3D空間を伝えるのが難しいからこそ熱くなる
このゲームは、とても熱くなる。筆者も1回プレーしたが、プレー開始当初はVRゴーグルを通じて、見えている迷路をどのように表現すればいいのかで非常に苦戦した。
「今は、自分は行き止まりにおり、右側には壺があり、左側には壁に絵が掛けられている。ひとつ前のブロックは分かれ道になっており、さらにその向こうはT字路になっている……」(筆者)
3D空間をほかの人の言葉でわかるように伝えることは、非常に難しい。しかも、60秒という制限時間はかなり厳しく、あっという間に時間が経ってしまう。盤上のコマで作られた通路は、明らかに見ていたものと形が違っていたりした。また、説明が不十分で、描写が足りないと感じられるものもあった。
9回のトライアル終了後、盤上にはどう見ても、そのままではつながらないルートが多数できあがった。しかし、お互いに思い出しながら、ありうる可能性を検討していった結果、7割程度は絞り込むことができた。残った3割は、こうに違いないと推理に賭けて強引にルートを作った。いざ答え合わせをしてみると、何と正解で、冒険者は無事、ゴールにまでたどり着いた。この瞬間はかなり感動的だった。
VRの抱える問題解決にもつながる
濱田氏は、タワー・オブ・メイズではゲームデザインの工夫によって、今のVRの抱えている課題をいくつか解決できたと考えている。
ひとつ目は、VR酔いの問題だ。VRゴーグルのコンテンツ制作者は、どうやって車酔いに似た現象であるVR酔いを抑えるのかという課題に直面している。通常のゲームのように、3D空間を歩くとVR酔いが起きてしまう。
だが、タワー・オブ・メイズは、VRゴーグルで見ることができる迷路内では移動ができず、周囲を見渡すことしかできないため、酔いにくい。また、迷路を1回に見ることができる時間も60秒と短時間であることも、酔いにくくしている。
2つ目に、VRではほかのプレーヤーと、情報が共有できずに、1人きりの体験に陥りやすいという問題の解決だ。VRゴーグルをプレーヤーが順番に渡していく仕組みにして、残りのプレーヤーは迷路を推測する役割にすることで、参加者全員がゲームクリアに向けた目的を共有することができる。またボードゲームであるために、プレーヤーの中央にあるボードが、情報を共有する場の役割を果たしている。
これらの工夫によって、VRゴーグルを使っているにもかかわらず、4人のプレーヤーが新しい体験をしつつ、十分に楽しめる内容になっている。
7月から試作開発を続けており、数多くの人にテストプレーしてもらい、現在のゲームシステムができていったそうだ。現在のVRの画面は、シンプルな映像だが、ゲームシステムがほぼ完成に近づいているため、今後は舞台を遺跡や美術館にするなど、凝ったりする段階に入るという。
どのスマホでも、手軽にVRを見ることができるダンボール製のハコスコの付属も検討しているという。そのデザインもゲームを盛り上げるように意匠を凝らしたものにしているようだ。
2016年3月に、日本で発売を予定しており、将来はボードゲームの本場ドイツといった地域への売り込みも検討している。
こうした非対称性ゲームは、欧米圏のVRゲームでも注目を集めている。
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