断片化した複数の「私」の意見が散逸するネット空間
よく、ソーシャルメディアでは一人の人物が本アカと複数のサブアカを持ち、それぞれを適宜使い分けていると言われる。なかにはアルバイトで偽アカを取得し、特定サイトの記事をリツイートしまくっているというケースもあるらしい。
インターネットにおける言説がそうした複雑な状況であることはすべて承知した上で、では、本アカが唯一無二の“本当の自分”に準拠しているのかというと、それもはなはだ疑問なのではないかと思うのである。
なぜなら、人間の本質が“分割可能な複数の分人”であると仮定すると、ネット空間では一人の人物の発言といえども、モジュール化した複数の私の発言として、断片化している可能性が極めて高いからだ。
従って、インターネットにおけるさまざまな意見や見解の外見的な量=投稿数やコメント数などをそのまま「そういう意見を持った人の数」と単純に算定することはできない。
どんなメディアでも表面的な熱量と実際の人的規模は異なるが、無数の人々の“分人”が可視化されるインターネットでは一層その傾向が強い。
だからインターネット上の主張の多寡がそのまま投票結果には結び付かないし、決して国民的な人気とは言えないようなスポーツの結果が一瞬肥大化して見えるときもある。関心の強弱や濃淡が排除され、大多数の人達が注目する一大事のように扱われるトピックもあるだろう。誰の中にもマジョリティー的な要素とマイノリティー的な要素は共存しており、断片化したそれらが時と場合によって、もしくは売り言葉や買い言葉としてネット空間に拡散されていく……。
著者紹介――高橋 幸治(たかはし こうじ)
編集者。日本大学芸術学部文芸学科卒業後、1992年、電通入社。CMプランナー/コピーライターとして活動したのち、1995年、アスキー入社。2001年から2007年まで「MacPower」編集長。2008年、独立。以降、「編集=情報デザイン」をコンセプトに編集長/クリエイティブディレクター/メディアプロデューサーとして企業のメディア戦略などを数多く手がける。現在、「エディターシップの可能性」をテーマにしたリアルメディアの立ち上げを画策中。本業のかたわら日本大学芸術学部文芸学科、横浜美術大学美術学部にて非常勤講師もつとめる。
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