感動を提案するのがソニーのDNA
そして、もうひとつの象徴的な展示が、SAP(Seed Acceleration Program)である。
SAPは、平井社長が肝いりで進めている新規事業創出プログラムで、従来の組織、事業体系の枠を超えた商品や、事業の創出を支援、育成することを目的としている。
今回のCES 2016では、様々な機能を持つタグを組み合わせることで製品を発明できるスマートDIYキット「MESH」、文字盤やバンド部分までデザインを変更することができる「FES Watch」、電子ペーパーを用いて、多数の家電をシンプルに操作できる新たなリモコン「HUIS REMOTE CONTROLLER」、5種類の香りを持ち運んで、どこでも香りを楽しむことができるアロマディフューザーの「AROMASTIC」などのSAPでの成果を展示。来場者からの注目を集めていた。
平井社長は、「2014年4月~2015年9月までに、5回のオーディションを行ない、約500件、合計1300人の社員が応募した。第1回目、第2回目の審査に落選した人たちが、再チャレンジするといったことも出ており、SAPに対する社内での注目度はますます高まっている」とする。
また、「こうしたものを始めると、多くの場合は、『また経営層がお祭り騒ぎをやっている。3ヵ月もすれば忘れられてしまうだろう』ということになりがちだが、私は頑固おやじ(笑)。やると決めたら最後までやる。SAPを通じて、これまでにはない商品が出てきたり、新たなビジネスを立ち上げたりといった成果につながっている」と語る。
そして、「今年も、いいところまできているいくつかの商品がある。時期を見計らって紹介したい」と自信をみせる。
このSAPの展示は、コンシューマ領域へのコミットとともに、ソニーの変化を示すメッセージにもなっていると平井社長は位置づける。
「発表内容は小粒かもしれないが、いままでのソニーにはなかったようなもの、やらなかったものを出している。ソニーという会社は、こういうことをやる会社であるという点を、今回のCESで見せられた」。
先にも触れたように、CES全体をみると、BtoBへとシフトしていることを感じる。だが、そのなかで、ソニーは、コンシューマにフォーカスした展示を行なった。
平井社長は、「それはまだコンシューマでもイノベーションが続くことを示すものであり、コンシューマにイノベーションがないという見方は間違いである。感動を提案するために、やることはまだまだある。そこにソニーのDNAがある」とし、「ソニーは、映像、音のすばらしさや、便利さを体感していただける、感動の製品を投入するために、これからもイノベーションを積極的に推し進め、それを商品化していくことに対して、リスクをとって取り組んでいく」とする。
コンシューマ市場に対するソニーの決意を改めて感じることができたCES 2016のソニーブースだったといえそうだ。
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