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編集者の眼第63回

広告代理店がBIを使う理由をアタラ杉原さんに聞いた

2015年12月24日 13時00分更新

文●中野克平/Web Professional編集部

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広告代理店がBIツールを使いこなしていると聞いてちょっと驚いた。BIツールは経営戦略的な人が使うモノで、代理店は営業が体育会系的にがんばり、バックヤードはExcelでがんばっているんだろう、と10年前と同じイメージを抱いていたからだ。TableauやQlikView、Domoなど、BIツールの違いや使い方を研究して知った発見だった。素直に不勉強を恥じる体験だった。

ただ、どうして代理店がBIツールを使いこなすようになったのかが腑に落ちなかった。誰に聞けばいいだろうかと考えて頼ったのが、以前『リスティング広告 プロの思考回路』を執筆していただいたアタラの杉原剛さんだ。端的に言えば「AdWordsだけで46もレポートがあり、レポートに含まれる指標の数も増えたから」だという。

とはいえ私の偏見も大間違いなのではなく、以前はインプレッション数、CPM、広告費といった基本的な数字をExcelで管理していたのだ。しかし2014年ころからシェア数や動画視聴率、再生時間の割合(25%までの再生が何%だったなど)、再生時の操作をエンゲージとみなしてアクション率を算出するなど、広告手法が増えて指標もどんどん増え、BIツールに案件や顧客をまたいで、キーワードや運用成績のデータを突っ込まないと管理が難しくなってきたそうだ。ただし広告主への報告や提案のロジックは大きく変わらない。どの手法のCPMがいくつでCPCがこうだから予算配分を変えましょうとか、前回のキャンペーンサイトにアクセスした人が何人いるからここにリタゲ広告を打ちましょうとか、TwitterはCPCが悪化しているからInstagramを試してみませんか、みたいに、広告の手法とターゲットとの相性と実績の組み合わせが増えて、Excelの表ではどうにもならなくなった。アカウント数(≒広告主)は、大きな代理店では1万数千、中堅でも500以上あり、アカウントごとにExcelファイルで管理しても、だいたい数十万行を超えると動作が遅くなり使い物にならなくなるという。

アタラは「glu(グルー)」というレポート作成支援ツールを提供していて、各種ツールのAPI経由でデータを入力し、gluで集計した結果をレポートとして出力できる。11月からは人間が読むレポートではなく、BIツールに取り込める形で出力する機能が加わった。定型レポートは、定点観測はできても新たな知見を得るような用途には不向きだ。「アドホックな、その場で仮説を立てて分析するようなニーズが出てきたことに対応した」という。

Excelでも分析はできるが、ピボットテーブルを使っても現実的には2軸グラフが限界。その点、TableauのようなBIツールは膨大な量のデータを好きなようにいじり回せるし、グラフの数もずっと多い。もっとも「BIツールにはそれぞれ癖があるし、好奇心がないと使いこなせない。分析のための分析になってしまっては無意味で、アクショナブルでないといけない」というのはもっともだ。いいグラフは、グラフそのものが問題の所在を語り出し、解決策まで示唆してくれる。取りあえずグラフを付けてレポートの枚数を稼ぐようなやり方では広告の運用ができるはずがない。

さらに、広告の各種指標をBIツールに突っ込むと、アカウントをまたいで分析できるのもメリットだそうだ。たとえば、キーワード広告のパフォーマンスを業界ごとに集計すれば、この時期にはこのキーワードのコンバージョン数が増えるなど、キーワード広告を俯瞰して分析できるようになる。既存客はもちろん、新規の広告主への提案にも使える。Excelで顧客ごとのファイルを作っているうちは、こういう視点には立ちたくても立てない。

BIツールを使うとお客さんが増えるのも広告代理店のメリットだという。「gluを導入した会社はだいたいアカウント数が増える。営業ががんばっても分析担当が追いつかなければ新規開拓ができない。gluとBIツールを組み合わせればアルバイトのExcel操作にあるミスはなくなるし、効率が高くなるので分析担当者の手が空く。空いた分に新規客の仕事ができるようになるから、アカウント数が増える」のだそうだ。しかもBIツールでレポートの数が増えれば広告主の満足度も高まる。「こういうレポートをどうして作ってくれなかったんだ」と言われることもあるという。

BIツールの名前で調べると経営指標をビジュアライズして、という類いのLPに行き着くことが多いが、実際にBIツールで指標を分析し、PDCAを回し始めたのは広告代理店だった、ということの背景を杉原さんに教えてもらった。とても腑に落ちる話だった。

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