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「システム39」開始後1年間の軌跡

実際どうなの?ジョイゾーが始めた「定額制SI」の反響

2015年11月18日 09時00分更新

文● 川島弘之/TECH.ASCII.jp 写真●曽根田元

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――「システム39」は、最初のリリースの時から気になっていました。以前SIerにいたこともあり、「定額制SI」のインパクトとその反響を直接お聞きしてみたかったんです。というわけで本日はよろしくお願いします。

四宮:よろしくお願いします。

――まず、39万円という価格にした理由は?

四宮:サービスを開始するにあたって色々とテストマーケティングを行った結果、そのあたりの価格が適正だろうと。加えて、語呂がいいということで39(サンキュー)にしました。

――初回無料で全4回。実際の案件ではどのように進められることが多いのでしょう。

四宮:1回2時間でヒアリングを行います。その際、Excelなどがあれば実際に持ってきてもらって、kintoneならどうなるかをプロジェクタで見せながら進めます。実際には打ち合わせと実装とで2回で終わることも多くて。余った分で簡単な別アプリを作りましょうということもあります。そうすると当初の予定以上のものが作れるわけです。

――来店型にしたのは?

四宮:コスト的な理由ですね。従来のように、客先訪問、持ち帰り、技術者と相談ではムダも多い。そこで、来店型にして営業もかけないことで、価格を抑える形にしました。

 サイボウズさんに場所を借りてますが、社員の方に「これってどうでしたっけ?」って聞けたりするので、都合がいいんですよ(笑)。水道橋オフィスのころから「場所を使わせてもらえませんか?」とこちらからお願いしました。

「こんなやり方があるんだ」1年間の反響

――サービスを始めてから1年強が経つわけですが、反響はどうでしょう?

四宮:最初は同業者の反応が大きかったですね。「こんなやり方があるんだ!」と。「真似してもいいですか?」という声もありましたよ(笑)

――エンドユーザーの反応は?

四宮:立ち上げ時はサービスモデルが理解されず苦労したところもありましたが、大分「届いた」かなと。実際にサービスを提供すると、顧客満足度が高いんですよ。

――具体的にはどのような満足度ですか?

四宮:その場で作っていく「ライブ感」でしょうね。今までシステムの仕様を説明するのって「紙芝居」に近くて、絵でわかっても実際の動きはわからなかった。「システム39」だとその場で動きが見えるので、その時点でお客さまには感動があるようです。なおかつ、最初の取決めを超えてちょっとプラスで何か作ることも、追加費用なしでできるので、そのあたりが喜んでいただけていますね。

 「来店型」というところには正直不安もあったのですが、ふたを開けてみると、お客さまにも戸惑いはないようでした。

すべてをシステム化するのは得策ではない

――対象はやはり中小企業?

四宮:メインは中小企業ですが、大企業の一部門、例えば営業部だけでシステムを作りたいという場合も効果的です。

――どんなシステムを作るのに向いていますか?

四宮:kintone自体が自由度高いので、特にこういうシステムと限らずですね。実際、お客さまの業界もバラバラで、最近は保育園の経営支援システムを作りましたし、輸出業の受発注管理システムも作りました。

 あと、第一号ユーザーがソーシャルゲーム運営会社で、ゲーム内イベントを管理するシステムを作ったんですね。それ以前はExcelで管理していたものを、初回の打ち合わせでシステム化したら、その日に採用を決めていただいて、2日後の打ち合わせで完成してしまった例もあります。

 決してそれだけというわけではないのですが、やはり「Excelからの移行」が分かりやすいかもしれません。

――逆に難しかった案件はありましたか?

四宮:そうですね。例えば、Excelでマクロがガチガチで、画面も複雑に作りこんであって、そのままシステム化したいというお話があったんですけど、それはさすがに「システム39」の範囲でやるべきではないと判断しました。

 ほかにもすべてをシステム化するのはオススメしていません。お客さまは「すべてを自動化したい」と思われがちですが、ガチガチにシステム化すると、逆に業務の変化に柔軟に対応できなくなります。最初はシンプルに、運用を工夫したり、あとから機能を後付けしていく方がうまくいきます。

 システム化が弊害となりそうなところは「やめましょう」と言えることが、このビジネスでは重要で。こういうモデルだからこそ、「言われたものをそのまま作る」ではなく「しっかり考えながら作る」。そういう姿勢が求められると思います。初回の無償打ち合わせで、そういう判断ができるのが、リスクヘッジでもあるわけです。

従来型SIとの住み分け「問題ない」

――そこも従来型SIとの違いですね。

四宮:そうですね。今までのSIは発注側と受注側という妙な上下関係がありました。我々はそうは考えてなくて、あくまで対等の立場。業務のプロとシステムのプロで一緒にいいものを作りましょうという意識です。来店型にしたのはそういう意味もあって。「とにかくお願いしたものを作って」というお客さまだと、この開発スタイルは合わないと思います。

――とはいっても、顧客の意識としてはそうじゃないことがまだまだ多いのでは?

四宮:「システム39」では、その場で物事を決めていくために、決裁権のある方に打ち合わせに来てもらうのですが、そういう方は「変えていかなければ」という意識が高くて、積極的になってくれます。「これなら自分たちでもできるんじゃないか」と面白がってくれたり。

――なるほど。もしかしたら過去に要件をガチガチに固めるSIで“痛い目”にあった経験もあるのかもしれません。

四宮:ええ、中にはいらっしゃるかもしれませんね。

――正直、従来型のSI業界からの反応が気になっていたんです。もしかしたら「反発」とまではいかなくても、それに似た反応があるんじゃないかと。

四宮:特に「反発」はありませんでしたよ。というのも、すべてを「システム39」でカバーできるとは思っていなくて、例えば、1万人が使うシステムを作れるかというと難しい。そうではなく、今まで中小企業がちょっとしたシステムを入れたくても、200万円~300万円ほどかかってしまうという状況を変えたい、と。そういう意味で、従来型SIとはうまく住み分けできているんだと思います。

この開発モデルを全国に広げたい

――ビジネス状況はいかがですか?

四宮:順調ですよ。SI業界はストック型ビジネスが求められるけどなかなか難しいという状況があります。そうした中で、「システム39」も基本的に1回ずつ完了するわけですけど、リピートがあったり、定期的に案件が流れてくるという意味で、ストック型に近いビジネスができています。

――ビジネス上の課題を挙げるとすれば?

四宮:人材でしょうね。「システム39」担当は現在3~4名ですが、案件ごとに1人で一月半ほど付きっきりになるので、人がいないとビジネスとしてスケールしません。

――人材についてはどうしていきますか?

四宮:いくつか考えていて、1つは「ワーキングマザー」です。「1回2時間」のスケジュールが調整できれば、例えば、出産して職場復帰したいけど時間が取れないような方の活躍の場になるのではと。

 実はすでにワーキングマザー2名に手伝ってもらっています。まあ、1人は私の嫁なんですけども(笑)。場所もこのサイボウズオフィスだけでなく、Skypeでやったりもしているので、自宅で働けますし。お客さまもテレビ会議への抵抗感はもうほとんどないように感じます。

 あとは「地方」ですね。地方って公共の開発案件しかなかったり、色々疲弊してしまったりするので、地方のSIerあるいは個人事業主に、起爆剤として「システム39」を利用してもらえればなと。

――今後、どう展開していきたいですか?

四宮:一番は、このモデルを全国に広げたい。今までのSI業界を変えるというと仰々しいですけど、こういう開発スタイルもあるんだと知ってほしい。

 僕自身、情シスや小さなSIerで働いてきて、SIとかシステムに対する顧客の不信感は感じていました。要望したものができないとか、実際に使えないとか。でも「そうじゃないんだ」と。「システムってちゃんと作れるし、使えるものなんですよ」と分かってほしいので、そのきっかけに「システム39」がなればいいなと思いますね。

――本当に、双方が幸せなSI業界になっていってほしいですね。本日はありがとうございました。

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