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クラウドサービスの鍵となるストレージをOpenStackでもっと自由に

OpenStackのファイル共有サービス「Manila」とは?ネットアップに聞く

2015年11月18日 07時00分更新

文● 大谷イビサ/TECH.ASCII.jp 写真●曽根田元

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ネットアップが創設した「OpenStack Manila」プロジェクトは、OpenStackをベースとしたオープンソースの共有ファイルサービスになる。「OpenStack Summit 2015」の開催とあわせて来日したジョナサン・キサーネ氏とロバート・エスカー氏にプロジェクトの概要を聞いた。(インタビュアー TECH.ASCII.jp大谷)

クラウドアプリケーションに最適なOpenStackファイルサービス

大谷:Manilaプロジェクトが生まれたきっかけを教えてください。

キサーネ氏:クラウドは現在のビジネスにおいて大きなパラダイムシフトだ。これを利用するにあたっては、さまざまなOSSやITインフラの選択肢があり、OpenStackはその基盤になるものだ。パブリックやプライベートのクラウドを利用するのにあたって、お客様のワークロードは負荷になってきている。こうした中、Manilaのプロジェクトが生まれた。

米ネットアップ クラウドビジネス ジェネラルマネージャ Chief Strategy Officer ジョナサン・キサーネ氏

エスカー氏:Manilaにはクラウドが当初から有しているギャップを埋める目的がある。クラウドでアプリケーションを開発する中で、ブロックストレージと共有ストレージは大きな課題だ。

ネットアップはNAS製品でCIFS、NFSなどのサービスを提供しており、さまざまな強みも持っている。この強みを生かしてストレージ市場のリーダーとして、サービスとして提供するのがManilaだ。Manila自体はファイルシステムではなく、プロビジョニングやオーケストレーションの前段を担うコントローラーとして機能する。

ManilaはOpenStackプロジェクトの配下で構築されており、OpenStackとシームレスに統合されている。また、OpenStackのベストプラクティスをManilaに適用しており、NFSやCIFSのエンタープライズバージョンをサービスとして提供する。OpenStackの進化は速いが、そのスピードに追いつくような開発が実現できたと思う。最近、AWSはEFSのようなサービスをリリースしたが、Manilaは、それ以前に共有ファイルサービスとしてリリースしている。

大谷:Manilaの特徴はどんなものなんでしょうか?

エスカー氏:まずストレージにアクセスするためのAPIを使える。CinderとManilaはAPIが似ているので、クラウド系の開発者になじみがある。既存の管理フレームワークを用いて、共有ファイルサービスのメリットのすべてを引き出せる。

米ネットアップ シニアプロダクトマネージャー ロバート・エスカー氏

機能面では、排他制御がある。コンピューターサイエンスの課題として、同じデータに複数のユーザーがアクセスする場合は、ロックの問題が生じる。いわゆるオーバーライトに関わる問題だが、Manilaではシェアドモデルとして成熟したファイルシステムをクラウド上で提供している。従来はこうした課題を解決するため、開発者はわざわざ独自にスクリプトを作って共有ファイルサービスにアクセスしなければならなかったが、Manilaではこうした課題を解決している。

大谷:Manilaで想定している用途を教えてください。

エスカー氏:共有ファイルシステムのすべてのメリットを享受できるので、幅広い利用が可能だ。NFSでさまざまなデータにアクセスすることができるので、Database as a Serviceとしても利用できる。データベースのデプロイを繰り返しやらなければいけない場合、共有ファイルシステムで適切なパラメーターやアクセス権を付与するといったタスクを自動化することが可能だ。OpenStackと連携することで、ボタン1つでテナントにデータベースをデプロイするところまで作り込むことができる。

また、複数のユーザーでDevOpsとして利用することで、継続的なデプロイメントや統合が可能になる。クローニングの機能を使って、本番環境を検証し、開発に戻し、またデプロイするといったサイクルを継続的に行なえる。その他、コンテンツリポジトリやSaharaと連携したアナリスティック、VDIなどにも利用できる。

ManilaとData Fabricの関係、OSSへの取り組みは?

大谷:Manilaと御社が掲げるData Fabricの戦略と関係を教えてください。

キサーネ氏:Data Fabricはビジネスの価値のあるところにデータやワークロードを置くことで、お客様のビジネス価値創出を支援するというものだ。現状ではオンプレミスにデータを置いているところが多いが、ワークロードはすでにハイパースケーラーを使っているところも多い。Data Fabricのメリットは、ワークロードとデータをどこに振り向けるのか、サービスレベルやビジネス要件、性能、コストなどの要件によって、お客様自身が意思決定できるという点だ。

「ワークロードとデータをどこに振り向けるのか、お客様自身が自由に選択できる」(キサーネ氏)

最近はハイパースケーラーでテストし、OpenStackのクラウドにデプロイするというケースも増えている。こうした中、CinderやSwiftでは十分ではないという場合は、Manilaを利用するという選択肢がある。

エスカー氏:OpenStackを使う上で生まれるギャップは広がりつつある。ManilaはOpenStackと独立しても使えるが、このギャップを「標準」という観点で埋めるには、ManilaをOpenStackという場所で使うのがふさわしいという判断だ。共通のAPIやサービスを使うには、共通のData Fabricが必要だが、共有ファイルシステムでデータにアクセスできればハイブリッドクラウドを実現できる。具体的にはAWSのテストドライブとしてManilaを検証したり、オンプレミスからハイブリッドの形で使ったり、NPS(NetApp Private Storage)やCloud ONTAPの前段でManilaを利用することも可能だ。

大谷:ネットアップ自体のOSSに対する姿勢について教えてください。

キサーネ氏:ネットアップはお客様のニーズにフォーカスする企業だ。お客様がOSSをツールとして使うようになったことで、ネットアップもオープンソースのコミュニティに積極的に参加するようになった。これによってお客様のニーズに応じた製品を開発できる。ネットアップは既存の製品と同じようにOpenStackのようなイノベーションに投資を続け、ロブのような人間もOSSの第一人者としてコミュニティに貢献できている。われわれが標準を作り、イノベーションを促進することができることで、お客様もそのメリットを享受できる。

エスカー氏:私たち自体もOSSの消費者である。OSSは特定領域で勢いがあり、デファクトスタンダードになる技術も多い。OpenStackには今勢いがあるので、Manilaでクラウドストレージのギャップを埋めていきたい。

「OpenStackには今勢いがあるので、Manilaでクラウドストレージのギャップを埋めていきたい」(エスカー氏)

大谷:ManilaとOpenStack今後のプランについて教えてください。

エスカー氏:フューチャーセットがすでにいくつかあるので、この事例を増やしていきたい。たとえば、レプリケーションと組み合わせ、共通の災害復旧の仕組みを実現したい。また、デプロイメントに関しても、OpenStackを知らない人にも使えるように改善していきたい。あとは、メジャーなOpenStackのディストリビューションへの対応も進めていく。

キサーネ氏:お客様がクラウドを使い、ビジネスを伸ばす支援を進めていきたい。そのための主軸としてManilaを据えていく。

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