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仕掛け人の田鹿倫基マーケティング専門官に聞く

企業コラボでPR、宮崎・日南市のユニークな地域活性術

2016年01月22日 09時00分更新

文● 川島弘之/TECH.ASCII.jp

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 地方創生に向けて、宮崎県日南市が活発だ。ITベンチャーとも手を組みながら、名産物の開発、6次産業化、観光PR、企業・起業家の誘致などにおいて、ユニークな施策を積極的に展開している。

 そこにある狙いとは――? 仕掛け人の日南市 商工政策課 マーケティング推進室 マーケティング専門官の田鹿倫基氏に地域活性術を聞く。

田鹿倫基氏

さまざまなマーケティング施策

 宮崎県の南部にある日南市は、城下町の飫肥(おび)や漁師町の油津(あぶらつ)を中心に栄えた。歴史や文化が色濃く残り、特産の飫肥杉をはじめ、観光資源にも恵まれている。

 「人づくりこそがまちづくり」と考える同市では、「創客創人(そうきゃくそうじん)」というコンセプトを策定。既存の資源から価値を見出し、「新しい需要=客」を創り、その客に価値を提供できる人を育てる。そんな考えで、さまざまな事業に取り組んでいる。

 日南市の市政に田鹿氏が加わったのは、2013年8月から。同氏は、2009年に宮崎大学を卒業し、リクルート、中国のWeb広告会社で勤めた後、2013年に当時33歳の若さで日南市長に就任した﨑田恭平氏に誘われ、マーケティング専門官に着任した。

 担当するのは、観光商品開発、広告・宣伝・販促、企業・起業家の誘致などマーケティング全般で、これまでに取り組んだ施策は非常に多岐にわたる。

 

 例えば、観光商品・体験を売買できるWebサイト「TRIP」に日南市の体験型観光ページを作成したり、クラウドファンディング「FAAVO」で資金調達し、ニューヨークのギフトショーに飫肥杉工芸品を出展したり――。

FAAVOで資金調達し、ニューヨークのギフトショーに飫肥杉工芸品を出展

 広告・宣伝・販促活動では、JALとFacebookによる観光PRを展開。ファン数100万人を超えるページで日南市の観光情報を投稿し、外国人からも反響を得た。また、日南市のゆるキャラをLINEスタンプ化して、ダウンロードによる観光協の自主財源の確保にも成功。スペースの貸し借りサービス「SPACEMARKET」では、市長室を貸し出すなどのユニークな施策も行った。

日南市のゆるキャラをLINEスタンプ化

 ネット販売事業では、リクルートライフスタイルが運営するショッピングモール「ポンパレモール」に行政として初めて出店。特産品の6次産業化として、地元の食・観光メディア「in SEASON」とともに甘酒の商品開発や、宮崎で食品製造・販売・レストラン運営を行う「ラディッシュセブン」と日南赤豚を一頭まるごと食べる会など、さまざまな企画を実現させている。

「in SEASON」とともに甘酒を商品開発
「ラディッシュセブン」と赤豚を一頭まるごと食べる会を開催ほかにも「クラウドワークス」と協力してカツオ船の独自ブランド化を促進

「日南市はコラボしやすい」イメージ促進へ

 これらは一例だが、印象的なのは、さまざまなスタートアップ企業と連携しているところだ。日南市ではFacebookでアイデアを出し、24時間以内に懸念のコメントが付かなければ採用されるなど、物事がどんどん進んでいく。そのスピード感がスタートアップと相性がいいのだという。

 活動の根底にあるのは「市外からの外貨獲得」だ。その手段としては「観光客を呼びこむ」「作ったものを市外へ売る」「ふるさと納税」「企業誘致」の4つが考えられる。それを踏まえて「企業に日南市はコラボしやすいと思ってもらう」「共同プロジェクトを通じて関係を作る」「企業誘致などの実際のアクションにつなげる」という3ステップで基本方針を描いている。

 コラボしやすいイメージの促進には、「ボケて(bokete)」と連携し、日南市にまつわる「お題写真」に一言でボケてもらう企画「日南市でbokete!!」を実施。1カ月で4500件ものボケ投稿が集まった。

 一方で「何をしているのか」というお叱りもあったという。ただ、そういうツッコミがあってこそだと田鹿氏は考える。「今までのやり方を変えようとするとき、まったく批判がないことをやっても変えられません。実際、これを機に、他の自治体ではできない企画が自然と日南市に集まるようになりました」(田鹿氏)。

「日南市でbokete!!」を企画

自治体はWantedlyを使おう!

 田鹿氏の愛用するツールに、ソーシャルリクルーティングツールの「Wantedly」がある。

 氏によれば、役所は安定した職業としてこれまで応募者の確保に困らなかったため、採用は積極的に打ち出していなかった傾向がある。また、ハローワークがほぼ唯一の採用手段で、地元の人が主な対象となる。地域活性化には外部の視点が欠かせない。Wantedlyは地域の枠を超えて人材を雇うにの最適だそうだ。

 初めてWantedlyを活用した「日南市事業雇用創出プロジェクト会議」では、70名程度の応募から最終的に2名を市外から採用できた。その2名が中心となって進めたのが、「パン焼き名人のパン焼き講座」や「アカウミガメの孵化・放流観察会」などの体験型観光開発などだ。「パン焼き名人など、全国どこにでもいそうな人が、実は観光客を呼びこむフックになる」と田鹿氏。まだ地元の参加者がほとんどだが、市外や県外へ広げるべく取り組まれている。

アカウミガメの孵化・放流観察会(日南市雇用創出プロジェクト会議 Facebookページより)

 このほかにも、Wantedlyは2件のプロジェクトで利用された。特筆すべきは、行政としてソーシャルリクルーティングを活用するのは全国的にも珍しいということだ。メッセージ機能「Sync」で、過去の求職者や日南市のプロジェクトを「応援」してくれる人と、継続的なコミュニケーションにも役立っているという。

 自治体の求人情報が埋もれてしまっているのは、以前から指摘されている問題。Wantedlyはその掘り起こしに効果があるほか、「全国のこんな仕事・こんな場所で働きたいという“志向性”を基準にマッチングするため、特に地域の仕事と相性がいい」と田鹿氏。地方が欲するのは一般的に若者だが、Wantedlyのメインユーザーもちょうど25~34歳だという。そのため、「自治体は絶対にWantedlyを使うべき」とオススメしている。

Wantedlyで人材を採用した。利用者数3000社突破記念として他の利用企業と音楽に乗せてダンスを踊るリレー動画も作成された

「クラウドソーシングで月収20万円」進捗は?

 日南市でもう1つ話題となったのが、クラウドソーシングで月収20万円の主婦ワーカーを育成するプロジェクト。公募で選ばれた主婦3名を自治体、企業、地元メディアが支援しながら、1年ほどかけて自力で20万円を稼げるように育成する。地方に仕事を創出できるか、クラウドソーシングの可能性を実証する先進的な取り組みといえる。その進捗はというと――

クラウドソーシングで月収20万円の主婦ワーカーを育成するプロジェクト

 「なかなか難しいですね…」と、田鹿氏は苦笑する。主にライティング業務に取り組んでいるが「よくて5万円という状況」だそうだ。クラウドソーシングが地方の新たな仕事として確立されるのは、まだ先の話ということか。「ただ、これには続きがあって」と田鹿氏。

 どうやら、日南市に新たに拠点を作る、複数のWEBメディアを運営するIT企業「ポート株式会社」が、主婦ライターを採用するという方向で話が進んでいるそうだ。「その判断には、元々クラウドソーシングに取り組んでいたことも無関係ではありません。ライティングができる人材が多いことが日南進出に追い風となった。そういう意味では『月収20万円を達成した』と言えなくもないかもしれません(笑)」(田鹿氏)

 地方創生では「まずやってみる」ことが重要で、思惑通りではなくても何かしらの化学変化が起こったりする。これもそんな一例といえそうだ。

企業・起業家の誘致を広げるために

 企業・起業家誘致については、6社の本社移転・サテライトオフィス設立と2社の観光関連企業の起業が進んでいるという。2016年1月には調印式を行い、4月から順次業務も始まる。日南市側も油津赤レンガ館のコワーキングスペースやインキュベーション施設を開設するなど、遊休施設のビジネス再利用を進めてきたが、その努力が実を結びつつあるようだ。

油津赤レンガ館をコワーキングスペースにインキュベーション施設も開設

 とはいえ、難しい局面がなかったわけではない。課題はやはり「人材不足」だ。地方に進出する企業にとって最大の懸念が「そこで人が採用できるのか」。今回の企業誘致もそこが最後まで足かせになった。結局は日南市がクラウドソーシングやWantedlyを利用し、UIターンの実績をあげていたことが後押しとなったという。自治体から企業への支援も欠かせない。「それこそWantedlyの募集要項の書き方をサポートするくらいのレベルで考えています」(田鹿氏)

 今後、企業誘致をさらに進めるためには――?

 「進出企業のまわりにネットワークを作りたいですね。東京から日南市に転勤される方からすれば、やっぱり心細さがあると思います。他社の同じような立場の方や、地元の交流を深めるような、そんな機会を作ることが大事だと思います」(田鹿氏)

 特に地元との交流が重要だとされる。それに対して日南市では「パーティを開催して交流を図っています」と田鹿氏は語る。「日南市の食材だけを作った直径1mの『日南パエリア』を作って、移住者と地元の人とみんなで食べる。ぜひ、『日南パエリア』で検索してみてほしいのですが、これがおいしくて。みんなで混ぜながら食べるので絶対仲良くなれますし」と微笑む。

日南パエリア

 2013年に日南市のマーケティング専門官に着任してから、さまざまな施策に取り組んできた田鹿氏だが、2017年春に任期満了を迎える。その集大成となる今年は企業・起業家誘致へのラストスパートとなる1年だ。経済効果などの定量的な目標に加え、今後の目標として掲げるのが、2020年までに700人の雇用を創出すること。

 そのためには、企業・起業家誘致とともに、人手不足の解消が求められる。「地方には仕事がないとよく言われますが、それは一昔前。今は仕事がたくさんあって人手が足りない状況です。例えば、移住についても手に職がなくて食べていけるか不安という声もありますが、大丈夫、仕事はなんでもあります。逆に地方で“あなた”の存在重要性は非常に高く、重宝されると思います。孫へのプレゼントをネットで買えるだけでもおばあちゃん、おじいちゃんから重宝されると思いますよ(笑)」

 田鹿氏の話を聞いて、地方にも工夫次第でできることはまだ多いと感じられた。

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