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佐賀県、佐賀大、オプティムの三者連携協定

害虫検知してピンポイントで農薬散布するドローンのスゴさ

2016年06月13日 10時00分更新

文● 川島弘之/TECH.ASCII.jp

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 ICT農業の本格的な幕開けかもしれない――。

 佐賀大学農学部、佐賀県農林水産部、オプティムが2015年8月から推進するIT農業における三者連携協定。その成果報告会が6月7日、開催された。

 「日本の農業が抱える課題は、高齢化、担い手不足、技術継承の難しさ、国産出荷を減少させかねないTPP」と指摘するのは、佐賀大学農学部長の渡邉啓一氏。「これらに対応できるような新しい農業を作る必要がある。生産だけでなく、ブランド化なども必要となり、そのための連携」と三者連携協定の意義を語る。

佐賀大学農学部長の渡邉啓一氏

 協定締結は2015年8月。「楽しく、かっこよく、稼げる農業」というコンセプトの下、IT農業に関する三者連携が始まった。

 目指すは「世界一の農業ビッグデータ地域」「ウェアラブルでつながる世界で一番、楽しく、かっこいい農業ができる地域」「IoTで安心・安全で美味しい農作物を届ける世界一の県」。そのため、佐賀県内にて実証実験を行ってきた。

IT農業における三者連携協定

3つの目標2

これまでの活動状況

 特にドローンやIoT技術を使って、農作物の生育状況や温湿度などの環境データの収集を重点的に推進。佐賀県内7カ所の圃場で、28品目の農作物の植え付けから剪定、追肥、防除、収穫まで膨大なデータを集めてきた。

ビッグデータ収集状況

 現在、その結果から、IT農業の効果仮説の立案を進めており、定量的評価モデルとして「へらす指標」と「ふやせる指標」に関する仮説を品目ごとに明確化している。ここから今後は、農業収益の向上(稼げる農業の実現)を目指すことになる。

「へらす指標」と「ふやせる指標」の仮説を立てた

 これらに加えて披露したのが技術的成果だ。

ピンポイントで農薬散布するドローン

 まずは、オプティムが独自開発した農業に特化したドローンだ。設定されたルートを自動飛行し、近赤外線カメラやサーモカメラなどによるマルチスペクトル撮影が可能。圃場に設置される各IoTセンサーの中継局の役割も果たし、Wi-Fiが行き届かないような広大な圃場でも、ドローンが飛行することでデータを収集することが可能となる。

アグリドローン

1台でマルチファンクションを実現

主なスペック

 また、2015年10月には、ドローン撮影画像の解析により、空から大豆の害虫(ハスモンヨトウ)を検出することにも成功しており、この技術が「アグリドローン」にも搭載される。

 病虫害が発生している箇所を突き止めると、ドローンが自動で空からピンポイントで農薬散布する。人が機械を使って満遍なく噴霧する従来の農薬散布と違って、不必要な箇所への農薬を撒かずに済むという。

自動運転による大豆栽培の効果検証

画像解析による害虫検出の様子。葉の変色などから判別するんだそう

 さらに、ドローン対応殺虫器(誘虫灯)も搭載可能。夜行性の害虫が活発になる夜間にドローンを飛ばし、農薬を使わずに害虫駆除がおこなえる。「特に、従来の農業が使えていなかった夜間の時間帯を活用できるため、農作業の在り方すら変えうるのでは」と、オプティム 代表取締役社長の菅谷俊二氏は語る。

ハウス内を自走する全天球カメラ

 次が、全天球カメラで撮影しながらビニールハウス内を自走する「アグリクローラー」だ。ハウス内ではドローンを飛ばすのが難しい。そこでネットワークカメラをいくつか設置してみたが、必要十分な撮影ができなかった。というのも、イチゴなどは葉の下に果実が隠れているため、地面から見上げるような視点が必要となる。固定式のカメラではどうしても死角が生まれてしまうのだ。

アグリクローラー

 そこで自走式マシンに全天球カメラを搭載し、ハウス内を走りながら、自動で果実などを撮影できるようにした。実際にイチゴ栽培においては、以下の観点で画像解析による分析を行うという。

  • 日中と夜間におけるイチゴの状態比較
  • 生育実態の確認
  • イチゴの実や葉と実の生え方のバランス調査
  • イチゴの実上に確認できる種と種の間隔や種の数のカウント
  • ハウス栽培された高品質のイチゴと、高品質でないイチゴとの関係性

アグリクローラー

全天球カメラで撮影した様子

スマートグラスで遠隔指示

 次が、遠隔操作支援専用スマートグラス「Remote Action」を使用し、遠隔地にいる指示者からの作業支援だ。作業の記録を「Remote Action」から、「OPTiM Cloud IoT OS」へアップロードすることで、データ蓄積をスマートに実現している。

スマートグラスで遠隔指示

 これらの機能について、三者で実証中とのことだ。

次世代型やさいコンセプトを検討

 三者連携協定では、具体的な成果物として、次世代型やさいコンセプト「スマートやさい」の検討も始めている。スマートやさいとは、佐賀の地でIoT、ドローン、スマートグラスなどを利用し、ITの地からでスマートに育てられた野菜のコンセプト。「野菜の生産から消費までのトレーサビリティを実現し、顧客との長い関係や評価を作り、美味しさや減農薬により、人々をスマートに笑顔にする」(菅谷氏)という。

オプティム 代表取締役社長の菅谷俊二氏

 すでにトレーサビリティ機能を実現しており、QRコードをスマホカメラで読み取ると、生産者情報などが確認できるようになっている。今後随時新しい機能を提供していく。

 実証ロードマップとしては、2015年~2016年の研究チームによる仮説の検証から、2016年~2017年に圃場を使った現地実証、2017年~2018年にアグリドローンやOPTiM Cloud IoT OSを活用したIT農業ソリューションの提供を始める予定。

スマートやさい

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