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開発者の山本一成・下山晃の両氏に聞く

プロ棋士に連勝!将棋ソフト「Ponanza」はなぜここまで強いのか

2016年06月21日 17時00分更新

文● 川島弘之/TECH.ASCII.jp

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羽生名人との夢の対局に向けて

 5月22日、あるニュースが舞い込んだ。羽生名人が「第2期 叡王戦」に参戦すると発表したのだ。人間とコンピュータの頂上決戦となる電王戦。そこに出場する人間側の代表を決めるのが叡王戦だ。そこで羽生名人が勝ち上がれば、ついに人工知能との対決が実現する。

 自ずとPonanzaの次なる目標は羽生名人との対局となる。そのためにはまず、Ponanza自身がコンピュータ代表の座を勝ち取らなければいけない。その条件は、2016年11月に開催される将棋電王トーナメントで優勝することだ。

 「ある意味、これまではここで優勝するための前哨戦に過ぎなかった」と語る須藤氏。そんなプレッシャーをかけられながらも、「羽生名人と戦えたら嬉しいですね。最初から戦いたかった」と闘志を燃やす山本氏。

 だが、将棋電王トーナメントに出場する他チームも容易ならざる相手だ。さまざまな将棋ソフトがエントリーする予定で、そのアプローチも探索をひたすら鍛えたり、プロ棋士の指し手をベースにさらに洗練させたり、Ponanzaとはまた違った方法で、プログラムを鍛えている。「そっちの一派も手強いんですよ」と山本氏。

 Ponanzaの強みは、人間にはおよそ検証しきれない膨大な探索を繰り返し、機械学習していることだ。考え得るすべての指し手を評価しているため、プロ棋士も知らないような手をたくさん知っている。なので「定跡」を軽々と飛び越えて、思わぬ手を指すことがあるという。「特に序盤に、意表をつくというか、未知の局面に持って行こうとするんですよね。未知の局面に入ってしまえば、プロ棋士やその考え方をベースにしている将棋ソフトは必ず戸惑うはずです。あまりに意外な手で、裏目に出てしまうこともありますが(笑)」(山本氏)

 この機械学習の蓄積は、Ponanzaならでは。そうそう簡単には真似できないという。ただ、羽生名人が参戦を決めたことで、コンピュータ将棋にも新たなプレイヤーが突如参入するかもしれない。たとえばGoogleなど。「そしたらびっくりですよね(笑)」(須藤氏)

 秋の将棋電王トーナメントに向けて、その先の羽生名人との対局を見据えて、Ponanzaは何をすべきか。「これまでやってきたのは強化学習というタイプの機械学習でしたが、それとは別にディープラーニングもやってみたいんですよね。囲碁では一般的になったんですが、盤面を一枚の画像として膨大に蓄積して、どんな画像(盤面)なら有利かを評価する方法です。それを機械学習に組み込んだら面白そうだなと考えています」(山本氏)

 正直なところ、現在のアプローチに少し行き詰まりも感じているという。計算資源をつぎ込んだ機械学習も繰り返すほどに効果が小さくなっていく。「雑巾を絞るように」とは言い得て妙だが、現在のアプローチを発展させるためには、さらに計算資源を増やして、探索深度を6手先からさらに深める必要がある。ただ、それで本当に効果が出るかは、やってみなければ分からないそうだ。3手先から6手先にして効果が出たからといって、8手先にしてさらに効果が出るとは一概には言えない、そんな奥深さが機械学習にはあるという。

 分かっていることは、少なくとも現時点までは、計算資源を増やすことで強くなることに成功していることだ。「とりあえず増やせば強くなる、というところまで将棋というゲームをプログラムに書き換えて、実証した。それが山本さんと下山さんの偉業ですよね。その道筋が見えていないといくら計算資源があってもダメだったと思います」(須藤氏)。現在のアプローチの先に壁があったとしても、この両名なら、驚くような一手で突破してくれることだろう。

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(提供:さくらインターネット)

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