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タイプフェイスデザイナー・両見英世さんに聞く

“横浜生まれ”の新フォント「濱明朝」ってどんな書体?

2016年04月07日 10時00分更新

小橋川誠己/Web Professional編集部

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濱明朝を使ったファサードを紹介する両見英世さん

「横浜の風景の一部となるようなフォントを作りたい。横浜の歴史やストーリーとともに、10年20年と長く使われて、暮らす人や訪れる人の記憶に残るものになれば」。

タイプフェイスデザイナーの両見英世さん(タイププロジェクト)が手がける「濱明朝」は、そんな思いを込めた新しいフォントだ。どこか懐かしさを感じさせるレトロな形と、モダンな雰囲気を兼ね備えた明朝体。濱明朝で打った文字を見ていると、横浜の街を訪れたときに感じる「美しさ」と「にぎやかさ」——赤レンガ倉庫やホテルニューグランドから、山下公園、中華街、ランドマークタワーまで、さまざまな景色が浮かんでくるから不思議だ。

濱明朝で組んだ文字は横浜の地名や名所にぴったりと似合う

両見さんが「濱明朝」を作り始めたのは、いまからさかのぼること7年前。自身が所属するフォントメーカー・タイププロジェクトの「都市フォント構想」の一環として始まった。都市フォント構想とは、都市が持っている個性や魅力を取り入れたフォントをデザインし、都市のブランディングを目指すプロジェクト。2008年に発表された名古屋の「金シャチフォント」に続く第2弾が、濱明朝だった。もともと千葉出身の両見さんが横浜の地を選んだのは、「多くのクリエイターが活動しているこの街なら、“できそう”な気がしたから」。当時、大船に住んでいたこともあり、横浜は休日に足を伸ばす街として身近な存在だったのも理由だという。

横浜にはインスピレーションを得られそうな景色があふれている

街を歩いたり、写真を撮ったりして、作りたいフォントのイメージを固めていく中で、両見さんはあるイベントへ参加する。横浜開港150周年を記念して2009年に開催された、「イマジン・ヨコハマ」という市民参加のイベントだ。横浜出身者や在住者など、老若男女さまざまな人たちが参加したこのイベントでは、テーブルに模造紙を敷いて、ペンで思い思いに書いていく「ワールドカフェ」 という手法で、「横浜の魅力」を議論。イベント後、模造紙に書き出された意見を見て、両見さんは濱明朝のコンセプトを「港の風景」に決めた。

「横浜といっても広い。海側ではなく丘側に住む人も多く、どこに焦点を当てようか、当時は迷っていたところもあって。でも、模造紙からキーワードを抽出していくと、海や港に関連するものが圧倒的に多かった。やはり港のイメージで行こう、と」。

タイププロジェクトのタイプフェイスデザイナー・両見英世さん。タイププロジェクトはAXIS Fontで知られるフォントメーカー。両見さんはWeb制作会社のデザイナーを経て、2007年に入社した

歴史ある港町には、重厚な明朝体が似合うと両見さんは言う。「長く使われるものにするには、普遍性がなければならない。まったくの奇抜なフォントではなく、長い歴史を積み重ねてきたものから外さないようにしようと思ったんです」。

そうして生まれた濱明朝は、伝統的な明朝体の形状をベースにしながらも、港町としての横浜の景色をちりばめたものになった。たとえば、横画の「打ち込み」は、洋上から見た氷川丸の船首のカーブを表現したもの。草かんむりの縦画では、みなとみらいの高層ビルや富士山の形状を描く、といった具合だ。

海上から見た横浜の景色が濱明朝の一部を構成している

「遠くから見ればただの街並の風景でも、近づくとディテールが見えてくる。たとえば、ただ単に建物があって、木があって……としか見えない風景でも、ぐっと近寄って行くと、木の種類や建物の素材がわかりますよね。引いたときと寄ったときとで、違った表情になる。そんな書体にしたかったんです」。

もう1つ、特徴的なのが、ギリギリまで細くしたという、横画の太さだ。1文字の升目の高さを1000とすると、一般的な明朝体の横画の太さは23〜24ほど。だが、濱明朝では10/1000という、一般的な明朝体の半分以下の太さにすることで、シャープですっきりとした印象に整え、横浜のモダンさや先進性を表現したという。

バリエーションの多さもユニークだ。縦画の太さ(ウェイト)は「EL(極細)」から「H(極太)」までの6種類。加えて、横画の太さも「キャプション」「テキスト」「ヘッドライン」「ディスプレイ」と用途ごとに4種類用意し、計24種類ものラインナップを予定している。街なかの看板なら「ディスプレイ」、名刺やショップカードなら「キャプション」といった具合に、広く使われることを想定した配慮がなされている。

一般的な縦画の太さ(ウェイト)だけでなく、横画の太さにもバリエーションがあり、多様な用途で使えるようになっている

デザイナー以外にも使ってもらえるフォントに

両見さんは現在、横浜市内のシェアオフィス「TENTO」に作業場を設け、濱明朝の制作に取り組んでいる。シェアオフィスに拠点を置くことで、地元クリエイターとの交流が生まれ、濱明朝は次第に市内へ根づきつつあるという。

馬車道150周年記念ロゴタイプのコンペでは、濱明朝を使ったロゴデザイン(デザイン=天野和俊デザイン事務所)が、最優秀賞を受賞。当初予定していたロゴだけでなく、馬車道商店街のCIフォントとして採用されることになり、名刺や封筒などが濱明朝で制作されることになった。また、市内にある大佛次郎記念館のサインボード(デザイン=NDCグラフィックス)への採用も決まった。

馬車道商店街のCIフォントとしても使われることが決まった
地元企業・エクスポートとのコラボで生まれたうちわ「浜風」は新たな横浜みやげとして市内で販売されている

完成している現在の文字数は、1500文字ほど。そこからフルセット(スタンダード版)の約9500文字を完成させるまで、両見さんの仕事はまだまだ続く。開発スピードを上げるため、今年1月から、クラウドファウンディングで支援を募ることにした。目標は300万円。開発資金の一部に充て、来年6月の完成を目指す。支援者には金額に応じて、濱明朝を使ったグッズやフォントなどを提供する予定だ。

だが、開発資金を得ること以上に、両見さんはクラウドファウンディングを通じて、いろんな人にフォント作りに関わってほしいのだという。

「これまでフォントは、デザイナーだけのものでした。でも、シェアオフィスに拠点を置き、クラウドファンディングを始めたら、工務店の大工さんのような異業種の人たちまで『このフォントを使ってみたい』と言ってくれるようになった。フォントはコミュニケーションツール。もっと普段の生活の中で使ってもらいたいんです」。

クラウドファウンディングの締め切りは4月10日まで。両見さんは、「多くの人に参加してもらい、自分が作ったフォントだよ、と言ってもらえたら」と話している。

両見英世さん。シェアオフィスに設けた作業場の前で。

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