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スタートアップと変わるレガシーな業界 松源×リレーションズ

地方スーパーに人工知能まで導入 異色の1to1マーケティングは成功するか

2016年02月18日 07時00分更新

文● 北島幹雄/大江戸スタートアップ 撮影●曽根田 元

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スーパーマーケット・松源の店舗(パレード泉佐野店)

 スタートアップが地方のスーパーマーケットとタッグを組んで開始したO2O(Online to Offline)の施策がいま進んでいる。

 最新のマーケティングツールを活用して、地方のスーパーとともに課題に向き合い現状を解決しようとしているのがスタートアップ企業のリレーションズ。業務のムダを省き効率化を進めるコンサルティングの役割を超えて、従来チラシだけしか持てなかったスーパーの売り方を変える取り組みを行っている。

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 別の記事では広島のスーパー・エブリイを取り上げたが、同様の仕組みでも別の面を持った取り組みがじつはある。和歌山に本拠を構えるスーパー・松源(マツゲン)でも、2015年夏からアプリを使ったO2Oマーケティングが3店舗で試験的に実施されていた。結果は、最初の3カ月で累計4,000ダウンロード。数字上の伸びは当初の目標想定を超えたものだったという。

松源アプリ

 現在も施策は継続しており、2月1日からは松源の全39店舗での展開が始まった。商圏としては一日平均で2,000名が来店している規模のため、担当者間ではアプリ上で合計100万PVの閲覧数も見えているという。

 しかし、リレーションズと松源の両社が目指しているのは、アプリ上の数字だけではない。松源が目標として掲げるのは、利用者一人ひとりの嗜好にあわせパーソナライズされたスーパーでのOne to Oneマーケティングだという。スマートフォンやポイントカードを取り巻くITでの進化・発展に合わせて、地方のスーパーがスタートアップとともに目論む新たな世界観について聞いてみた。

今、スーパーが求めているものは何か

松源名物となっている宮崎牛を使った弁当

 「マツゲン、マツゲン、み~んなのマツゲン」というCMソングを和歌山県人はみな知っているほどに、地元を代表するスーパーの1つが創業55年になる松源だ。

 和歌山県・大阪府を中心に店舗をかまえており、奈良県にも出店。年間売り上げは500億円規模の中堅スーパーマーケットだ。古い形式の店舗もあるが、現代風の対面販売コーナーや無人レジ、Edy導入のほか、コンビニエンスストアに対抗する形で公共料金の収納代行も行っている。

 「お客様のスタイルに合わせてやりたいことができるように、5~6年のペースで店舗は改装している。今重視しているのは、お客様と会話できる対面式の売り場。若いお客様へのアプローチはネットやスマホを使った流れがあるが、片や50代以上、特に60代・70代のお客様は従業員との会話が重視される」と語るのは、専務取締役営業本部長の桑原太郎氏。

松源専務取締役営業本部長の桑原太郎氏

 現代のスーパーでは、利用者に向けたサービスとして、コミュニケーションも必要になっている。店頭に並べられた食材をどのように使うのか、食べればいいのか、来店する人すべてがわかるわけではない。レシピを従業員が作り出し、客とともにコミュニケーションを行うサービスで成功を収めているスーパーもあるように、ただ美味しいものを並べれば売れる時代は過ぎ去っている。

 「そもそもスーパーは利用者に優しくできていなかった。メーカーの商品1つを見ても、何かしたら簡便・簡単に提供できるものに振っているが、必ずしもそれがおいしいかといえばそうではない。簡単な方も重要だが、料理で文化が豊かになる側面はある。たとえば親子の会話ができる環境など、大それた話だが、食を通じての貢献にスーパーは役割を担えるのでは」と桑原専務は語る。

 スーパーは今、過渡期にある。戦後にできた商店を発祥した創業50年~60年になるチェーンストアが多く、創業に関連した経営層もそのまま世代が上がってしまっている。過去の成功を引きずってしまって、なかなか変更できない、新たなことを聞き入れる許容がない経営者も多い。市場から仕入れて商品を売る、問屋から買って売るだけに凝り固まっている側面が残ってしまっている。

店頭での掲示コーナー。プレミアム商品券の告知のほか、アプリや収納代行の告知がある

 そのような中で松源が課題に挙げるのは、30代~40代のスーパーとしては若い利用者層との対話だ。松源の中心層の年齢は50代~70代。この先10年~20年経ったとき、今の30代から利用がなければ、そのときスーパーは利用されなくなる危機感が強くある。

 桑原専務によれば、創業50年を超えるスーパーが見てきたのは、「利用者ごとの食についての消費動向が30年前から変わっていない」ということだ。魚をかつて多く食べていた層は、そのまま年齢が上昇して70代になった。若いときに食べているものがそのままスライドするだけとすでにわかっているぶん、現在の30代にどうアピールできるかがチェーンストアにとって大きな課題となっている。

 自身も30代の桑原専務はこう語る。「自分のまわりはどうかといえば、妻はネットで商品を買うし、スマホで注文もする。だが、このような流れを駆使してやっているスーパーは全然ない。そのようなアピールの仕方での遅れを感じており、そういう点でリレーションズとともに取り組んでいる役割は大きい」

将来的な目標はチラシゼロ

 アプリでのO2O施策では、好調な推移を見せる試験導入時から、目標の閲覧数やダウンロード数を見て面白い結果なら全店導入と予定していたが、桑原専務としては全店導入をする前提でもともと進めていたものだった。

 松源とリレーションズのそもそもの出会いは、コスト改善でのリレーションズ側からの持ち掛けだ。そのような売り込みはスーパーには多いが、リレーションズと組んだのは「あれもこれも全部できますというものだった」という違いがあったためだった。

 経営目線に寄り添ったコスト改善から、結果以上の数字が出たことで信頼性が高まった。とはいえ、「今のスーパーはベンチャーが来ても普通に受けない。最初から自分が相手をしてつながったが、そもそも普通のスーパーでは受け入れられないだろう」と桑原専務。松源の場合、自身が会長の息子という跡継ぎの立場もあり、「(業態として)凝り固まっているなというのは感じて、改善したいと思っていたところだった」という。

 重視したのはダウンロード数と閲覧数(PV)だ。新聞投げ込みで家庭に配布しているチラシを、将来的にはゼロにするまで減らしていきたいというのが桑原専務の考えだ。「チラシは本当にお金がかかっているが、わかりやすい効果も見えなくなっている。すべてアプリでまかなうくらいの勢いにしたい」と意気込みを見せる。

 そもそもスマホによるO2O施策は、集客以上に「お客様に松源を知ってもらうためのツールとして活用」(桑原専務)という部分が大きい。「今の人は安いから買うではなく、ほしいから買う流れ。チラシの紙面には限界があり、その中からほしいものを提案するのは難しい。好みの多様化に対して、チラシ1枚あたりの効率化を求めると、アイテム数はどんどん増えて、見づらくなってくる。読んでいる方が高齢化しているのに、見た目はどんどんそぐわなくなる」

 現在、松源では1回約60万部のチラシを週3~4回で配布しているが、効果がなくなっているために回数も増えてコストが上がっている状態のようだ。結果はPOSでの大まかな変化を見るだけで、年間での億単位のコストの行き場はブラックボックスのままだ。チラシで見たい利用者層の高齢化が進む一方で、チラシでは届かない層へのアピールと、送るだけでない連携は、リレーションズと出会う以前から求められているものだった。

 好調な結果を出すアプリでの数字の一方で、3月頭にはパレード泉佐野店でスタートアップ企業・ABEJAの人工知能を活用した実証実験が開始する予定となっている。

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