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VRまつり 2015 秋 Powered by G-Tune

水島精二監督「見たらケガするアニメ撮ってみたい」

2015年11月24日 19時00分更新

文● 盛田 諒(Ryo Morita)

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「なんでオレ筋肉痛になってるんだろう、と」

 人気アニメ「鋼の錬金術師」「機動戦士ガンダム00」を手がけた水島精二監督が、そう言って観客を笑わせた。監督は先日、バーチャルリアリティ(VR)を使ったアニメやデモを体験したばかりだった。

 監督が登場したのはPANORAが11月22日に開催したイベント「VRまつり 2015 秋 Powered by G-Tune」。デジタルハリウッド大学の福岡俊弘教授(週刊アスキー元創刊編集長)との対談で、実体験したばかりのVRの驚きを語った。

 筋肉痛になったというのは、エピック・ゲームズによる、激しい銃撃戦のVRグラフィック「バレット・トレイン」(BULLET TRAIN)。

「テロリストが前面にあらわれたとき、腰が引けたりかがんだり普通にしていた。どう見てもCGのキャラクターなんだけど、その場にいる感じが体感できて、『これこえーっ』と思いながら」(水島監督)


 水島監督は「(Oculusを)はずしたあともバーチャルな気がして、クルマにひかれて事故死みたいなマンガみたいなこともありそう」と冗談を言う。実際にOculus Touchのデモ『ToyBox』体験中に転んでしまったらしい。

「そこにないテーブルに手をつこうとして転ぶっていうほんとにマンガみたいなことが起こったんで『ありえる』と思ったんですよ」(同)

 福岡教授と水島監督は「VRで骨折っていうのがリアルにありそう」「VRの中で骨折したわけじゃないけどね」とコメント。さらにその後、「『VR保険』ってのがいいんじゃないか」と福岡教授は冗談を言っていたけど、あながち冗談でもなさそう……。

VRアニメは「お金次第」

 対談の中、福岡教授はOculus VRのGOROman氏と「ピストルを撃ち合うVRゲーム」を体験した話から、「ソードアート・オンライン」に登場したゲームの世界は「もう来年にも実現してもおかしくない」と予想していた。

 水島監督も「それは思いましたね」と賛同。

「キャラクター(造形)とかは技術が進んできてるから、あの空間の中に置いて連動することはそんなに時間がかからない気がする。ゲームの延長としての表現ということなら、ぜんぜん楽しめちゃうんじゃないかな」(水島監督)

 VR短編アニメ『ヘンリー』の話題になり、福岡教授から「(VR向けの短編アニメを)作ってくださいと言われたら?」と聞かれた水島監督は「ヘンリーくらいの尺だったらやれるんじゃないかな」と期待をもたせるような返答。

アニメ映画「ヘンリー」を見る水島監督。写真は、主人公のハリネズミをガン無視して部屋の中を「どこまで作りこんであるのかなー」と探りまわっているところ

 福岡教授が「お金次第?」と現実的すぎるつっこみを入れると「お金次第じゃないですか」とあっさり。というのも3Dグラフィックが中心になるCGアニメの場合、予算とスケジュールがものすごく大きな制約になるためだ。

 実際アニメ映画「楽園追放-Expelled from Paradise-」でも、予算に限りがある中での工夫があったそうだ。

「びっくりするほど何もできねーじゃんという条件。街が2つ出てくるのに登場するキャラクターが12体しか出せませんと言われたときの絶望感たらなかったですよ。『大きい街2つだけに絞ったのに、エッどうするの!?』って」(水島監督)

 つくりたい世界観に十分な3Dグラフィックを見せることはできない。そのために駆使したのが創意工夫、とんちのような技術だった。

「モーションは3Dでつくって、書き足しでごまかしたりとか。被写界深度をコントロールして、本来は奥までパンフォーカスできれいに見えていなければいけない場面をここにフォーカスをあてて、ここまでボカしましょう、いうのを指示して。奥にいるモデルの情報量を減らして、動きとかも制約をつけて……」(水島監督)

アニメ映画「楽園追放-Expelled from Paradise-」主人公のアンジェラを再現したCGを見る水島監督。近眼のためモデルを目の前に持ってきてもらったところ「アンジェラの股間が目の前にあります」

 そうして情報量を節約することで、ここ一番の場面で「決め」を見せられるように工夫した。3D空間を舞台にしているにもかかわらず、美術背景はすべて手書き。ちなみに主人公アンジェラ・バルザックはわずか3万ポリゴンだったそうだ。

「ケガをする」アニメをつくりたい

 ともあれ実際にVRを体験してみて、VRアニメの面白さに「可能性はすごくあるなと感じた」と水島監督。

 どういうVRアニメを作りたいかと福岡教授に聞かれ「ケガをする」ようなコンテンツをつくりたいと、ちょっと怖いことを言っていた。

「お客さんの視点をコントロールしながら没入感を与え、ドラマを体験してもらうのをちょっとやってみたい。(中略)リアルにケガをしてもらうのもいいかもしれない。驚いて後ろに倒れてケガをするみたいな」(水島監督)

 また3D空間でつくったモノが実際に3Dプリンターで出力されて受け取れるサービスなんかがあったら面白いんじゃないかというアイデアも。「すごいムキになって作ると思う」という水島監督が本気を出しているところが目に浮かんだ。

 またバーチャルリアリティはリアルな表現に注目されがちだが、写真のようなグラフィックスではなく、かなり粗いポリゴンであっても、デザイン次第で面白い体験をさせられるという点にも「夢がある」と感じたそうだ。

 対談を終えて、はー楽しそうだなーと思いながら、日本の映画・アニメは大丈夫かなーと若干不安にも感じた。

 というのも、Oculusが生まれたアメリカでは、すでにハリウッドやディズニーがVRにお金をつぎこんでいる(新清士さんが詳しい)。テクノロジー企業とエンターテインメント企業が共闘して世界戦略を立てるのはアメリカならではだなーと感じるが、まだ日本の映像業界でここまで大きな動きを聞いたことはない。

 先行するゲーム業界でも、日本の動きはじわじわという感じ。日本でVRまわりのイベントに足を運んでみても、耳に入ってくるのは「ビジネスにならない」「投資が少ない」。スマホゲームのgumiがインキュベーションプログラム「Tokyo VR Startups」を開始するなど、ようやくちょっとずつ動きが出てきた状況だ。

 アニメは日本の伝統芸能。対談の中で予算の話も出ていたけど、ディズニー・ピクサーをはじめとした3Dアニメ軍団がカネと人数にものを言わせてVRコンテンツをドカンドカン出してきたら、対抗しようはあるのだろうか。

 アニメをただ見るだけでなく、世界に入ってキャラクターとふれあうことのできるVRの世界。一度あちらの世界に行ったら帰ってこられなくなってしまうほど魅力的なアニメが、日本から出てきてくれたらうれしい。


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