鴻海有利な契約は「確実に出資してもらうため」
シャープでは「偶発債務の情報開示は、出資をより確実なものにするために、外部アドバイザーの意見を得て、そのときの最善を尽くした」と説明。さらに高橋社長は「企業価値(デューデリジェンス)については、産業革新機構が先行しており、最後の1週間で鴻海が追いついてきた。だが鴻海側にこの内容を隠しておくと、出資自体がなくなる可能性があると判断し、産業革新機構が知っている情報を提供した。その結果、鴻海に情報が提供するタイミングが遅れた」と説明した。
またその後の交渉については「確実に出資してもらうことを前提とし、経営状況、経営見通しの精査を重ねて、両社で真摯に協業してきた。その結果、1株あたり88円の株価には合理性があり、企業価値を高めることができると判断し、取締役会で契約内容の見直しに至った」(橋本仁宏取締役常務執行役員)と説明。これが当初の4890億円から3888億円に約1000億円減額した理由とした。また「液晶ディスプレー事業に関する条項が盛り込まれているが、出資完了に向けて両社が全力で取り組んでおり、このオプションが行使されることは想定していない」と発言した。
高橋社長はこれを補足するように「このオプションはシャープがこの提携を辞めたいといった場合に発生する。また、鴻海に瑕疵(かし)があった場合にはこのオプションは行使することができない」などとした。そして「当局が止めに入った場合にもこのオプションが発生することになるが、各国の独占禁止法の審査を進めており、審査が終わっていないのは中国だけ。もうすぐ完了する」と述べた。
鴻海による払込時期も、この中国政府の審査に影響される。
「払込の実行は、各国の独占禁止法をクリアしたあとの話。本来ならば、もっと多くの国での審査が必要になると想定しており、すべての審査が完了するのは8月末から9月中旬を想定していた。そのため、10月5日までという期日を設定した。日本、台湾、中国、欧州では審査をクリアしており、残っているのが中国だけ。全体的に想定よりも速く進んでいる。なんとか6月中に中国での審査が完了するように、両社で必要な情報などを提供している。これが実現できるかどうかは中国政府次第」と高橋社長は発言。
さらに、6月22日に台湾で開催された鴻海精密工業の株主総会では、郭台銘会長が、「6月末までの払込を目指している」と発言したことにも触れ「鴻海から払込が行なわれないということはない、ということが前提である」とした。高橋社長は「シャープの第1四半期決算の内容で払込がされないということもない」と付け加えた。
だが、こうした発言に対しても株主は不信感をぬぐえないまま。2011年にはソニーがシャープ堺工場への出資を中止。2012年には鴻海によるシャープへの出資が実施されなかった経緯があるだけに、鴻海の払込が確実に行なわれるのかを心配する株主の声は当然といえよう。
「シャープは、何度も契約で馬鹿を見ている」という株主の言葉からも、払込の実行に対する不安が感じ取れる。
中国政府の動きをみると、6月末までの払込は無理のようだが「早期に決着がつかないと、シャープの企業価値は弱まるばかり」との指摘も出ていた。
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