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「原稿料30円」クラウドソーシングで働く人々

2016年02月10日 17時00分更新

文● 盛田 諒(Ryo Morita)

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 国内大手クラウドソーシングサービスには、100円単位で記事を書いてもらう「クリエイティブな仕事」がザラにある。

 内容は「人には言えない性体験」「笑顔が多くて面白い男性の魅力」「引越し一括見積もりサイトへの誘導を意識した文章」など、軽いタッチの原稿がほとんど。文字量は800~1200字と少ない分量ではない。

 わたしは出版業界に10年以上いて、原稿は数千円~数万円単位で受けてきた。わたしの経験と比較するなら、メディア側の出費は従来の1割以下でおさえられている。記事の掲載先は、たとえばオンラインメディアがある。

 クチコミサイトや話題系サイト。そういえばオウンドメディアをやっているという男性が「ぼくは1人でいくつのメディアを運営していて、記事はすべてクラウドソーシングでつくっています」と話す記事を読んだこともあった。

 誰がそんな安い原稿料の仕事を受けているのか。とあるクラウドソーシングに登録して、取材代わりに「300円」の仕事を依頼してみることにした。「自分の境遇を教えてほしい」という依頼を出したところ、2人が受けてくれた。

 初めは30代の女性、次が40代の女性。前者は「副業」、後者は「内職」として仕事を受けている人たちだ。ちょっと長いが、せっかくの「成果物」なので、ほぼそのまま掲載させていただくことにする。

Aさん(30代・女性)元アパレル、月収5万円で副業

社会人になって約10年、20代は東京と大阪で仕事(アパレル)に没頭していましたが、職場関係の悩み・失恋と重なり30代になって故郷の京都へ帰って来ました。
実家が経営している専門学校との提携話が出ており、今は交渉したり人事をしたりと事務全般をこなしています。
今の年収(額面)は約300万円、29歳のときよりも150万円近くの減少ですが、アパレル商社という華やかで支出の多い業界から学校法人事務という地味で支出の少ない業界への移行なので、実は毎月の貯金額が増えていました。
でも少子化や大手のオンライン授業の浸透で、今の収入が大幅に増えることはありません。
しかも私は経営者側の人間なので副業は許されない境遇です。
この現状では・・・と働き方に悩みネットで検索していると、youtubeで「ホリエモンチャンネル」で複数の仕事を持つという選択肢があることを知りました。そのまま検索を続けるとクラウドソーシングという存在にたどり着きました。
後から気づいたのですが、学生時代にファッション誌のライターをしていたので「まず書く、とにかく書く」ということに一定期間集中していた経験が生かされたことがスムーズに入り込んだ理由かもしれません。未経験の方でも「とにかく毎日書く、応募する」という繰り返しをすれば文章力は比例して上がります。1ヶ月目は光熱費くらい稼げばいい、2ヶ月目は交際費くらい、3ヶ月目は家賃の5万円、4ヶ月目からは毎月5万円以上継続して、とライティングで稼ぐことに欲が出てきました。僅か5万円と思っても、生活はガラっと変わります。一番大きかったのは、貯金ができない体質から、「変動額→一定額」と将来のことを考えての貯めグセがついたことでしょう。また複数の仕事を掛け持ちするので、一方の仕事で悩みがあっても、他方の仕事が待ち構えている状態になり、常に何かをしていたい性格の私には向いていたようです。今では案件が完成したら投稿する、承認・非承認の結果を確認するということが毎日の楽しみになりました。私がクラウドソーシングで手に入れたのは「自力の仕事→収入増→精神的余裕」です。やりくりをするのは必要ですが、現状にとらわれ過ぎずに自分の可能性を高めていきたいと思います。

Bさん(40代・女性)主婦が1本30~350円の「おこづかい」

クラウドソーシングを始めて3年半が経ちますが、現在の年収は50万円弱程度です。
始めたきっかけは、平日の昼間は時間を持て余していたので、それが収入に結びつかないか探していました。
私が得意とする仕事は、商品説明やレビュー、ブログをライティングすることです。
仕事の単価は幅があり、1件30円の仕事から350円くらいです。
自分の生活スタイルに合わせて働くことが出来るのが最大のメリットだと感じています。
しかし、不満に感じることもあります。
それは、私に合った仕事がいつも大量にあるわけではないので、その日によって収入にばらつきがあることです。
私専用に仕事が確保されていれば安心ですが、早い者勝ちなので油断していられません。
私の収入は普段のお小遣いとして使っています。
この収入をメインにしているわけではないので、特に苦しい境遇になることはありません。
毎日、10時から16時までの時間を仕事にあてて、あとは家事や子供の塾の送り迎えなどをしています。
今後の目標としては、レベルアップをして多くの信用を得たいと考えています。
将来もこのスタイルで続けていきたいと考えています。

 2人とも地方在住で境遇もそれなりに安定している人々。副業、おこづかい稼ぎにやっていますよというお話だ。「単価は30円」などとさらりと言えてしまうのも、とくに生活がひっ迫しているわけではないからだろう。

 しかし、どうにも違和感がある。あまりにもビジネスとしてのバランスが悪い。今後この単価にひっぱられて原稿料の単価が引き下げられていけば、必然的に質も下がり、今までのメディアとはまるで別物になってしまう。

 それも時代の流れだと言われるかもしれないが、本当にそんなことでいいのだろうか。クラウドソーシング業界の関係者に話を聞いてみたところ「日本のクラウドソーシングがおかしいんだ」という返事があった。

 海外のクラウドソーシングでは本当に実力のあるフリーランスがプロとしてどんどん高給取りになっている。なのに日本では人材が安く買いたたかれる一方で、フリーランスの立場がどんどん悪くなっているじゃないか、というのだ。

 もちろん日本でも実力のあるフリーランスは育っているのかもしれない。しかし人月計算というか、プロジェクトいくらで単価をたたき、素人同然のフリーランスに仕事をあげさせるやり方がつづいているかぎり、メディアの質は下がっていき、業界から人が離れていってしまうのではないかという危機感がぬぐえない。

 新しい時代であっても、才気ある人々をしっかり育て、適正な対価を支払い、ともに1つの時代をつくろうとするのがメディアの姿であってほしい。


盛田 諒(Ryo Morita)

1983年生まれ、記者自由型。好きなものは新しいもの、美しい人。腕時計「Knot」ヒットの火つけ役。一緒にいいことしましょう。Facebookでおたより募集中

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