図書館業界の今後について
同社の根底にあるのは「もっと図書館を使ってほしい」という思いだ。同時に「図書館は教育施設」という意識を大切にしているという。
神奈川県海老名市の図書館を共同運営するCCCとは、CCC独自の図書分類(ライフスタイル分類)をはじめとした考え方が折り合わず、一時「関係解消」報道にまで発展した。その後、「指定管理者としての責任を果たすため」、海老名市での協業関係は継続されると報じられたが、尾園氏によれば、あの一件は、TRCにとっても改めて多くのことを考えるきっかけになったという。
「CCCさんとは色々ありましたが、“新しい図書館”のケースを示したことは評価しています。逆に当社は“これまで通りの図書館”を作ることにこだわりすぎていたのかもしれない。もちろん、それは自治体の要望に沿ったものだったのですが、もうちょっと民間企業として新しい視点からの提案もできたのかもしれない、と。“図書館は教育施設”、その点は外せないのですが、それでも新しい利用者を増やす新しい仕掛けをもっと考えてもよかったのではないかと、(佐賀県の)武雄市図書館ができたときにすごく考えたんです」(尾園氏)
図書館は利用者あってこそだ。
「時代の流れもあるのですが、地方も税金が減れば、図書館予算も減ってしまう。図書館自体を先細りさせないためには、図書館で生活が便利になったという声をつくる必要があります。その声が議員の耳に届けば予算も増えて、図書館がもっと良くなって、さらに生活に役立つという声が増えていく。そんな好循環が作りたいですね」(同氏)
そのためにハードルがあるとしたら――?
「地道にやっていくしかないですよね。図書館の民営化には今でも反対が根強いですが、私たちは民間が入ることで切磋琢磨して、競争原理によって図書館がより良いものになっていければ良いと考えています。実際、全国の受託運営館の館長インタビューを行うと、地方にはいい事例が沢山あるんですよ。例えば、苫小牧市では、指定管理者制度を入れることで経費削減した分、資料費が倍増した例があります。そういう例が実際に出ているので、それを他自治体に紹介したり。色々なところに工夫の余地があると思っています」(同氏)
また「自治体直営の図書館も良くなっていっています。武蔵野プレイスはおしゃれと話題ですし、岩手県紫波町のように図書館を中心にまちづくりをした例もあります。当社としては、直営でも民営でもどちらでもよくて、とにかく図書館が良くなっていってほしいのです」と語る。
図書館はいま、「TSUTAYA図書館」といった運営の話も含め、ICT化や新しい空間演出、保育サービスの融合など変化の最中にある。愛知県のおおぶ文化交流の杜図書館のように、全自動貸出・返却機や予約棚が整備され、セルフ貸出率が90%を超えるような図書館も登場している。
改めて地元の図書館に足を運び、見つめ直してみるのも面白いかもしれない。
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