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高橋幸治のデジタルカルチャー斜め読み 第27回

著作権法に対するハックでもあるクリエイティブ・コモンズ

2016年07月05日 09時00分更新

文● 高橋幸治、編集●ASCII.jp

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コモンズは社会の「余白」であり「編集が起動できる場」である

高橋 レッシグ教授には「コモンズ」(翔泳社刊)という著書もありますが、クリエイティブ・コモンズを考えるうえで、やはり公共圏や公共財をどうとらえるかということはとても重要なテーマだと思います。ただ、最近、個人的にとても危機感を持っているのは、「公共」という言葉が出た途端、「なにをやってはいけないか?」という議論が最優先になってしまっているような気がするんです。

 近所の公園なんかでも、「サッカーはダメ」とか「犬を放しちゃダメ」とか「歌っちゃダメ」とか、「じゃあ、なにができるんだよ?」というくらい禁止事項が誇示されていたりします。もちろん公共だから規範や規制は必要なんでしょうが、まずは「公共圏や公共財をどうみんなのために活用できるのか?」という可能性のほうを考えたほうがいいと思うんですよね。

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「CODE」の次に書かれたローレンス・レッシグ教授の著書「コモンズ―ネット上の所有権強化は技術革新を殺す」(翔泳社刊)。デジタルカルチャーの文脈で知的財産権を考えたい人にとっては「CODE」とあわせて必読の書物

水野 そうですね、僕はよく「余白」という言葉を使うんですが、それって、つまりは「コモンズ」ということなんです。社会においてなにか新しいものが生まれてくる条件というのは、これまで出会うことがなかったであろうモノ/コト/ヒトが偶発的に邂逅してしまうことが必須の要件です。

 そうした異質のモノ/コト/ヒトが出会える場をいかに社会に埋め込めるか、スペース的にもリソース的にも創出できるかということが重要じゃないでしょうか? 既存のものを寄せ集めて新しいものを作り出すという、レヴィ=ストロースの「ブリコーラジュ」的な考え方ですね。なぜすべてが私有になってはいけないのか、どうして公道や公園といった公共圏や公共財が人や社会には必要なのかということを、もう一度よく考える必要はあると思います。

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フランス構造主義の人類学者クロード・レヴィ=ストロースの主著「野生の思考」(みすず書房)。レヴィ=ストロースは長年に渡る未開社会のフィールドワークの中で、あり合わせの余り物や端切れを使って新たな道具を作り出す知のあり方を再発見し、それを「ブリコラージュ」と名付け、近代のシステマティックな生産方法や生活様式に対して批判的に対比/対置させた

高橋 水野さんのおっしゃる余白というのは僕の仕事の文脈で言うとまさに「編集が起動する場」のことだと思うんですよね。編集なんていうのはそれこそ既存のマテリアルをいかに組み合わせるかというブリコーラジュ的なスキルですし、同質性や近似性の高いものだけを組み合わせていても決しておもしろいものにはならない。

 いま、さまざま場面でさまざまな基準によるクラスター化が進行してしまっていて、コモンズに必要な多様性とか寛容性が欠落した社会になりつつあるような気がしてならないんです。そういう意味でも、クリエイティブ・コモンズの思想的な背景がもう一度呼び戻されるてもいいのではないかという気がしています。

水野 それはまったく同感ですね。だから僕もコモンズを活用するためにはかならず広義の意味での編集者のスキルセットやマインドセットが必要になると思っていたので、弁護士になった後に編集の学校に通ったていたこともあるんですよ(笑)。

 この感覚はいまでも変わっていなくて、法律という観点から社会を編集的にとらえたり、一義的なものと思われがちな法律を編集的に扱っているという感覚がありますね。

(次回に続きます)


著者紹介――高橋 幸治(たかはし こうじ)

 編集者。日本大学芸術学部文芸学科卒業後、1992年、電通入社。CMプランナー/コピーライターとして活動したのち、1995年、アスキー入社。2001年から2007年まで「MacPower」編集長。2008年、独立。以降、「編集=情報デザイン」をコンセプトに編集長/クリエイティブディレクター/メディアプロデューサーとして企業のメディア戦略などを数多く手がける。「エディターシップの可能性」を探求するミーティングメディア「Editors’ Lounge」主宰。本業のかたわら日本大学芸術学部文芸学科、横浜美術大学美術学部にて非常勤講師もつとめる。

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