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“泣かせて”売り込む動画キャンペーンの極意

2016年05月31日 11時00分更新

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YouTubeなどで感動的なエピソードや愛らしい動物の動画などがバズを起こしていることからもわかるように、心の琴線に触れるコンテンツはSNSでの拡散力もあり、その波及効果は決して侮れません。

先日、D2Cスマイルでも紹介した大手アパレルブランドC&Aのプロジェクト「CHANGING ROOM」が、2016年3月、タイのパタヤで開催されたアドフェスト2016のPROMO LOTUSでSILVERを受賞しました。この事例では、中国の山間部など貧困地域に住む子供たちへの共感や、サプライズによる“気づき”が人々の感動を呼びキャンペーンを広げるフックとなっています。

こうしたキャンペーンをより多くの人に届けるためには、どういったことに工夫をする必要があるのでしょうか。「共感」や「サプライズ」を効果的に用いられた事例を紹介しながら、そこに込められた企業メッセージや戦略性などを読み解いてみましょう。

本当に大切な存在は誰?
MasterFoods「Make Dinnertime Matter」

最初に紹介するのは、オーストラリアの食品会社であるMasterFoods社が展開したキャンペーン事例。同社はキャンペーンの一環として、複数の親子をアンケート調査に招待し、以下のような質問をしました。

「もし、あなたが生きている人でも亡くなった人でも、世界中の誰とでもディナーができるとしたら、誰を選びますか?」

思いがけない質問に、両親たちはジミ・ヘンドリックスやジャスティン・ビーバーといった、自分たちが好きな著名人たちの名前をあげていきます。しかし、同様の質問を子どもたちにしてみたところ、意外な答えが返ってきたのです。

「ママとパパがいい」

「有名人じゃなくてもいいんでしょ? じゃあ家族がいいよ」

この答えには別室で様子をうかがっていた両親も驚きを隠せません。「大切な存在とは誰か」を思わぬ形で子どもたちから教えられ、涙を流す人までいたほど。

このキャンペーンの様子を収録した動画は2016年2月に公開されましたが、4月30日の段階で150万回以上再生されるなど、大きな反響を呼ぶことに成功しました。

「親と子」「サプライズ」をキーワードにした動画プロモーションは非常に多く、感動を呼ぶとして話題となることも少なくありません。その中でこのキャンペーンが特筆すべき点は、オーストラリア人の食事に対する意識と企業メッセージを関連付けた戦略性だと考えられます。

MasterFoods社の調査によると、オーストラリア人が最も人とのふれあいを感じるのは食事の時間なのだとか。このキャンペーンは、「大切な存在とは誰か」という質問に視聴者がハッとさせられるのと同時に、そんな食事の場をよりよいものにしたいと考える同社の企業メッセージを表現するものでもあるのです。食事の場でふれあいを持つべきなのは「大切な家族」ではないかという普遍的なメッセージにつなげたからこそ、多くの人の共感を呼んだと言えるのではないでしょうか。

“売れ残り”のレッテルに立ち向かう中国の独身女性を応援するSK-II
「Marriage Market Takeover」

次に紹介するのは、「親と子」「サプライズ」をキーワードにしたキャンペーンでは、女性用スキンケアブランドSK-IIが中国で展開したキャンペーンも秀逸な事例です。

日本でもたびたびニュースになっていますが、中国には親が子どもの結婚相手を見つけるための「婚活マーケット」というものがあります。上海中心部にある人民公園には、収入や学歴、車や持ち家の有無といった婚活中の人々のプロフィールが掲示され、本人の代わりに結婚相手を見つけようと親が集まり、結婚相手の条件を真剣に吟味する姿が見られます。

このように、親が必死になって結婚相手を探そうとする背景には、「女性は結婚してこそ一人前」「20代半ばを過ぎて独身でいるのは売れ残り」といった意識が根強く残っているからなのだとか。

しかし、結婚をするかしないかは本人の価値観による問題であり、結婚しているから幸せ、そうでないから不幸せとは一概に言えることではありません。また、若年層の間では必ずしも結婚することを目標とはせず、キャリアや自分のライフスタイルを優先し、独身でも人生を楽しく生きるという考え方も浸透し始めています。

こうした考え方を持ち、「周囲のプレッシャーに惑わされず、自信をもって人生を歩みたい」と願う女性たちのためにSK-IIが展開したのが、キャンペーン「Marriage Market Takeover」です。

キャンペーンの場として選んだのは、婚活のために親たちが集まる人民公園。未婚女性たちの写真を展示し、そこに以下のようなメッセージを掲載しました。

「ただ、しなければいけないから、結婚するというのはいや。それでは私は幸せになれないから」

「たとえ独身でも私は幸せになれるし、自信を持って人生を歩んでいく」

人民公園に足を運んだ婚活中の両親は、娘たちの写真を見つけるとそのメッセージに心を揺さぶられます。中には、美しく自信に満ちあふれた我が子の表情に誇りを感じ、ひとりの人間として彼女の気持ちや生き方を尊重しようとする親も。

世界中の女性たちにエールを送るSK-IIの「#changedestiny -運命を変えよう」プロジェクトの一環であるこの動画は、自分の運命を切り開こうとする女性の気持ちに寄り添い、その生き方を応援しようとするもの。このキャンペーンの様子を収録した動画は、公開1か月ほどで200万回以上も再生されるなど、国境を超え多くの人々の共感を呼びました。

中国以外にも共感が広がったその背景には、親が子を想う気持ち、子が親に対して抱く気持ち、そのすれ違いといった誰しもが持っている経験が呼び起されたことにあるのではないでしょうか。

赤ちゃんへの想いに涙腺が崩壊!パンパース「キミにいちばん」

最後に紹介するのは、乳幼児用の紙おむつブランド、パンパースが2016年2月に公開したコンテンツです。この動画「キミにいちばん」は、赤ちゃんの肌のことを第一に考えてつくられた最高品質の紙おむつ「パンパースの肌へのいちばん」シリーズの発売を記念して制作されました。

動画の内容は眠たくてぐずってしまった赤ちゃんに、ママが子守唄を歌ってあげるというもの。しかし、その内容は「キミがすやすや眠るまで夜通し抱っこ」「幼いお姉ちゃんだって、お気に入りのオモチャを譲ってあげる」と、赤ちゃんへの愛にあふれています。

この動画は北米ではすでに2015年6月に公開されていましたが、公開後8か月の段階ですでに1700万回以上も再生。さらに、日本での公開に先駆けて動画を視聴したママの98%が「共感した」、86%が「感動した」と回答するなど、大きな話題となりました。

このコンテンツが、ここまで大きな反響を呼んだ理由はどこにあるのでしょうか?

乳幼児をもつ両親にとって子育ては一筋縄ではいかず、いつも大変な苦労を強いられるもの。しかし、その根底には「赤ちゃんはなにものにも変えがたい、世界で一番大切な存在」という意識があり、できる限りのことをしてあげたいという感情は、世界中の両親に共通した気持ちといえるでしょう。

しかしこの動画の注目すべき点は、パパやママだけではないところ。まだ小さいお姉ちゃんや年老いたおばあちゃんといった親戚家族にとどまらず、通りすがりのサラリーマンやガードマンなど、社会全体で赤ちゃんを見守ろうとする「優しさ」にあふれていたのが大きなポイント。

大きなサプライズではなくても、赤ちゃんを中心に広がっていく優しいつながりが、赤ちゃんを見守る存在への「気づき」となり、大きな共感を広げるキャンペーンとなったのです。

「感動」だけでは意味がない! 共感を広げるための本質とは―

人々の感動や共感を呼ぶコンテンツがもたらすマーケティング効果は、おそらく誰もが認めるところではあるものの、ただ単純に「ハートウオーミングウォーミング」なだけでは意味がありません

ご紹介した3つの事例に共通しているのは、どれも商品の特性やブランドイメージを超越した大きな企業メッセージを持っていることです。その大きな企業メッセージを身近な体験に落とし込むことで、人々の経験を呼び覚まし共感を呼んだと言えるでしょう。自分に似たような経験があるからこそ、他の誰かにも伝えたい。その伝えたい気持ちが、コンテンツを拡散する原動力となるのです。

一方で、共通経験の多い「親と子」というテーマについても採用する際には吟味する必要がありそうです。今回の事例に限らず「親と子」をテーマにした感動的な作品が多いのは事実ですが、感動を呼ぼうとして闇雲に「親子」を多用すると、恣意的なプロモーションになりかねません。気づきを呼び起こす「サプライズ」という手法も同様でしょう。

何よりも最初にメッセージがあり、それを具体的なユーザーの体験に置き換えて発信するからこそ、結果として共感や感動とともに企業メッセージが人々の意識に浸透し、高い効果をもたらすことができるのではないでしょうか。

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