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日本のITを変える「AWS侍」に聞く 第22回

2週間に1度のペースで勉強し続けるモチベーションとは?

運用でカバーの波田野さんが現場で得た経験則とCLI支部への思い

2016年07月21日 07時00分更新

文● 大谷イビサ/TECH.ASCII.jp 写真●曽根田元

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波田野さんのエキスがぎゅっと詰まったCLI専門支部

 実際、オオタニも取材の前に勉強会にお邪魔したが、事前に聞いた「ハンズオンと言いながら、まるで手順書のレビュー会みたいです」というイメージで、開始早々から流れるように進む。手順に沿って、参加者はもくもくと操作を進め、波田野さんがときおり参加者に声をかけ、詰まっているところを聞く。そして、常連メンバーは自発的に詰まっている人のサポートしに行ったり、解決方法についてベテラン参加者からが意見が飛ぶ。

取材の前に行なわれたのRoute53の勉強会の模様。波田野さんの説明を聞きながら、参加者は淡々とテーマをこなしていく

 CLIというテーマにもかかわらず、初心者を拒絶する雰囲気もなく、ベテランも気持ちよく学び、サポートできる雰囲気。勉強会ならではの緊張感と気軽に質問ができるような講師・参加者同士の距離感が同居する居心地のいい空間だと感じた。

 こんなCLI専門支部の勉強会には、波田野さん自身のコミュニティ活動やハンズオンのノウハウがふんだんに盛り込まれている。削除や作成の作業が発生した時には必ず変数を確認する手順を入れたり、ハンズオンの成果物が課金されないよう削除作業をきちんと盛り込む、パターンになっているところはなるべくドキュメントに落とし込むといった具合だ。「先日、自分が参加者として感じた、ハンズオンが正常に終わらないときの絶望感、置いて行かれた時の寂しさを忘れないようにしようと思って(笑)」ということで、時間配分が恐ろしくパーフェクトになっている点も指摘しておきたい。

 2週間に1回行なわれるCLI専門支部では、メンバーからのフィードバックを受けて、自身の知識をアップデートする。手順書に関しても、きちんと毎回アップロードし、他の勉強会でも利用できるようにしている。「大谷さんには地方の勉強会でぜひコンテンツがあることを宣伝してもらいたい」というお題をいただいた。その他、イベントも毎回同じではなく、もくもく会を入れてみたり、初心者向けを入れたりして、メリハリを付けている。「コンテンツで惹きつけて、現地では疎外感を出さないように工夫している」と語る波田野さん。回数を重ねる中で運用のコツをつかんできた波田野さんのカルチャーが、きちんとCLI専門支部に醸成されているわけだ。

 参加者に関しては常連が3割、たまに来る人が4割、初参加が2~3割という分析でバランスもよいという。「常連が多いと初参加の人は入りづらいし、初参加の人が多いと常連が飽きてしまう。その点、CLI専門支部はちょうどよい割合。ラーメン屋であれば一番つぶれにくい比率になっています(笑)」と波田野さんは語る。また、AWSのサービスの幅の分、エンジニアもばらける。Route53だったらインフラ系だし、ElastiSerchだったらアプリ系といった具合に、参加者もいろいろ選べるようになっている。

 CLI専門支部の参加者のうち、クラウド転職を実現した人もいるという。「客先常駐でいつもうーんと言っていたエンジニアがたまに参加してくれてたんだけど、いつも表情を変えないので、楽しんでいるのかわからなかった。でも、クラウド転職が決まってから、すごく笑う人になってた」(波田野さん)。こうなるとまさに「コミュニティが人生を変える」だ。

「運用でカバー」がきちんとビジネスとして評価される日本にしていきたい

 波田野さんの野望は、「動いていて当たり前、障害が発生するとペナルティ」という日本の運用現場を変えること。現場のグダグダをクラウドで解消し、運用でカバーの部分をビジネス化することで、現場は変わっていくと考えている。

「日本って、現場のエンジニアのポテンシャルはすごく高い。ポテンシャルが高くないと、運用でカバーはできないですから。でも、これは評価されないし、ビジネスとして正しい形にならない。僕は運用でカバーをマイナスからゼロにする火消し仕事じゃなく、付加価値として現場が稼ぐためのビジネスメニューにしたい。定型化できる業務はどんどんクラウドに上げてしまい、日本のエンジニアが強い例外処理が活きる『美しい丸投げのモデル』が作りたいんです」

「日本のエンジニアが強い例外処理が活きる『美しい丸投げのモデル』が作りたいんです」(波田野さん)

 こうした波田野さんは、開発者が運用をカバーするDevOpsの隆盛に運用の立場から異を唱える。「三現主義という言葉があるように、現場を知るOpsがビジネスをしていてDevがそれを手伝うのが本来のビジネスの形だと思っている。現場の遠くにいるDevが上位で、現場にいるOpsが下請けをする今のモデルって、本来のビジネスとしてはおかしい。お客様に近い運用側が新しい要件を整理し、AWSでインフラを作ってしまう。あとは手に余るところだけ、Devに発注すればいい。あくまで自分たちでサービスを運用して、より良い設計にしていくのが重要」と波田野さんは語る。

 こうした中、CLIは現場で疲弊し切っている「ドMな日本の運用現場」から脱却するツールになるという。「『運用でカバー』をやらかしてしまうとクラウドの方が地獄は大きいけど、一方で合理化する余地や効果は果てしなく大きい。悲壮感を漂わせている方が酒がうまいというドMな人たちが、クラウドの正しい活用によって8割はいなくなるんじゃないかと思うんですよね」と波田野さんは語る。

 CLI専門支部についてはきりがいい100回までは行きたいという。「ToDoリストは消しても消しても終わらないので、体力が続く限りやろうと思っている。一方で頻繁に参加していただいている方々もどんどん運営に引き込んでもいきたい」と語る波田野さん。現場で得た経験則を惜しみなく参加者に与えながら、波田野さんは今日も壇上に立ち続ける。

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