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『角川インターネット講座』(全15巻)応援企画 第11回

第14巻『コンピューターがネットと出会ったら』監修者インタビュー

夢を叶えるには現実を見よ TRONプロジェクト坂村健博士かく語りき

2015年12月12日 18時00分更新

文● 盛田諒、小林久 写真●Yusuke Homma(カラリスト:芳田賢明) 編集●村山剛史/ASCII.jp

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 「夢を見るなら10年先なんて考えてもダメ。30年先をやらないと

 東京大学大学院情報学環教授の坂村健博士はそう言い、豪快に笑った。

 書籍シリーズ「角川インターネット講座」では『コンピューターがネットと出会ったら モノとモノがつながりあう世界へ』の監修を務めた坂村博士。日本発の技術プロジェクト「TRONプロジェクト」発起人として知られている。

 TRONプロジェクトは、世界のあらゆるモノ、場所にコンピューターを組み込もうという、当時としては途方もないプロジェクト。今となってはInternet of Things、モノのインターネットという言葉で説明するほうがわかりやすいのかもしれない。

 TRONプロジェクトが始まったのは1984年、坂村博士が35歳のとき。以来坂村博士は30年間にわたり、技術の標準化競争を続けてきた。パソコンやサーバーではマイクロソフトに軍配が上がったが、組込OSではTRONに軍配が上がった。「ITRON」は組み込みOSの世界標準化に成功している。

 コンピューターは必ず社会に必要不可欠なインフラになる。まだインターネットの概念が一般に浸透していない時代から、それだけを信じて戦い続けてきた。失敗や挫折にもめげず1つの夢を追い続けた坂村博士に、人生のアドバイスをもらう。

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30代は夢を見るのにちょうどいい

── 「角川インターネット講座」の読者はいま30代の青年たちです。先生が35歳だった頃は何をされていましたか。

坂村健……東京大学大学院情報学環教授、ユビキタス情報社会基盤研究センター長。工学博士。1984年からオープンなコンピューターアーキテクチャー「TRON」を構築。携帯電話、家電、デジタル機器、自動車、宇宙機などの組込みOSとして世界中で多数使われている

坂村 35歳は東大理学部の助教授ですよ。TRONプロジェクトを始めたのが1984年だからちょうどそのくらいです。

── いまも当時の思いは根底にありますか。

坂村 もちろんです。一貫してブレずに30年間やってきました。むしろ、当時考えてたことがようやく実現できるようになったのがいまです。30代の頃はいまよりはるかに元気だけど、思いついたからってすぐできるわけじゃありません。とくにインフラ系の仕事は時間がかかる。誰がやろうと、どうやろうと時間がかかります。

 アプリの世界なら、数年で世界制覇、という話もあり得るかもしれない。でもコンピューターはレイヤーが下に近いほど時間が必要です。

── 世界中の人々が当たり前に使えるようにするわけですからね……。

坂村 インターネットだって、最初は*ロバート・カーンという人物から始まっています。アーパネット(ARPANET)のときからやっていて、もう76歳ですよ。インターネットも、上手くいくようになったのはずいぶん時間がかかってるわけですし。
※ヴィント・サーフと一緒にTCP/IPのプロトコルを開発した人物。

── TRONを作ろうとしたときはどんなことを考えていたんですか。

坂村 僕らはマイコン関係の仕事をしていたから、あらゆるモノがマイコンでコントロールできるようになるだろうとか、最終的にネットワークでつながるだろうとか。まだ当時のインターネットは機械をつなぐためのネットではなかったけど、将来はインターネットにそういうものがつながるんじゃないかとね。

── 先生は今年、「ITU150周年賞」を受賞されましたが、いま話題になっているIoTに近い概念を1980年代から考えていたことになりますね。

坂村 IoTという言葉は僕が作ったわけじゃなくて、ケヴィン・アシュトンさんというセールスマンですからね。だいたいそんなしゃれた言葉をエンジニアやサイエンティストが思いつくわけがないですよ。

 いまでは論文とかでも使われるけど、もとはマーケティングから出てきた言葉です。大事なのは言葉を作ったのは誰かじゃなく、コンセプトを作ったのが誰かということでしょう。私は1984年から考えていたのですから。

 1980年代の前半、まだモノの中にコンピューターは入ってなかったし、いわんやネットワークにつながることもなかったけど、だからこそ『将来そういう時代が来るんじゃないか』とか『すごいことが起きそうだ』と夢を見て、論文を書き、本を書き、その仕事に力を入れていこうと思ったわけですよ。

今年、坂村博士はビル·ゲイツ氏らとともに、国際電気通信連合(ITU)150周年賞を受賞。受賞理由はユビキタスコンピューティングのためにTRONオープンコンピュータ・システム・アーキテクチャを設計したことによるIoT時代を先取りした取り組みが評価された

── くりかえしになりますが、当時の坂村教授は30代ですよね? 30代は夢を見るのにいい年齢ということですか。

坂村 30代の人は、まだ『明日死んじゃうかも』とは思わないでしょ。だから夢を見ていくようなことをやるほうが30代はいいんじゃないのかと思います。

 逆に、それより若いと知恵もついてないから考える力が足りない。子供に夢は何かと聞いても「宇宙飛行士」「電車の運転手」だけしか言えないでしょう。実際に電車の運転手になってどうしたいのかまでは言えない。

 でも、その後は知恵がついてくるから、具体的なことが言えるようになる。「電車の運転手」なら鉄道の未来を語れるようになるかもしれない。それを小学生や10代の子に言えといっても難しい。

 ただし30代は勉強しないとダメですよ。まずはこれ読んだら?(「角川インターネット講座」を手にとって)いい本があるよ!(笑)

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(次ページでは、「夢を見ながら、現実を見なさい」)

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