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渡辺由美子の「誰がためにアニメは生まれる」 第42回

【前編】『KING OF PRISM by PrettyRhythm』西浩子プロデューサーインタビュー

社長に「1000人が10回観たくなる作品です」と訴えた――『キンプリ』西Pに訊く

2016年03月21日 15時00分更新

文● 渡辺由美子 編集●村山剛史/ASCII.jp

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(c) T-ARTS / syn Sophia / キングオブプリズム製作委員会

イベントの熱狂が社長を動かす
「1000人が10回観る作品を目指します」

―― つまり、積み上げられた数字の内実は、コアなファンが“何回も来てくれる”という状態だったのですね。

西 はい。「1000人が10回来てくれる」作品を目指そうと考えていました。自分のなかには葛藤もあるんです。矛盾しているのですが、お客さんに何回もお金を使わせたいわけではないので。あくまで「10回観たくなる作品」を作ることが目標でした。

 プリズム☆ツアーズに来ていたお客さんが「今日が32回目です」と言ってくださったり、「応援上映」の回に、男性キャラが登場すると女性のお客さんが「キャーー!」と大歓声になって、上映にも何回も足を運んでくださったりするのを見て、ファンの皆さんの熱量がこの作品を支えてくれているんだなと思いました。

 自分も好きな作品を映画館へ10回ぐらい見に行っていたので、熱量の高いファンの気持ちは理解しているつもりですし、その情熱を信じているところがあります。

 イベントには時々社長や副社長も来てくれたのですが、会場でのファンの盛り上がりを目の当たりにして「何か可能性があるから、やり方次第じゃないか」ってところまで理解してくださっていました。

 特に社長は個人的にも応援してくれて、ヒロが大好きで、会社で会う度に「ヒロ君、頑張れよ」みたいなことをいつも言ってくださいました。

―― 社長さんがファンになってくれた。

西 そうなんです。

 でも、それだけでは『キンプリ』の制作費は下りません。

 リピーターさんの力で数字を積み上げてはきたのですが、もうひとつのハードルがありました。

 “ファンの熱量をまだ知らない方々に魅力を伝える”というミッションです。

(c) T-ARTS / syn Sophia / キングオブプリズム製作委員会

ゴーサインを導き出した「無限ハグ」

西 これまでの数字だけでは、不安に感じる人もいらっしゃるので、この作品が面白くて可能性があるということを理解してほしかったんです。

―― なるほど。企業としては、制作費を出す以上、回収しないといけない。回収できる見込みがわからなければ制作費は出せない。“ファンの熱量を信じている”という西さんのスタンスと、“回収しないといけない”立場の方では、やはり距離がありそうですね。

西 はい。イベントの盛り上がりや熱量は肌で感じないと、やはり伝えるのが難しいですし、普段からアニメを観る人でないとなおさら理解できないのは無理もないと思っていました。

―― そんな方々の『大丈夫なのかな、本当に』という気持ちをどのように変えていきましたか?

西 会議はいつも重くなりがちで。たぶんどこの会社もそうだと思うんですけど。そこであえていつも空気を読まない脳天気なふりをしていました。

―― 脳天気なふり? 具体的には何をしていましたか?

西 会議の場で「見込み観客数が」という説明をする前に、笑顔で「とりあえず1回これ見てくださーい」とOver The Rainbowのプリズムショーのシーンを流すんですよ。

 そうしたら、画面にキスした、みんな裸になった、みたいな映像が流れてくる。そうすると、重たい会議室のあちこちから、クスクスクスと笑い声が起きてくる。

 まずは、この会議の場を少しでも明るい雰囲気にしたいなというところから始めました。そこから『ああ、楽しい作品なんだ』と応援してくださったらいいなという気持ちでした。

―― 会議の出席者の方々に“ファン”になってもらおうと。

西 はい。オタクによる布教活動ですね(笑) そうしてだんだん皆さんが『これ面白いんじゃないか』というふうに気持ちが動いてくださったのかと。制作費が通ったのは、こうした活動も要因のひとつだったら良いなと思っています。

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