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実は獣害、ジビエでおなじみの鹿肉を缶詰にしたのはアレルギー対応だった

2016年07月16日 12時00分更新

文● 四本淑三

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味はデパ地下お惣菜レベル

 鹿肉といえば、最近人気のジビエでもあり、一般的な缶詰としても興味深い。どんな食味なのか、試食用にいただいた缶詰を試してみた。現在のラインナップは「和風肉じゃが」「大根のそぼろ煮」「かぼちゃのそぼろ煮」という家庭的なおかずのメニュー3種。いずれも内容量は150gで、賞味期限は3年。

 食材をパッケージする缶には、谷啓製作所ならではの技術が使われている。ひとつは開けたフタで手を切らない「ダブルセーフティプルトップ」。コルグ「チュナ缶」のフタと言えば、ASCII.jpの読者にもおなじみのはず。若田さんとともにISSで宇宙を飛んだ缶入りパンにも使われたものだ。

 メリメリと剥がれるスチール製のフタを開けると、水で浸されたレトルトパックが現れる。これも「ハイブリッド製法」と呼ばれる、谷啓製作所の独自技術。レトルトパックを水に浸して加熱すると、食材のガスがレトルトフィルムの外側へ溶出し、缶詰特有のエグみや臭いが食材に残らない。

 水を捨てて取り出したレトルトパック。温める場合はこの状態で湯煎できるが、非常時を想定して温めなくても美味しいように工夫されているというので、このまま食べてみることに。

 缶の内側は環境ホルモンを溶出しないポリプロピレンフィルムで覆われている。通常、缶のサビ止めとして使われているエポキシ樹脂は、BPA(ビスフェノールA)を溶出することが知られ、国内の製缶業界でも溶出濃度のガイドラインを設定している。BPAの人体への影響については諸説あるが、谷啓製作所は疑わしければ使わないという考え方だ。

 缶の大きさからすると内容量は少ないが、これは缶が水に浸されているため。正直言って1缶あたり800円という値段を考えると量は物足りないが、アレルゲンを含まず、長期保存可能という性能を考慮すれば、納得できる範囲ではないのか。もちろんそれは味による。

 まず口に運んでみると「固い」「臭い」と言われがちな鹿肉の癖は感じない。この点には大阪府立大の先生も苦労されたという。天然の肉なので熱をしっかり通す必要はある。しかし、熱を加え過ぎても固くなる。缶詰は最後に加熱処理が入るので、その手前の加減が難しかったという。最終的には一度炒めてからレトルトに封入するという工程を採り、臭いについてはイチジクを使って漬け込むといった工夫をしているそうだ。

 全体的に上品な薄味で、かぼちゃ自身の持つ甘みや食感が楽しめる。缶詰は独特の臭いを消すため濃い味付けになりがちだが、原理的に真空調理法に近いハイブリッド製法は、薄い調味液で十分味が浸透する上に、缶詰独特の臭いもない。そうしたメリットも活きているのではないか。

 柔らかい煮物なのに、かぼちゃが型崩れしていないのもいい。総じて言えば、デパ地下のお惣菜をそのまま真空パックしたような感じで、少なくとも備蓄用非常食としての割り切りは食味から感じられない。もちろんジビエ料理的な風味を期待すると裏切られるが、あらびきの鶏肉という趣でクセがなく、当然ながら子供が食べやすいように工夫されている。

 食物アレルギーの子供を持つ家庭はもちろんだが、高価ながらごく当たり前の食品缶としても美味しい。ローリングストックで備蓄している方にも、メニューの一つとして試してみることをおすすめしたい。そして災害がいつどこで起きるかわからない以上、自治体も可能な限り備蓄食料の食物アレルギー対応を進めてほしいと願う。

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