引」という仕切り板もありますね。どういう内容なんですか?

とみさわ「よく言われるんですけど店内にある本全て読んでいるわけではないので(笑)。ペラペラとしか」

――万引きといえば、書店の人は分かるらしいですね。店に入って来てすぐに店員の方を見て来たら万引きだ、みたいなことらしいですけど。

とみさわ「ここまでわざわざ上がって来る人はマニタ書房がどういう店か分かっているだろうし、僕はあまり警戒はしていないんですが、わざとこういう本を見えるように置いておいて一瞬ドキッとさせようとはしてますね(笑)」

――『羊の気持ち』という本が2冊ありますね。面白そう。

とみさわ「いい本ですよ。ニットデザイナーの広瀬光治先生という男性なんだけどちょっとなよっとしてる方がいらっしゃって、その人の自叙伝です。とってもいいんですよ。わりとすれすれの感じの人って大好きです」

――今後マニタ書房はどうなっていくんでしょう?

とみさわ「どうなんでしょうね。どこまで続けられるか……。物書きとしてもっと売れれば本屋どころじゃないし、従業員を雇えばいいってことなんでしょうけどそれじゃあ楽しくないし。娘が今年から高校生ですからうちでバイトさせようかなって(笑)。普通に人を雇うよりいいかな」

とみさわ昭仁(とみさわあきひと)

特殊古書店マニタ書房を営みながら、書評や映画評を中心に活動するフリーライター。ゲーム、映画、古本、珍レコードと行った分野に詳しく、「日本一ブックオフに行く男」としても知られる。著書に、『底抜け!大リーグカードの世界』(彩流社)、『人喰い映画祭【満腹版】』(辰巳出版)、『無限の本棚』(アスペクト)など。

遠藤 諭(えんどう さとし)

角川アスキー総合研究所 取締役主席研究員。『月刊アスキー』編集長、アスキー取締役などを経て、2013年より現職。スマートフォン以降に特化したライフスタイルとデジタルの今後に関するコンサルティングを行っている。『マーフィーの法則』など単行本もてがけるほか、アスキー入社前には『東京おとなクラブ』を主宰。著書に『計算機屋かく戦えり』など。『週刊アスキー』にて巻末連載中。

・TwitterID:@hortense667


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